《不用なし方》第69話

の言葉に優希は息を呑んだ。

理學療法學科を選択させてしまうほど、彼に……彼の心に深い傷を負わせていたという事実が深く重くに突き刺さる。

優希は痛みをじるほどに拳を握り締めて俯いた。

完全には治らないかもしれないと言われて自棄を起こし、リハビリをサボり、やがて陸上そのものを諦めた。そんな優希の姿を見てどうしてその道へと進もうなどと思えたのか……それは亜本人にしか分からない。

「責任とか、負い目とか……そんな理由じゃないのよね、きっと。純粋に、あなたが生き生きと走っている姿を見たかったんじゃないかしら」

「そんなわけ……」

「小さな頃からずっと、あの子の世界はあなたを中心に回っていたから」

理學療法士になろうと決めたのは亜だろう。しかし、亜の母親の言葉が事実ならば、その道を選ばせてしまったのは間違いなく自分だ。

きっと他に抱いた夢もあったはずだ。それを諦めさせてしまった。知らなかったでは済まされない。知ろうともしていなかったのだから。

想像以上に自分の罪が大きく重いものであったことに気付かされての気が引く。薄く開いたが寒くもないのに震えていた。

「優希くん……気付いてなかった?」

意外そうな言葉に再度驚かされる。

気付くはずがない。お互いになにも言葉にしていないのだから。

優希の世界は亜を中心としていたけれど、彼の世界はもっと広く自由なものだと思っていた、ずっと。

しかし……自由だった彼の白く綺麗な翼を折って穢して狹い籠の中に閉じ込めたのは他の誰でもない、自分だ。

記憶から消し去るほどに辛い思いをさせたのだ。思い返しても最低なことしかしていない。忘れられても恨まれても仕方のないことばかりだ。

償うには、閉じ込めていた籠を開けて亜を自由にするべきなのだろう。

そのために、先ず自分ができることはなんなのか……優希は熱くなる瞼を一度ギュッと閉じると、ゆっくり持ち上げて亜の母親を真っ直ぐに見た。

「……おばさん、俺今度の関東インカレ、選手として出れることになったんです」

「え?」

勝つしかない。一位を取ることは難しいだろう。それでも、今出せる力を出し切ってそこに近い場所にいくしかない。自分にはそれしかできない。

「まだまだ自分のベストタイムには屆かないんですけど、選手に選ばれる程度には復活できてるみたいです」

にも、亜の母親にも安心してほしかった。だから下手糞な笑顔をり付けながら告げた。

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