《不用なし方》第76話

大會二日目。

は大會會場の最寄駅で電車を降り、改札を出たところで先に到著していた二人を見つけた。

「あ、きた!」

二人の姿を見つけた花の聲が亜の耳に屆く。

「すみません、遅くなりました」

「ごめんね、待った?」

「気にしないで、まだ約束の時間になってないから」

申し訳なさそうな顔をした亜に佳山が微笑む。約束の時間よりも早く到著しているのだから遅刻ではない。しかし、待たせてしまったという事実を申し訳ないと思ってしまうのが亜なのだ。

「分かってたことだけど、人多いね」

バスを待っているときからじていたことだった。昨日よりも確実に人が多い。

バスを降りて會場までの道のりは、まるでデモ行進をしているようだった。

勿論、みんな応援に向かっているのだ。観客席も昨日より埋まっていると思って間違いないだろう。

の提案で集合時間を早めたのは正解だったかもしれない。

會場では、昨日同様陸上部のマネージャーが席取りをしてくれていたけれど、人が多ければ多いほど申し訳ない気持ちになる。

「おはようございます」

席を確保してくれているマネージャーに真っ先に挨拶をしたのはだ。彼の人懐っこさや人誑しっぷりは尊敬に値する。羨ましいとさえ思う。人とのコミュニケーションが得意ではない亜には到底真似できないからだ。

「今日は早かったんですね」

「決勝だと人が多そうだなって」

「昨日の倍はいそうですよね」

「二日間ありがとうございました。兄ちゃんたちのことお願いします」

席を立ったマネージャーにしっかりと頭を下げてお禮を述べるは周囲からも睨まれることはない。

「ありがとう」

「ありがとうございました」

通り過ぎ際に佳山とともにお禮を言うと、マネジャーはくすぐったそうな笑顔を見せてくれた。大事な試合の日に席取りなどさせられて怒っていても不思議ではないというのに……素敵なだと思いながら亜は深々と頭を下げた。

「どうかした?」

を起こし、彼の背中を見送る亜の顔を佳山が覗き込んでくる。

「なんだか申し訳ないなぁって……」

「そうじる必要はないと思うよ。さっきの子、文哉さんの彼だし」

「え?!」

キョトンとする亜の隣で花が驚きの聲を上げる。

「あの人、彼いたの?」

「だから、さっきの子……」

「そうじゃなくて! 普通に運転させちゃったじゃんっ」

花が気にしているのはホワイトデーのことだ。

「あぁ……それも気にしなくていいと思うよ。陸上馬鹿の文哉さんの優先順位って彼よりも松澤の方が上だから。それでも構わないって言ってる彼だし、今回だって文哉さんの役に立てたって喜んでるんじゃないかな」

理解できないという顔で花が見上げると、佳山は首を竦めて苦笑している。彼も岡部の考えを完全に理解しているというわけではないようだ。

「まぁ……二人がいいならいっか」

「そういうことにしておいた方がいいかもね」

世の中の全員が自分と同じ価値観であるはずがないと自分を納得させて花は席に腰を下ろした。

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