《不用なし方》第55話

その日、亜張しながら改札口付近に立っていた。

昨晩、メッセージが送られてきたからだ。

病院での実習が終わり、あとの休みをどう過ごそうかと考えているところだった。

相手は実習が終わったことを知っていたし、もしかしたら亜が家で退屈しているだろうことも分かっていたのかもしれない。

母と二人で過ごす時間が苦手な亜にはありがたいいだったので、迷わず呼び出しに応じたのだ。

しかし……いざ當日になると張してしまって、待ち合わせ場所に立っていても落ち著かない。

「早いな」

俯く視界の隅に男ものの靴がり込んだ瞬間に聲が聞こえて、亜は慌てて顔を上げた。

「あ……おはようございます、優希さん」

「ん。じゃ、いくか」

目の前に小さな四角いものが差し出されて、亜は反的にけ取ってしまった。見れば電車の切符だ。最近ではなかなかることがない代かもしれない。なんだか新鮮だ。

「あの……どこに?」

「付いてくれば分かる」

優希は目的地を告げることなく自改札を通っていった。置いていかれないように亜も急いでその後を追う。

階段を上ってホームに立つと、いいタイミングで電車がり込んでくる。

優希は亜が付いてきていることを確認するとそのまま電車に乗り込んだ。

気のせいか、今日の彼の態度はどこかよそよそしい。ってきたのは優希なのに、電車に乗り込んでからも聲を掛けてくることはないし、視線がぶつかることすらないのだからおかしいと思うのも當然だ。

しかし、聲を掛けることを躊躇ってしまうような雰囲気がある。

は寂しさをじながら優希の背中を見つめて溜め息を吐いた。

隣駅で乗り換え、空いている席に強制的に座らされた後は……睡魔に襲われて亜の意識は途切れていた。

一方……亜の寢顔を見下ろしながら、もっと優しく接してもよかったのではないかと自己嫌悪に陥っている優希は、脳一人反省會の真っ只中。

  昨晩、メッセージの文面を考えるだけで何時間も悩んでいたことなど亜が知る由もない。更に送信ボタンを押すまでに數時間……今までにこれほど頭を使ったことがあっただろうか?

メッセージ送信後の疲労は、陸上の練習後のものとは明らかに種類が違う。メッセージの送信は神的なものだし、陸上練習は的な疲労である。

疲労はを休めれば回復する。しかし、神疲労はを休めても睡眠時間を増やしてもなかなか回復しない。

結局、優希は一睡もできなかった。眠れないのは珍しいことではないけれど、なにをしていても落ち著かなくて、じっとしていられなかったのだ。

湯船に浸かってを溫め、リビングでストレッチをしてベッドに潛り込んでみたけれど眠気が訪れることもないまま空が明るくなってしまった。

二~三日眠らないこともざらにある優希にとっては大したことではないけれど、によくないのは確かである。

しかし、自分ではどうしようもなかった。以前は薬を処方してもらって眠ることもあったけれど、陸上を始めてからは一切飲んでいない。今は眠気がやってくるのをただ待つことしかできないのだ。

周囲が心配しているのは分かっている。病院にいった方がいいと言われたことも一度や二度ではない。

理由が分からなければいったかもしれない、と優希は思う。逆を言えば、分かっているからいく必要がないということだ。

優希は亜の寢顔を視界の隅に捉えながら流れゆく景を眺めていた。

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