《不用なし方》第83話

「亜

「ゆ……き、くん、怪我っ……足っ」

「亜、落ち著けっ」

勢いよく飛び起きた亜を優希が抱き留める。そのは大きく震えていた。

「なんともないから!」

「だって、足……っ」

「ただの水癥狀!」

額を引っ掻きながら優希は聲を荒らげる。勿論、恥ずかしいからだ。

水癥狀で足が攣っただけだからっ! ほら、なんともないだろっ」

立ち上がってジャンプや駆け足をして見せる。痛がっている様子はない。

予想外の言葉にパチクリと瞬きを繰り返し、やがてを屈めた亜が小さく震えだす。

が笑っていることに気付いて優希は大きな溜め息を吐いた。

「クソっ、だから言いたくなかったんだ……」

気が済むまで笑ったらしい亜が落ち著きを取り戻してゆっくりと顔を上げる。

「亜

優希は椅子に座って深呼吸をすると真っ直ぐに彼を見據えた。

「記憶、全部戻ってるのか?」

「……多分?」

全部と言われても自信はない。今のところ思い出そうとして思い出せない事柄はないというだけだ。もしかしたら欠けている記憶もあるかもしれない。

「俺が……酷いことをしてたのも、か?」

がビクッと跳ね、優希から視線を逸らした。それは思い出したと肯定したようなものだ。

「今更だけど……悪かった。お前に憎まれても仕方がないことをしたと思ってる」

「え?」

「木から落ちたのは俺の不注意だし、お前にはなんの責任もなかった。ただ……あのときは怪我のショックが大きすぎて、誰かに責任をり付けないとやってられなかった。たまたま、そこにいたのがお前だっただけで……一番、八つ當たりをしちゃいけないお前に俺は……」

を見つめる瞳から涙が零れ落ちる。

ずっと謝りたかった。あの日の言葉を否定したかった。罵られても、引っ叩かれても嫌われてもいいから……伝えたかった。

「うん……酷いこと……いっぱいされたね」

は優希の涙から視線を逸らし、窓の外へと向けた。その表に怯えや嫌悪はじ取れない。

「ずっと……あの日、あの時間にあの場所を通らなければ優希くんが木から落ちることはなかったんじゃないか……って思ってた」

目を伏せ、獨り言のように落ち著いた聲音で言葉を紡ぐ。

「ちが……」

「思うようにいかなくて悔しそうな顔を見る度に……私のせいだって責めてくれればいいのに、って」

優希は亜の瞼が震えていることに気付いた。

「でも、実際にその言葉を聞くと、考えていたよりも重くて苦しくて……け止めきれなかった」

「……ごめん。酷い言葉を投げつけたことも、暴したことも、全部……ごめん。許されるとは思ってない。もし、もう俺の顔を見るのが嫌だっていうなら今後は姿を見せない」

優希の覚悟を決めた言葉に亜が一瞬顔を顰めた。    

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