《不用なし方》第22話
「松澤 優希」
三人は座れるベンチを獨り占めして寢転んでいた優希の傍で誰かが足を止めた。うとうとしていた優希が不機嫌そうに瞼を持ち上げると、見覚えのない顔がそこにある。
「高校時代に長距離の記録を出したやつが……確か、そんな名前だった気がする」
よく見れば、その人は陸上部のウィンドブレーカーを著ていた。
「……それが?」
「お前、本人だよな? この間の走り見て確信した」
この間というのは、數日前に亜のいる場所を目指して猛ダッシュしたしたときだろう。
「もう一度、陸上をやる気はないか?」
自分が事故前のような記録を出せなくなっていることは高校時代に痛している。  今更もう一度チャレンジをする気にはなれない。
「他を當たれよ」
「栗林 亜」
男の口にした名前に優希のが小さく震える。
「彼、事故に遭ったんだって?」
男は優希に睨まれてもじない。
「記憶がないそうだな。いつも応援してくれていた人間を失った気分はどうだ?」
Advertisement
「てめ……っ」
「その記憶、取り戻させようとは思わないのか? その程度の想いしかないのか、お前には?」
挑発するような口調に優希は拳を握り締めて飛び起きた。
「俺が見たお前たちは、そんないい加減で薄っぺらな関係には見えなかった。けど……気のせいだったか」
軽蔑するような眼を優希から逸らしてわざとらしい溜め息を吐く。
「てめぇになにが分かるってんだよ?」
「なにも分からねぇよ。負け犬になったことはないからな。これからだってなるつもりはないし、そんなけないヤツの気持ちなんて分かりたくもない。どうせ言い訳ばっかりだろ」
負け犬という言葉に優希はカチンときた。
「あ?」
「怪我を言い訳に陸上から逃げて、記憶を失った彼からも逃げてるお前の気持ちなんか分かるはずがない。分かろうとも思わない。ただ……彼を不憫に思うだけだ」
「なにが言いたいんだよ?!」
男がなにを言いたいのか理解できずに、優希は苛立ちをにして拳を座面に叩き付けた。
「お前は努力したのか? 自分が怪我をしたときも、彼が事故に遭ったときも?」
「……」
完全には治らないと言われてリハビリを放棄し、荒んだ生活をしていた優希はなにも言い返せない。
「お前が走ってれば、関わらなくてもお前の名前が彼の耳にる可能が高くなる。記憶が戻る確証はないけど、なにもせずにただ腐ってるよりは何十倍もマシだと思っただけだ。……この間の走りならうちの部員數人にも勝てるような気がしたし。まぁ、気のせいだろうけど」
最後の一言が一々余計な気はしたけれど、目の前の人が自分を陸上にっているのは間違いない。
「俺が、走れると思って聲掛けてきたのか?」
「やる気がなきゃなにをしても駄目、というか無駄だろ」
「一番足の速いヤツ、誰だ?」
「俺」
目の前の男は平坦な口調でそう言って優希に背を向けた。
「無駄足だったか……」
「來週」
「は?」
「來週いくから首洗って待っとけ」
今の自分が本気で勝負をしたところで目の前の男に勝てるとは思っていない。が、勝負をせずに負けを認める気もない。一週間程度で勝負ができるコンディションに持っていけるとも思っていない。
さらにいうならば、陸上を再び始めたところで、そう簡単に亜の記憶が戻るとも思ってはいない。
けれど……目の前にいる男の言葉を聞き流すことはできなかった。ほんのしでも可能があるのならば、やってみたいと思ったのは確かだ。
怪我をした後、優希はなにかにチャレンジするという気力もなく、ただラクな方へと流されてきた。大學進學もそのひとつだ。自分からなにかをしたいと思うのは、怪我をしてから初めてかもしれない。
現狀、直接會ったり話し掛けたりするのは難しい。けれど……もし、目の前の男が言う通り、陸上を再び始めることで噂にでもなれば……彼の耳に名前が屆くかもしれない。興味を持ってもらえるかもしれない。
亜が記憶を取り戻せば、優希を怖がって避けるようになるかもしれない。それでも、彼は亜がむのであれば記憶を取り戻す手伝いをしたいと思った。
あの日……木からの転落事故の後、彼をお門違いに責めたことを謝りたかった。許されなくてもいい。嫌われても仕方がない。心との傷は消えないかもしれない。それでも……彼のせいではなかったのだと、あれは本心ではなかったのだと訂正したかった。
周囲が彼の記憶を取り戻すことに消極的ならば、けるのは自分しかいない。
なにかを決意したような優希の様子に、男はこっそりと小さなガッツポーズをしたのだった。
あれ、なんで俺こんなに女子から見られるの?
