《不用なし方》第32話

は亜が地面に倒れ込まないように支えながら呼び掛ける。

!」

の慌てた聲に気付いた優希が走って戻ってきた。岡部も一緒だ。

「おい、どうした?! 、なにをした?!」

の腕から掻っ攫うように亜を奪って睨み付ける。

「俺はなにも……っ、誰かを薄っすら思い出したって言った直後に……」

「なにも考えるな、なにも思い出そうとするな、そうすれば多分ラクになる」

優希は亜を抱きしめながら彼の耳元で優しく語り掛ける。

「や……だ、忘れたままは……嫌……」

冬の屋外で寒いはずなのに、亜は額に大粒の汗を浮かべていた。

「醫務室に……!」

「お前は駄目だ!」

を抱えようとした優希を岡部が慌てて止める。

「俺が連れていく」

岡部は亜を軽々と抱き上げて優希を見た。

「……あとから目立たないようにこい」

岡部の言葉を聞いて、優希の表が落ち著いたものに変わる。

、裏からいくぞ」

「え?」

岡部の背中を見送っていたが怪訝そうな聲を出す。

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「大學で関わってなかったのに、アイツを抱えて走れば々と言うヤツが出てくる」

「あの人はそれを知ってた、ってこと?」

「話したわけじゃねぇけどな」

優希は岡部とは正反対の方向へと歩いていく。

走って追い掛けたい気持ちはあるけれど、それをすれば周囲は何事かと野次馬神丸出しで面白がって追い掛けてくるかもしれない。今まで悪い意味で目立ちすぎたのだ。

優希は、しでも悪い方向に可能があるとじたら、その方法は選択しないと決めている。

二人は人通りのない通路を使い、遠回りして醫務室の近くまでやってきた。

「醫務室の前、人がいるよ?」

「問題ない」

優希は醫務室の手前で足を止めて、隠れるように角を曲がる。壁に沿うように並んだ引き戸のひとつに背を預けてポケットから取り出した攜帯電話を短く作すると、ししてから優希が寄り掛かっていた引き戸が小さな音を立てた。

「え?」

は理解できないといった顔で優希を見る。

「攜帯で解錠できるの?」

「んなわけないだろ」

そっと引き戸を開けてり込ませる。真似るようにがそのあとに続く。

「くると思ったわ」

薄暗い室の聲がして、誰もいないと思っていたが驚きで震えた。

「どうだ?」

「頭痛が酷そうね。一先ず親さんには連絡したけど」

 は明かりのある方へと向かいながら淡々と話している。

「どうにかできないのか?」

「ん~、面倒臭いから細かい説明は省くけど、醫務室って々と制限があってできることが限られてるのよ」

明るい部屋に足を踏みれると、話していたの顔がはっきりと見えた。

「あ」

どこかで見たことがある顔だとは思う。しかし、瞬時には思い出せない。

「あら、誰かと思ったら弟くんじゃない。大きくなったわねぇ」

は一目見てが弟だと分かったようだ。

「兄ちゃん、この人……?」

「足を怪我したときに世話になった大沼先生だ」

優希が怪我をしたとき、は毎日のように病院に足を運んでいた。顔を覚えられていても不思議はないけれど、もう何年も前の話なのに、と彼の記憶力のよさに驚く。

一方……優希は不安に襲われていた。

の親に連絡がいけば、どうしてこうなったのか問われるだろう。そのとき、亜が正直に陸上部を見ていたと答えたら、彼の母親がどんな行に出るのか……優希には最悪の想像しかできなかったのである。

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