《不用なし方》第86話

やがて優希のから力が抜け、規則正しい呼吸が聞こえてくる。

「優希くん、ごめんね……」

何年もの間、亜を傷付けたと悔やんで苦しんでいた優希に謝罪の言葉を紡ぐ。彼の意識があったならば謝らせてもらえないからだ。

「私……間違ってたね」

を責めることで優希が自分の中にを溜め込まなくてすむと思っていたけれど、亜を責めることで優希は更なる見えない傷を負っていたのだ。

は優希が目を覚ましたらきちんと話し合おうと心に決めた。

「優希くん、今日……」

聲とともにノックもなく病室のドアが開いた。聲の主は亜の母親だ。

「あ……亜っ」

は病室の口に立つ母の顔を見上げてそっと口許に人差し指を添える。その仕草を見てようやく彼は優希が眠っていることに気付いた。

「どこか痛いとか、苦しいとか、ない……?」

「大丈夫」

が無理をしている様子もないことを確信した母が愁眉を開く。

「……優希くん、眠ったのね」

でられながら眠る優希を見て、母が慌てて下手糞な笑顔をり付けた。泣くのを我慢しているように見えたことは敢えて口にしないでおく。

「優希くん、あなたがここに運び込まれてからずっと眠らないで傍にいたのよ」

母の言葉に"やはり"と思う。

「お母さん、迷掛けてごめんね」

「迷なんて掛けられた覚えはないわ」

涙を浮かべた瞳で亜を見つめながらベッド脇の椅子に腰を下ろした母に言いたいことはたくさんあった。けれど、なにから話していいのか分からない。

「……お母さん」

「ん? なぁに?」

「ただいま」

「……え?」

優希に告げた言葉をそのまま母に対しても紡ぐ。

の言葉の意味を彼は一瞬遅れて理解した。

「亜……あなた……」

「うん、思い出した」

「ごめんなさい……」

母の予想外の言葉に亜が目を丸くする。どうして謝られたのか分からなかった。

「優希くん……ずっと寢てないって言ったでしょ? きっと、あなたが事故に遭ったときも同じような狀態だったと……ううん、もっと不安だったと思うの。目の前にあなたがいてこの狀態なのに……あのとき、お母さん……優希くんにこないでって、亜に関わらないでって……」

そういうことか、と亜は心ので納得した。彼の姿を見ながら、母は自分の行いを悔いていたのだろう。

「退院したら、優希くんとゆっくり話がしたい。さっき話そうと思ったんだけど……無理そうだったから」

「……そうね」

ホッとしたのか、意外にも母の顔にはし笑みが浮かんでいた。

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