《不用なし方》第56話
「おい、起きろ」
ぶっきらぼうな聲とは対照的に、優しい手が亜の頭をでる。
「ん……」
「もうすぐ降りるぞ」
優希の言葉で眠っていたことに気付いた亜は跳ねるように目を覚ました。
「あ……すみません、寢ちゃって……」
「朝早い上に移時間が長いんだ、眠くもなるさ」
腕時計を見て、電車にのってから一時間ほど経過していることに気付く。
一どこに向かっているのだろう?
亜は不思議に思いながら外の景に眼をやった。
「もう到著ですか?」
「いや、乗り換え」
どうやら、目的地はまだ先のようだ。
電車のスピードが落ちていく。間もなく停車するのだろう。
優希は行き先を告げていない。
驚かせようと思っているわけではない。ただなんとなく照れ臭くて言えなかっただけである。
バレンタインに亜からお菓子をもらうのは當たり前になっていた。稚園の頃から毎年だったので両手では足りないほどけ取っている。
しかし、ホワイトデーのお返しをした記憶はほとんどない。稚園の頃は母親同士でやり取りをしていたような気がするけれど、小學校の高學年になるともらったことを隠すようになった。
理由は簡単である。弟がしがるからだ。
他の子からもらったものならば躊躇いなく渡しただろう。しかし、弟がしがるのはいつも亜が作ったものだった。
嫌がれば泣かれ、母にはあげればいいでしょと言われ、嫌だと言えばからかわれる。そのすべてが面倒臭くて、鬱陶しくて、亜からもらったお菓子は家に帰る前に平らげるようになった。もらったことを隠しているので、當然お禮をすることもない。
亜がホワイトデーのお返しを催促してきたことは一度もない。なにも言わないのを幸いとばかりに優希はずっとスルーしてきた。気にはなっていたけれど、時間が経てば経つほどにどうしていいのか分からなくなっていき、やがて二人の関係が歪なものになって心の距離ができてしまった。自分のせいであることは明白だ。
けないことに、亜が事故で記憶を失ったことでようやく行に移すことができた。こんなことでもなければ彼と出掛けることはできなかっただろう。
優希と亜が二人だけで遠出をするのは初めてだ。
電車が停まってドアが開くと、優希は亜の手を握ってホームに降り立った。
「あ……あの……」
「でかい駅だからな。人波で迷子になられたら困る」
しっかりと握り直して次に乗る電車がやってくるホームへと向かう。二人がいる場所は既に東京ではない。それが優希の心をしだけ軽くしていた。
都では誰が見ているか分からないという張が常にあった。これ以上亜を危険な目に遭わせるわけにはいかない。
地元を離れることで、二人を知る人はほとんどいない。周囲から見れば、どこかぎこちない二人は付き合い始めのカップルに見えているかもしれない。
乗り換えた電車に乗っている時間は先程と違い短く、數駅で降りて改札を出た。
今度こそ目的地なのだろうか?
一瞬そう思ったけれど……優希の足は止まらず、また別の駅の改札を通った。どうやら今回も乗り換えだったらしい。
家から離れ、見知らぬ土地にやってきて、ほんのし心細さをじる。記憶を失ってからの遠出は初めてなのだから當然かもしれない。
心細くはあるけれど、不安にならないのは、優希が一緒にいてくれるからなのだろう。
不思議だけれど、彼と一緒にいると安心するのだ。ぶっきらぼうで無口でなにを考えているのかイマイチ分からないけれど、大きな手は優しくてホッとさせてくれる。
乗り換えの際に握られた手は當たり前のように繋がれたままだ。
歩く速度も亜の歩幅に合わせてくれているし、人とぶつからないように亜に端を歩かせている。
言葉はなくても、彼の行には優しさをじることができた。
小説家の作詞
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