《不用なし方》第60話

夜の帳が下り、周囲が闇に包まれる。

岡部の運転する車の中で亜はぐっすりと眠っていた。

「久しぶりに楽しかったなぁ」

花が明るい表で攜帯電話のストラップを揺らしながら呟く。

三人と合流した優希たちは五人でし遊び、夕食を食べてから帰路に就いていた。

運転する岡部の隣には優希。そして、後部座席には亜を挾むように花と佳山が座っている。

「さすがに疲れたんだろうね。栗林さん睡だよ」

「でも、満足げな顔してる」

の重みを肩にじながら花は小さく笑った。

が周囲の眼を気にせずにびしていたのは久しぶりだ。記憶が欠如していることを気にせずに純粋に楽しんでいたようだった。

「松澤……ありがと」

「お前にお禮を言われる筋合いはない」

「そうかもしれないけど、言いたくなったから言っただけ」

「……変な

窓枠に肘を突いて通り過ぎていく夜景を眺めながら優希は小さく呟いた。

その後會話が途切れ、しばらくの間車は控えめなボリュームで再生されている音楽だけが流れていた。

「……岡部、俺を先に駅で降ろしてくれ」

唐突な優希の言葉に三人の視線が彼に向けられた。

「え?」

「前見ろ、馬鹿」

「栗林さん送っていかないのか?」

「親と顔を合わせたくねぇんだよ」

彼の素っ気ない言葉が、亜の母親に無用な心配を掛けたくないという意味であることは三人にも理解できた。

「……了解、お前の家って大學の傍だっけ?」

「あぁ……」

岡部は橫目でチラリと優希の様子を窺った。顔を背けている彼の表は見えなかったけれど、機嫌や調の悪さはじられない。

「明日の朝練、大丈夫か?」

「問題ねぇよ」

部活に出られるかと問いたかったわけではない。おそらく優希も岡部の質問の意味を理解した上で答えている。

「無理だけはするなよ」

「あぁ」

花と佳山は二人の會話をただ黙って聞いていた。

「意外にも空いてたなぁ」

優希の利用する最寄り駅が近付いてきた。

レジャー施設を出て一時間半ほどで帰ってくることができたのは、幸いにも渋滯に巻き込まれなかったからだ。

岡部の運転する車が駅のロータリーにる。バス停付近に車を停車させてロックを解除した。それを確認して優希がドアを開けて車を降りる。

「サンキュ」

冷やすなよ」

「おぅ」

「じゃあな」

優希は小さく右手を上げて四人の乗った車を見送った。

自宅前に到著して起こされたとき、自分がいないことに気付いた亜はどんな顔をするだろう?

気持ち良さそうに眠る亜を起こしてまで挨拶をする必要はないと思った。

萬が一、目を覚ました彼が戸ったとしても、亜の表が曇ることを嫌う岸か佳山がうまく言ってくれるだろう。そういう意味では信用できる二人だ。

次に會うときに彼が笑っていてくれればいい。

優希は車が見えなくなってようやく家に向かって歩き出した。

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