《不用なし方》第17話
「花ちゃん、今度花ちゃんの家に泊まりにいっちゃダメかな?」
ある日の午後、佳山と途中で別れて二人で歩いているときに亜は思い切って彼に尋ねた。
「え?」
いきなりの言葉に花が目を丸くする。彼がそんなことを言うのは初めてだった。
「々気になってることがあるのに……今のままじゃなにも分からないから」
沈んだ亜の表を見て、駄目だとは言えなかった。
「……いいよ。おばさまに許可もらったらね」
亜の中の疑問は膨れ上がるばかりで、なにひとつ解決していない。花にもそれは分かっている。けれど、亜の母から優希のことを口止めされてしまったためになにも言えずにいたのだ。
『岸さん……今のあの子には優希くんやか彼の家族に関する記憶が一切ないの。お願いだから彼のことは言わないで。思い出してしまったら、あの子の笑顔が見られなくなってしまう気がするの』
亜の母が涙を浮かべながら懇願してきたときに花は頷いてしまった。
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しかし、隠すばかりでは亜のためにならないことも分かっている。花も亜への対応に悩んでいたのだ。
事故現場に差し掛かって、一瞬だけ花の表が強張る。しかし、當事者である亜はここで事故に遭ったことを覚えていないようで普段と変わらない様子だ。
「……そういえば、この間佳山くんが買ってきたケーキのお店、この近くなんだよ」
「え、そうなの?」
「佳山くんもって今度食べにいこうよ」
「うん」 
返事をした直後、誰かに見られているような気がして、亜は視線を彷徨わせた。
「亜?」
駅前のロータリーで亜をじっと見つめる人がいた。足を止めて記憶を探るけれど當てはまる人はいない。多分……初めて見る顔だ。
整った顔立ちの青年はなにか言いたげな表で亜だけを見つめている。傍にいる花には気付いてもいない様子だ。
青年は寄り掛かっていた壁から背中を離して二人の方へと歩いてきた。それに気付いた花が近付いてくる青年から庇うように亜の前に立つ。
「久しぶりに見たな、亜さんのそんな明るい顔」
「あんた、誰?」
警戒したように花が目の前の人を睨みつける。
花が警戒しているのを見て、やはり面識のない人なのだと亜は考えた。 
「あ……そっか。今の亜さんには初めましてな存在なんだっけ……」
目の前の人は悲しげに微笑んで、心を落ち著かせるようにし眺めに瞼を閉じた。
「……亜さんは、記憶が戻らないほうが幸せだよ。なくなって良かったんだ。その笑顔を見たら一層そう思った。だから……無理に思い出そうとしないほうがいい。俺が言いたいのはそれだけ。じゃ」
小さく手を振って青年は駅の中へと消えていった。
「なに、アイツ?」
花が去っていく青年の背中を睨み付ける。
「記憶が……戻らないほうが幸せ?」
それはどういう意味なのだろう? どうしてそんなことを言うのだろう?
亜の中で更に疑問が膨らむ。
それに……あの人は誰なのだろう? 花ちゃんと面識はないようだけれど、私のことを知っている……ということは、もしかしたら……い頃からの知り合いかもしれない。
花ちゃんとは高校からの付き合いなのだから、稚園や小學校、中學校の同級生で違う學校に進學した人たちのことは知らなくてもおかしくない。
記憶にない人から聲を掛けられたのは初めてだったのに、名前を訊くことすらできなかったことが殘念でならない。足早に去っていった彼が、再び聲を掛けてくれるとは思えなかった。
大學に再び通うようになってからは、花が亜を家まで送るのが日課となっている。
事故の後初めて大學へと向かう際に、亜が道に迷って花に連絡したことが起因していることは間違いないけれど……亜の記憶が欠如していることと、通學の際に必ず事故現場を通過することを心配している母に頼まれたのではないかと思っていた。
本人は自分がしたくてしているのだと否定するけれど、そこには母からのお願いが含まれていると亜は思っている。
インターホンを鳴らすと、母が玄関先まで出てきて、無理に作った笑顔を張り付けて亜を迎えるのだ。
「いつもごめんなさいね、岸さん」
「いいえ、私が好きでやってることですから」
ぎこちない笑顔での會話は空々しく聞こえる。
二人にそんな顔をさせているのは自分なのだ、とが痛んで……亜は二人から視線を逸らした。
失った記憶を取り戻したい。
自分の回りの人たちが無理をしている姿を見る度に亜の思いは強くなっていくのだった。
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