《不用なし方》第79話

「大丈夫? 暑くて參っちゃった? はい、スポーツドリンク」

が買ってきたペットボトルの蓋を緩めて亜の手に握らせた。三人とも暑さで合が悪くなったと勘違いしたようだ。

花が日傘を傾けて亜を日差しから庇う。亜は飲みを口に運んで小さく息を吐いた。

「……し楽になったかも。ありがと」

心配させてはいけないと微笑んでみせたけれど、三人の表は冴えない。納得していない顔だ。

「やっぱり早くき過ぎたんじゃない?」

「日に移する?」

「だ……大丈夫っ」

返事をしながらを見上げた瞬間、以前彼が口にしていた言葉を思い出した。

心がついた頃にはもう亜がそこにいたのだと。

つまり、亜と優希は馴染という関係になるのではないだろうか。

納得すると同時に心が軽くなる。

「うん……大丈夫」

肩の力を抜いて微笑む亜を見て、ようやく三人が眉を開く。

四人は著席すると、大學の陸上部を応援しながら優希の出場する競技が始まるのを待った。

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やがてが傾き、優希たちの出場する競技が近付いてくると、四人も張して言葉なになっていく。

「……いよいよだね」

四人の姿を見つけて佳山が呟いた。

「表いなぁ」

「アイツって張するの?」

「まぁ、大會で走るの久しぶりですしねぇ……」

花との會話に不安が過ぎる。

そのとき、三人の視線が一瞬だけ亜に向く。

「まぁ……張してもおかしくないのかな」

「あぁ……だね」

「ですね」

三人は亜の顔を見て納得し、頷き合って視線を正面に戻した。

にはどういうことなのかさっぱり分からない。

「僕たちが見ているのを知っている以上、無様なレースはしないだろうって話だよ」

佳山はそう言って困する亜に正面を向くよう促した。

張で心臓はバクバクと花たちに聞こえてしまいそうなほど大きく脈打ち、握りしめた掌には汗が滲んでいた。

「もしかして、そろそろ始まる?」

花がトラックを見下ろすと、既に一番手がバトンを手に歩き出していた。

は両手を祈るように組んだ。

「さすがに決勝ってなると張するね」

「良くも悪くも一発勝負ですからね」

「これで勝てばもっと大きな大會に出られるんだよね?」

「勝つというか、基準タイムをクリアできれば日本インカレにエントリーできます」

「え、じゃあこの大會の意味って?」

「大會は規模に関係なく、陸上選手が練習の果を発揮するための舞臺です。無意味なものなんてないですよ」

の言葉に亜がほんわかと溫かくなる。

一生懸命練習していた姿を思い出すと、つい組んでいる手に力が籠ってしまう。

會場が一瞬靜寂に包まれ、次の瞬間スターターピストルの音が空高く響いた。

走者が一斉に走り出す。順位の差はほとんどないまま、団子狀態で二番手へとバトンが差し出された。バトンのけ渡しでしずつ差がつき始める。優希たちは現在二位。一位とは僅差で、思わず逆転に期待してしまう。

三位との差を開いてバトンが優希の手に渡る。

の周りでは優希を応援する聲がたくさん発せられていた。一位との差を僅差に保ちながらスピード持続區間に突する。

「……え?」

アンカーの手前で優希が明らかに減速した。その表は苦悶に歪んでいる。なにかアクシデントが発生しているのは明らかだった。

「松澤っ!」

岡部の聲が會場に響く。

「ちょっ……アイツどうしたの?!」

「足、トラブってる……かも」

花の不安げな聲にが小さく答える。その聲にも不安が滲んでいた。

「優希さんっ!」

は無意識に立ち上がってを乗り出していた。

「亜さん、危ないって!」

が亜の腕を摑んで自分に引き寄せる。會場全が騒然としていた。

「いっ……けぇ、岡部!!」

最後の気力を振り絞るように岡部へとバトンを繋いだ優希が、コースを外れて倒れ込んだ。

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