《不用なし方》第40話

「亜~っ」

キャンパスに足を踏みれた途端に聞き慣れた聲がした。聲の主を探そうと辺りを見回していると、こちらに向かって走ってくる花の姿を発見。

「あけおめ、ことよろ~っ」

勢いよく抱きついてきた花のを、足を踏ん張ってけ止める。

「あけおめ、今年もよろしく」

年始の挨拶を終えると、花が亜の顔を両手で挾んでじっと見つめてきた。

「……花ちゃん?」

「なんかあった? 冬休み前と顔が違う」

「整形はしてないよ?」

「そうじゃなくてっ、なにか思い出したの?」

思い出したことは特にない。亜は戸いながら首を橫に振った。

けれど、言葉では上手く説明できないような小さな小さな亜の変化を花は見逃さなかった。

「先月倒れたあと、絶対になにかあったよね?」

は花の言葉にどう答えようかと考えた。

大學で倒れたことは、翌日大沼にお禮をいいにいくときに話をしていた。けれど、そこからの母の変化についてはまだ話していない。

「思い出したことは……正直、なにもないんだ。でもね……」

が話そうと口を開いたところで周囲が急にざわついた。その視線は大學の目の前にある橫斷歩道の方に向けられている。亜も気になってその視線を追うように橫斷歩道の方へと視線を移した。

「あ」

優希だ。

年配のを支えながら手を上げて、車に停車を求めながらゆっくりと橫斷している。おそらく、年配のは信號が変わるまでに橫斷歩道を渡りきれなかったのだろう。

渡りきったところでにお禮を言われたのか、優希はくすぐったそうに笑っている。

「優希、やっさしぃ~」

「一人でイイカッコしやがって、羨ましいぞっ」

年配のから離れた途端に友人たちに囲まれる優希を、亜は微笑みながら見つめていた。

し口は悪いけれど、やはり優しい人なのだと思う。

「亜……アイツのこと、思い出したの……?」

の視線に気付いた花が張しながら問う。

「え?」

思い出すって……なにを?

「あ、な……なんでもない」

花は慌てた様子で手を振って言葉を取り消そうとしているけれど……聞いてしまった亜の記憶までは消去することはできない。

きっと、訊いても正直に答えてはくれないだろう。

二人の間に気まずい空気が漂い始めたとき、優希と友人たちが賑やかに歩いてきた。

ふと、集団のなかにいる優希と視線がぶつかる。心臓が飛び出しそうなくらい大きく弾んだ。

優希の手が小さく振られた気がして、自分も振り返そうとしたけれど、亜の手が持ち上がる前に集団は目の前を通過していく。

行き場のなくなった手をの前で抱きしめながら集団を見送った直後、自分の意思とは関係なくがくるりと回転した。

「亜……絶対になにかあったよね? あとでゆっくり聞かせてもらおうか」

の肩を両手で摑んだ花が、怖い笑みを浮かべていた。

「花……ちゃん?」

「あとでラウンジ集合ね」

「あとで?」

「ゆっくり聞くなら全部の講義が終わってからでしょ」

本気でゆっくり聞く気のようだ。

はおとなしく頭を縦に振るしかなかった。

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