普通に高校生活をおくるはずだった男子高校生が・・・
8 112先輩はわがまま
岬次郎(さきじろう)は、一人暮らしの大學二年生。 それなりに満喫していた大學生活で、彼には悩みがあった。 それは、わがままで自分勝手な先輩、間宮御子(まみやみこ)に事あるごとにちょっかいを出される事。 しかし、そんな先輩の様子がおかしい? 果たして、先輩と次郎に何があったのか! わがままで自分大好きな年上の先輩とのドタバタ日常ラブコメディー! 毎日更新中!
8 137後輩は積極的
同じバイト先の女子高生の後輩は、すごく積極的。 しかし、主人公はそんな彼女の思いに気が付かない。 いつまで経っても、自分の思いに気が付かない主人公に彼女はとうとう最後の手段に!? 「先輩はわがまま」のスピンオフ作品です! 前作も見ていなくても楽しめますので、よろしくお願いいたします。 不定期更新!
8 129僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜
僕の幼馴染で姉的な存在である西田香奈は、眉目秀麗・品行方正・成績優秀と三拍子揃った女の子だ。彼女は、この辺りじゃ有名な女子校に通っている。僕とは何の接點もないように思える香奈姉ちゃんが、ある日、急に僕に急接近してきた。 僕の名は、周防楓。 女子校とは反対側にある男子校に通う、ごく普通の男子だ。
8 133家族に売られた令嬢は、化け物公爵の元で溺愛されて幸せです~第二の人生は辺境地でほのぼのスローライフを満喫するので、もう実家には戻りません~
「レーネが売れた! 化け物公爵が娶りたいと言ってきたんだ!」 家族に虐げられていたレーネは、祖母が殘した形見の薬草と共に、化け物と恐れられる獣人、マーベリック公爵の元に嫁ぐことを決意する。 決して不安がないわけではないが、狂気に満ちた笑顔で人の不幸を喜ぶ家族の方が化け物に思えて仕方なかった。 「早く出ていけ。目障りだ」 すでに自分の居場所がないと悟るレーネは、祖母とのある約束を守るため、化け物公爵の元を訪ねる。 しかし、黒い噂が流れる殘虐な公爵様の姿はなく――。 「嬢ちゃん。今は無理せずに休むべきだ」 「無理は良くない、奧方。筋肉が悲鳴を上げている」 屋敷で働く家臣の獣人たちに親切にされ、傷ついた心が癒されていく。 もしかしたら、本當の旦那さまは優しい人かもしれない。 會えない気持ちで思いが募り、妄想という名の戀心が芽生え始めるのだった。 「はぁ~。私の旦那さまはいったいどこに……」 一方その頃、レーネを売り払った家族の元には、なぜか次々に災難が押し寄せてくることになり……? ※この作品は他サイトにも掲載しています。 【無斷転載禁止】小説投稿サイトやYouTubeに載せないでください。
8 153聖女のわたくしと婚約破棄して妹と結婚する? かまいませんが、國の命運が盡きませんか?
リリアベルは、生まれつき身體に百合の紋章を宿した聖女だった。 けれども、人の感情がオーラとして見える特殊能力があるのを、婚約者のアーサー公子からは疎ましく思われている。 「お前とは婚約破棄して、妹のララローズと結婚する!」 華やかな仮面舞踏會の夜、とうとう高らかに宣言される。 その上彼は、聖女の証まで噓だと疑ってきて……? 「今ここでドレスを脫ぎ、印を見せてみろ」 乙女の肌を大衆の目にさらすわけにはいかない。 抵抗するもむなしく、背後から捕えられ、絶體絶命のピンチに――。 「やめろ!」 そこへ、仮面をつけた見知らぬ男性が現れたのだった。 ※2022/11/17異世界戀愛日間ランキング11位・総合日間13位・総合日間完結済4位 応援ありがとうございます。 ※第一部だけでも婚約破棄がテーマの短編としてお楽しみいただけます。 ※第二部は後日談的な位置づけとなります。 ※2022/12/02カクヨム様にダイジェスト版の掲載をしました。
8 145