大沼の運転する車が亜の自宅の前に停まる。

後部座席の二人はまだ夢の中だ。

を寄せ合って眠る二人を見て、起こすことを躊躇っていると玄関が開いて亜の母が姿を見せた。

視線がぶつかって、大沼は小さく會釈しながら車を降りた。

「こんばんは」

「あ……こんばんは。その節はお世話になりました」

にこやかに挨拶をした大沼とは対照的に、亜の母は不安げな顔でをしている。

「そんな不安げなお顔をなさらないでください。ただ、娘さんを送ってきただけなので」

「娘を……？　もしかして、また合が……？」

「いえ、私が勤務している病院に娘さんが実習にきていたんです」

「そうなんですね……でも、どうして……優希くんが？」

大沼の車の後部座席で二人が寄り添うようにして眠っているのを見て、亜の母の表が微かに険しくなった。

「彼が怪我をしたときの擔當醫は私でした。その関係で、今もメンテナンスを擔當させてもらってるんです。今日はたまたま仕事終わりと二人の帰る時間が重なったので、話を聞きついでに乗せてきたんです」

「そうですか……ありがとうございます」

納得していないだろう表で禮を述べられて大沼は苦笑いするしかなかった。

「お母さん……？」

背後で車のドアが開閉した。振り返るまでもなく降りてきたのは亜だ。

「おかえりなさい」

「ただいま。先生、わざわざ送ってくださってありがとうございます」

亜が大沼に頭を下げる。

「いえいえ、こちらこそ謝だわ」

「え？」

大沼の意外な言葉に亜は首を傾げた。

「ドアが閉まっても起きないくらい睡してるのは珍しいのよ」

誰がとは言わない。言わなくても分かるからだ。

大沼の言葉に、亜のは棘が刺さったかのように小さな痛みを発した。

「あなたも、しっかり寢なさいね」

あまり眠れていないことを確信しているような大沼の言葉に亜は困ったように頷いた。

「寢る前にはあれこれ考え込まないこと。お風呂から出たら攜帯を見ないで寢床にりなさい」

まるで日頃の行を見ているかのような言葉に亜は目を丸くした。

「大今の學生たちはみんな寢る間際まで攜帯を握ってるわよ。そんなだからなかなか寢付けないし、疲れも取れないの」

大沼は小さく手を振って車に乗り込んだ。

車がき出すと亜は頭を下げ、車影が見えなくなるまで見送った。

「亜、合は悪くない？」

探るように母が亜に尋ねた。

「うん、大丈夫だよ。どうして？」

「先生に送ってもらってるから、合が悪くなったのかと思って……」

「たまたまだよ。先生が勤務してるのも今日知ったし」

決して噓ではない。

「彼とも偶然？」

「うん。先生はもともと優希さんを送るつもりだったみたいだけど、偶然會った私もついでに乗せてくれたんだ」

優希があまり眠れないことまで知っている二人の関係が気になりつつも、亜は笑顔をり付けて誤魔化した。