《不用なし方》第43話

「俺はお前と違ってサボってるわけじゃない。なぁ、そうだよな修?」

「まぁ……今回に関しては僕たちが話を聞くために訪ねたからね」

佳山が岡部の言葉に頷くけれど、優希は睨むような険しい眼を男二人に向けている。 

「あの……練習の邪魔をしてしまってすみません。うるさかったですよね?」

岸の笑い聲がうるさいのは今更だろ」

「あ、ちょっと待って、私?! 私なの?!」

優希の口から花の苗字がサラリと紡がれて、亜はよく分からない疎外を覚えた。

……どうして、花ちゃんの苗字を知っているの?

「亜?」

「……二人は、知り合いなの?」

モヤモヤしたものが込み上げてくるのが分かる。

「え?」

岸って……今更って……」

二人が知り合いだったなんて聞いていない。

揺で震える手を抱きしめながら俯く。

「知り合いもなにも……お前も含めて同じ高校だったからな」

隠す気もない言葉に亜は顔を上げた。

「ゆ……優希さんも同じ高校だったんですか?!」

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「知らなかったのか?」

「……知らないです。今、初めて聞きました」

優希は花に問うような視線を向けたけれど、逆に睨まれて怯んだ。

「ちょいちょいちょいっ、そこの二人! ちょっとばかり説明を求めたいんですけど?」

「あ?」

「あ? じゃないでしょうが! なんで亜があんたの名前知ってんのよ?!」

鬱陶しそうな優希の返事が気にらなくて花の口調が荒くなる。

「正月に初詣で偶然會って、互いの両親公認で自己紹介したんだよ」

自己紹介が両親公認というのも妙だとは思うけれど……事実なのだから仕方がない。それに、気のせいかもしれないけれど……彼にはあのとき自己紹介をする気がなかったように見えた。名乗るように促したのは彼の母親だ。

「え? おばさまが、名乗ることを許したってこと? なんで?」

「知るかよ、俺に訊くな」

の目には花と優希はなんでも言い合える親しい関係に見えた。もしかしたら、元々仲が良かったのかもしれない。

は自分のせいで二人が疎遠になってしまっていたのではないかと申し訳ない気持ちになった。

「栗林さんのお母さんの心境に変化があったのは間違いなさそうだね」

優希の話を聞いて、佳山が顎に手を當てながら呟く。

岡部は不思議そうに首を傾げているけれど、その隣に立つ優希は亜の母の変化を目の當たりにしているので小さく頷いていた。

「せっかくだから、栗林さんもお母さんにしずつ話していくのもいいよね」

「どういうこと?」

佳山の提案に花が眉を曇らせた。

「同じ大學に通ってるんだから、初詣で會った人を"見掛けた"ってなにもおかしくないからね。……ま、僕としてはそのチャンスが永遠に消えてしまった方がありがたいんだけど……栗林さんは思い出したいんだもんね?」

冗談のような本気のような言葉に、亜はどう反応していいのか困ってしまう。多分、頷いた方がいいのだろう。けれど、なんとなく頷きにくい。

友人の一人として普通に接してくれてはいるけれど……彼は亜際を申し込んだことがあると花から聞いていた。亜は覚えていないけれど、彼の言葉を簡単に流せないのはそのせいかもしれない。

「ちょっと意地の悪いこと言っちゃったみたいだね。ごめん、栗林さん」

の表を見て佳山が申し訳なさそうに言った。

佳山の手が亜びてくる。しかし、頬にれる寸前のところでその手が叩き落とされた。

るな」

「そんなことを言える資格が君にあるのかな?」

普段の佳山からは想像できないくらいに冷たい視線が優希に向けられる。

以前、接點はないけれど嫌われていると言っていた佳山だけれど、亜の目にはお互いにいい印象を抱いていないように見えた。

「そこの二人、亜が困ってるでしょうが」

の表を見た花が男二人の間に割ってる。

「あ、びっくりさせちゃったかな? 彼は誰が相手でも喧嘩腰だから、どうしても険悪そうに見えちゃうんだよね」

「は?」

佳山の言葉に優希の眉が上がる。

「確かに、コイツは俺に対しても喧嘩腰だな」

岡部が佳山の言葉に大きく頷く。

「おい」

「彼はこういう話し方しかできない人なんだと思っておけばいいと思うよ」

佳山は優希の聲を無視して亜に微笑んだ。

確かにぶっきらぼうというか、言葉足らずというか……言葉にするのが苦手な人だとは思う。

先月、無心で走っているいるときに腕を捕まれたことを思い出した。がいてくれなかったら、彼の本心を知ることはできなかっただろう。

しかし、どんなに言葉足らずでもつっけんどんでも、優希も佳山も優しい人だと思っている。

「大丈夫、みんなが優しい人なのはちゃんと分かってるから」

記憶がなくても、関わっていくことでいくらでも相手を知ることができる。なくとも、亜の周りにいる人たちはみんな亜を心配して気遣って、亜のためを思って盡くしてくれていた。言葉はなくてもそれは常にじられる。

「亜、大好きっ!」

花が亜を抱きしめた。

岸さんが羨ましいと今本気で思ったよ」

「いいでしょ? 羨むがいい」

花と佳山の會話を聞いて亜が笑う。釣られて岡部と優希が小さく笑った。

記憶がすぐに戻るとは思えないけれど、こうしてみんなの笑顔を見る機會が増えていけばいいな、と亜は思った。

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