《不用なし方》第84話

「……優希くん、訊いてもいい?」

責めるでも怒るでもなく優希に問う。

「どうして、私を……」

抱いたの? という言葉は恥ずかしくて紡げなかった。けれど、優希には伝わったようだ。

「……手放したくなかった」

懺悔するように自分の両手を組んでそこに額をり付ける。

気持ちを伝える気はなかった。けれど、亜に噓は吐きたくない。優希は真っ正直に答えた。

「罪悪からでもいいから俺だけを見て、俺のことだけを考えてほしかった……」

間違ったことだというのは分かっていた。それでも、一度味わってしまったらそのを抑えることは難しかった。酷い言葉で亜を傷付け、自分から離れられないように仕向けたのだ。自分のやったこととはいえ、人として最低な行いである。

「ど……して?」

信じられないというような顔で亜は優希を見つめていた。

「お前に酷いことを言ったし、酷いこともした……だから、心なんか手にらないのは當然だし、だったらだけでも……って、本當最低だな、俺……クズ過ぎて消えたくなってきた」

自分の言葉で自分のを抉って優希は小さく嗤う。

半信半疑の彼に信じてもらうにはもうすべて白狀するしかない。自分を守る言は許されない……いや、許してはいけない。とにかく自分の心に噓偽りなく、飾らずじたまま思ったままを口にする。 

「心……ほしかったの?」

問い返す亜の聲は微かに震えていた。

「あぁ……お前を初めて見た日から、ずっと」

悲しげに微笑む優希の頬に手をばす。自分のものよりもく大きな手が亜の手を包み込んだ。

「私ね……逃げようと思えば逃げられたと思うの」

優希に縛られていたのは自分の意思だった。

「それって……どういう……」

優希の瞳が限界まで見開かれる。

「……でも、逃げたくなかった」

優希の気が済むまで従おうと思った。自分以外のすべての人が彼に背を向けても、自分だけは彼の傍にいよう……と。い頃、自分が救われたように、ほんのしでもいから彼の助けになりたかった。

優しい彼が自分の中にすべてを溜め込んでしまわないように。

「……あり得ないだろ、そんなこと」

優希が狼狽えながら呟く。

「俺が無理矢理……だから、想ってもらう資格なんて……」

は空いている方の手を優希の頬にばした。両手で優希の顔を挾んだ狀態だ。

「気持ちに資格が必要なの?」

の言葉に驚いた顔をした優希が……次の瞬間、表を和らげて頬にれる亜の手に己の手を重ね、そっとを寄せた。

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