《不用なし方》第10話

高校三年生になり、偶然にも同じクラスになった二人だったけれど、互いに心中は複雑だった。

「栗林さん」

怪我が原因で気まずくなり、なんとなく今までのように名前で呼べなくなった優希は彼を苗字で呼んだ。拒絶されたようにじた亜も、苗字で呼ばないといけないような気がして……周囲は二人の関係の変化に嫌でも気付かされた。

腫れるような対応をしていた教師たちにも嫌気が差したのか、優希の問題行はエスカレートいていく一方で、柄の悪い友人たちと行をともにし、暴力沙汰で両親が學校に呼び出されている姿を亜何度も見掛けた。 

そんなある日。

が部活を終えて昇降口にやってきたときだった。

「栗林さん、今帰り?」

聲を掛けてきたのは、最近優希とよく一緒にいる柄の悪い同級生の一人。とはいえ、クラスは違うし接點もないので名前は知らないし、話したこともない。

「え……あの……?」

名前すら知らない男子に行く手を阻まれ、が恐怖に震えだす。

「クッキング部なんだって? 今日はなにを作ったの? なんか甘い匂いしてる」

部活で作ったものをしがっているだけなのだろうか? だったら、あげればすぐに解放してもらえるかもしれない。

が鞄に手をばしたとき、男子の手がその手首を摑んだ。

「え」

驚く彼を強い力で引っ張っていく。その方向には明かりの消えた教室が並んでいるだけだ。

不安になって力いっぱい抵抗してみるけれど、男子の力には敵わない。絶じながらも諦めるものかと抵抗を続ける亜に、足を止めた男子が空いているほうの手を振り上げた。

毆られる……?!

すぐに襲ってくるだろう痛みを覚悟してぎゅっと目を瞑ったとき……。

「そいつに手ぇ出すのナ~シ」

靜寂とを破るおちゃらけた聲が廊下に響く。

「優希……?」

怪訝そうな顔をした男子の手から力が抜けて、亜は摑まれていた手首を押さえながらその場に座り込んだ。恐怖から腰が抜けてしまったのだ。

「それ、俺の獲

……。彼はそんな言葉を使う人ではなかったはずだ。

しかし、今の彼は本當に獲を狙っている食獣のような眼をしている。

こんな優希くん……私は知らない。

震えるを抱き締めるようにして亜は彼を見上げていた。

その間、二人がどんな話をしていたのかは記憶にない。気がついたときには、最小限の明かりしかない廊下に二人だけが取り殘されていた。

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