《不用なし方》第45話

「俺、甘いのも好きだけど甘くないのも好きだなぁ。なんだっけ、昔もらったの……なんかコーヒーっぽい味のケーキ。あれ、甘さ控えめで味しかったなぁ……」

の言葉を聞いて亜は自分の作ったことのあるお菓子を思い浮かべていく。コーヒーの味のケーキ……か。

「クグロフ型使ったやつかなぁ?」

「クトゥルフ神話?」

「クグロフ型。ゼリーとかババロアにも使われてる形なんだけど……」

頭の中に形はしっかり思い浮かべられるのに、言葉にしようと思うと的確な単語が出てこない。

「大丈夫、あとで検索してみるよ」

難しい顔をしている亜を見てがクスクスと笑う。

「そうしてもらえると助かるかも。上手く説明できなくてごめんね」

信號が青に変わって、二人は並んで歩き出した。

「亜さんは……バレンタイン、男の人にあげるの?」

「友チョコとしてなら、佳山くんにあげると思う」

「友チョコ……?」

「友達同士で換したり、仲良しグループでスイーツを食べにいったり、バレンタインに渡してホワイトデーにお返しもらったり、最近は々だよね」

「え、そうなの?」

の言葉には小さく頷き、視線を橫に向けて思案しながらでた。

「ねぇ、亜さん。兄ちゃんと岡部さんにも作らない?」

兄ちゃんにだけ作ってほしいとは言えなかった。

「え?」

「なんか喜びそうだなって」

両親と優希との関係はしずつ修復されてきている。けれど、今現在優希は部活があると言って休みにも拘らず実家に帰ってきていない。部屋に一人ということは、食事は食べたり食べなかったりだろう。はそれが心配だった。

「そっか……その手があったね」

は倒れた翌日に迷をかけたことを謝り、運んでもらったお禮を述べたけれど……言葉だけでは申し訳ないような気がしていた。

「ありがとう、くん。け取ってもらえるかは分からないけど、あの二人の分も作ってみるよ」

お禮にしてもお詫びにしても、形に殘るものは避けた方がいいと思っていた。バレンタインはいい口実になるだろう。々時間が経過しすぎているけれど、なにもしないよりはずっといい。

「あ、亜さん。連絡先換しない? バレンタインの日、陸上部が練習してるところまでチョコもらいにいくよ」

「あ、もう決定なんだ?」

「うん、今から楽しみ」

目的地の目の前で足を止めたがポケットから攜帯電話を取り出した。亜もバッグから攜帯電話を取り出してお互いの連絡先を換する。

すぐに目の前の人から"よろしく"と書かれたスタンプが送られてきた。お返しにこちらからも"よろしく"のスタンプを送り返す。

「これでいつでも連絡取れるね」

いつでも……と言われても、正直連絡を取り合う理由がないのでどう答えていいのか困る。けれど、連絡を取り合える人が増えるのは単純に嬉しかった。

「じゃ、またバレンタインデーに」

「うん、またね」

攜帯電話を握った手を振ってが去っていく。背中を見送っていると、店の口付近に立っていた男に近付いていくのが見えた。

どうやら友達と待ち合わせをしていたようだ。

もしかしたら聲を掛けない方がよかったのかもしれない。

なんだか気まずく思えて、亜たちとは違う口から店へとっていった。

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