《不用なし方》第73話

優希と母が會っている現場を見たその日、亜は優希にメッセージを送った。

優希は偶然會ったと言っていたけれど、母が大學の周辺に意味もなく向かうはずもないので、自らの意思で優希に會いにいったのだと確信している。追及はしないけれど、偶然だと言うのは優希の優しさだと思うことにした。きっと、母が噓吐きにならないように話を合わせてくれているのだろう。

母から観にいきたいかと訊かれていきたいと答えたことを報告し、や花と相談して一緒に観にいく予定だと伝えるだけのやり取りだったけれど、亜は自分でも驚くほどに浮かれていた。

しかし、殘念ながらその理由には……まだ気付いてはいない。

花や佳山と相談し、講義の都合でなかなか合流できないにはメッセージを送りながら話を纏めていく。

そして、大會當日。

と駅前で待ち合わせをして大會會場へと向かっていた。花と佳山は現地合流だ。

「結構遅い時間にやるんだね……

もっと早い時間だと思ってた」

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「大會のスタート時間が遅いわけじゃないんだよ? 朝からいろんな陸上競技やってるけど、兄ちゃんの出るやつが遅いってだけで」

が待ち合わせをしたのは家で晝飯を食べてからだった。優希の出る競技の予選が夕方からだと聞いたからだ。

陸上競技は種目が多いので當然一日では終わらない。近年、開催期間は四日間。朝九時過ぎからタイトなスケジュールで予選や決勝が行われる。特にトラック競技は多く、短距離から長距離、個人と団がある。さらに男同じ會場を使用するので、期間に全種目を終えるには遅い時間までレースをするしかないのだろう。

「今日予選突破できれば明日決勝だって」

「優希さんが出るのは一種目だけなの?」

「うん、まだ本調子ではないみたいだから」

今でも充分に速いと思うのだけれど、本調子になるとどれだけ駿足なのだろう?

「來年はもうちょっと走りたいって言ってた」

優希に目標ができるというのはにとっても嬉しいことだった。陸上部にってくれた岡部には謝している。

電車で一時間ほど移し、さらにバスに乗って三十分弱。優希と出掛けたときはもっと長い時間電車に揺られていたはずなのに、何故か今回の方がとても長くじられた。

「次のバス停だよ」

が近くにある降車ボタンを押す。

攜帯電話で検索した會場までの通案では次の停留所でバスを降りて五分以上歩いたはずだ。

「兄ちゃんが決勝いってくれたら嬉しいけど……明日もこうやってこなきゃいけないって考えるとちょっと憂鬱かも」

つり革に重を預けて揺れながらが溜め息を吐く。

「ちょっと分かる」

バスを待っているときに、実は亜も同じことを考えていたのだ。

は顔を見合わせて小さく笑った。

ちなみに、優希たち出場選手は大會前日から大會終了まで會場近くのホテルに宿泊しているらしい。

バスを降りると、同じ停留所で下車した人のほとんどが大會會場を目指しているようだった。川の流れにを任せるように歩調を合わせて進んでいると、やがて大きな競技場が見えてくる。

「大きいね……」

「サッカーとかラグビーの試合もやってるらしいよ」

だとすれば、きっと観客収容人數も多いだろう。

こんな時間にやってきて、優希を眼で探し出して応援することが出きるのか不安になってくる。

「あ、きたっ! 亜~っ」

會場前で大きく手を振りながらジャンプしているのは花だ。その隣では佳山が苦笑いしている。

「お待たせしてすみません、どのくらい待ちました?」

が佳山に頭を下げながら問い掛けた。

「バス一本くらいじゃないかな。そんなに待ってないよ」

バス一本分というと……十五分~二十分は待たせてしまったということではないだろうか? そんなに頻繁に走ってはいなかったと思う。

「ごめんね、駅で待ち合わせればゆっくりできる場所もあったのに……」

「気にしない気にしない、さ、中ろ」

「あ、チケット買わないと……」

「大丈夫、持ってるから」

「じゃ、お金……」

「今日は佳山くんと私が払ったから、明日は二人でよろしくね」

なるほど。そうすれば貸し借りゼロになる。亜は花の言葉に頷いてチケットをけ取った。

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