《不用なし方》第46話

バレンタイン當日。

は大荷を持って家を出た。

もっと小さめのお菓子を作ればよかったと若干後悔しつつも、その出來には満足している。

は今朝、アラームが鳴る前に目を覚ましていた。

お菓子作りは前日に終わらせていたし、箱詰めも終わっているので早起きをする必要はなかったのだけれど……なぜか早朝四時に起きてしまったのだ。

にバレンタインチョコを渡すのは初めてだと思う。なくとも今の亜の記憶にはない。

もしかしたら、そのせいで張しているのかもしれない。自覚はないけれど。

電車で短い距離を移し、大學までの道を歩いていく。

部活中の人に練習を中斷させてまであげるべきなのか……どう聲を掛けたらいいのか……なんと言って渡せばいいのか……。

々と考えすぎて大學に到著する前に脳が疲れてしまった。

友人である花や佳山には特別な理由も言葉も必要ない。自らしいと言ってきたにも特別な言葉は必要ないだろう。

問題は……。

「亜~っ」

大學の門の傍で花が手を振っている。亜を待っていたらしい。

「おはよう、花ちゃん」

「おはよう、隨分大荷ね?」

花は亜の肩に掛かっている大きなバッグを見て首を傾げている。

「箱にれたら嵩張っちゃって……」

噓ではない。一応、袋やフィルムでのラッピングも考えたけれど、全部一緒にれることができなくて、箱以上に嵩張ってしまった。つまり、これでもコンパクトになった方なのである。取り敢えず持ち手は付いている箱だけれど、念のために紙袋も用意した。

「私なんてフィルムの簡易包裝だよ。佳山くんになんか言われそう……」

「そんなことないと思うけど……」

には佳山が誰かと比べてものを言うとは思えない。

「あ、うちらだけ先に換しちゃう?」

門の前でバッグに手を突っ込む花を見て、亜は苦笑いした。

紙袋にれて渡したいので荷を置く場所を探していると、亜の攜帯電話が短く鳴る。メッセージがきたときの通知音だ。

コートのポケットから攜帯電話を取り出すとからメッセージが屆いていた。

「あ……」

は既に陸上部の練習しているフィールドの傍にいるらしい。

「花ちゃん、あの……実は他にも約束してる人がいて……もう待ち合わせ場所に著いてるみたいなの」

おそらく花はのことを知らない。過去に一回だけ……駅前で一分ほど顔を合わせた程度だと思う。

「……誰?」

気のせいか、一瞬だけ花の顔が険しくなったように見えた。

「今年の春からこの大學に通う後輩……?」

「なんで疑問形なのよ? つか、高校生の知り合いなんていたの? クッキング部の後輩?」

「ううん。取り敢えずいこう、佳山くんも待ってると思うし」

「え~、誰? 誰? 私が知ってる人?」

花は誰が待っているのか知りたくて何度も訊いてくる。

「知り合いではないと思う……けど、面識はあるよ。短い時間だったから覚えてないと思うけど」

は、待っているのが優希の弟だと言ったら止められそうな気がして言葉を濁した。

「あ」

花の眼がグランド傍のフェンスに寄りかかっている佳山の姿を捉える。その傍にはもう一人、男が立っていた。

「……男?」

にはあまり異の知り合いがいなかったはずだと花は怪訝な顔をした。しかし、佳山が笑顔で話しているので、もしかしたら彼の友人なのかもしれないとも思う。答え合わせはすぐにできるはずだ。

「あ、亜さんっ」

振り返った人が亜に人懐っこい笑みを見せながら手を振った。

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