《不用なし方》第50話
大學の長期休暇中、花や佳山はアルバイトに勤しんでいるようだ。
亜も両親にアルバイトをしてみたいと言ってみたけれど、記憶が欠如していることを理由に卻下されてしまった。
大學の休みは長く、母と二人でずっと家の中にいるのは正直辛いとじていた亜は、母を納得させられるような外出理由を探していた。
そんなとき、お世話になっている先生から連絡がきて、二月の末頃から二週間の臨床実習に參加させてもらうことになったのだ。
休學している間に行われた実習の埋めである。
知っている人のいない場所は張するけれど、お世話になっているスタッフたちはみんな親切で丁寧に教えてくれる。
亜が戸ったのは実習初日の自己紹介で"理學療法士になりたいと思ったキッカケは?"と問い掛けられたことだけだ。
なんとなく選んだわけではないと思う。けれど、今の亜の中に正しいと思われる答えは見つけられなかった。
事故で記憶の一部が欠如していることを告げて勘弁してもらったけれど、亜自もどうして理學療法士を目指そうと思ったのかという疑問をずっと抱いていた。
なんらかの理由があってこの學科を選んだのだと思う。しかし、それらしい理由が思い浮かばない。
親族にリハビリを必要としている人はいない。將來、両親の面倒をみるためだとしたら介護士を目指しただろう。
確かにやりがいのある仕事だと思う。けれど、やりがいだけでいうならば他の職種でもよかったはずだ。
きっと、この學科を選ばなければ行けない理由があったのだ。それを、自分は忘れてしまっている……。
痛みとは違う、頭を締め付けるような覚が亜を襲う。
「……っ」
亜はこめかみを押さえて俯いた。
「栗林さん、大丈夫?」
亜の異変に気付いたスタッフが聲を掛けてきた。
「あ……」
顔を上げるとみんなの視線が自分に向けられていることに気付く。
「だ……大丈夫です。ちょっと頭を締め付けられるようなじがしただけで……」
「張型かしら?」
「記憶の欠如は結構なストレスですしね」
「それ、初めて?」
スタッフたちが一斉に話し出す。
「あ、先生」
スタッフの一人が、たまたま通り掛かった白の人を呼び止めた。
「なぁに?」
その人は返事をしながら近付いてくる。けれど、その聲には聞き覚えがあった。
「あら、栗林さんじゃない」
「え、知り合いですか?」
「わたし、彼の通う大學の非常勤なのよ」
「……あ」
そこにいたのは、非常勤醫師の大沼だった。
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