《不用なし方》第90話

そういうの?

はますます分からない。優希は言葉を端折りすぎるのだ。

「……優希くん、端折りすぎてて全然分からない」

「お前鈍いもんな」

苦笑しながら優希が壁に手を突く。所謂壁ドンというやつだ。

「え」

意中の異にそんなことをされて張しないはずがない。亜の心拍數が急上昇する。

「俺も訊きたい。お前はなんで怒ってた? 俺も察しがいい方じゃないから、ちゃんと言ってほしい」

を目の前に震えていることをも白狀したのだ。これ以上恥ずかしいことはない。今更格好つけたところで稽なだけだ。

「え」

優希は見下ろす亜の顔が真っ赤になっていることに気付いて一瞬怯む。

「そんな言い方、ズルい……」

上目遣いで睨み上げられて優希の鼓が速くなる。

なんだ、この可い生きは……理を総員しないと今すぐにでも暗がりに連れ込んで滅茶苦茶にしてしまいそうだ。

ほんのしだけ緯線を逸らして小さく深呼吸をする。勿論、自分の気持ちを落ち著けるためだ。

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そんな優希の気持ちを知る由もない亜は、目の前にある優希のにそっと額を押し付けた。優希の心臓が人知れず悲鳴を上げる。

「あ……」

「優希くん……好きって言ってくれたのに……」

か細い聲だった。

「え、あ……あぁ」

「分かってる? 優希くんにったの、私が退院してから今日が初めてなの」

優希は心の中で頷く。勿論分かっている、と。意識してれないようにしていたのだから當然である。

「好きだって言ってくれたのに……どうして手も繋いでくれないの?」

両想いになった途端に、片想いのときよりも優希を遠くじてしまう。それが悲しくて寂しい。こんなことならば想いを告げなければよかった……そう思ってしまうほどに。

「亜……」

優希は亜の言いたいことをなんとなく察して、戸いながら彼の背に手を回した。

「こうやって……亜ると、々と我慢できなくなるから……困る。今度は失敗したくない。大事にしたいから……」

飾らない……格好つけない優希の正直な気持ちを聞いて、亜は優希を抱きしめた。

「……っ」

優希のが強張る。

「大事にしてくれるのは嬉しい。……けど、大事にされ過ぎると寂しい。私は、こうして優希くんにりたいし、もっとってほしい」

「おま……っ、そ……そういう言い方……っ」

優希の顔は真っ赤だ。その反応は、亜の言葉を正しく理解した証拠ともいえる。

「優希くんがあからさまに避けるから、贖罪で一緒にいてくれてるだけなんだって……」

「そんなわけ……っ」

「そうじるのは私だけじゃないと思う」

にしてはハッキリとした言いだ。優希に対してこういった言い方をするのは珍しい。そのくらい腹を立てているということなのだろう。

「……言ったろ、ガキの頃からずっと好きだったって。その言葉に噓はない」

「私も、ずっと好きだよ。記憶を失っても優希くんを好きになっちゃったくらい」

真っ直ぐに優希を見上げる亜の瞳に吸い寄せられる。優希はゆっくりと亜に顔を近付け、そっとを重ねた。  

れるだけのキスは、徐々に深くなっていく。薄く開いたを割ってり込んだ舌が亜の口を這い回り、歯列をなぞって彼の舌に絡む。

「ん……っぁ」

の苦しそうな息継ぎが優希の耳をくすぐる度に自分の中のブレーキが利かなくなっていく。彼れたのは初めてだ。

優希の腕に掛かる重みが増す。

を離すと、亜が優希の腕に縋るようにしがみついている。ファーストキスにしては濃厚すぎたかもしれない。

「なん……」

に濡れたが言葉を紡ごうとするけれど恥ずかしいのか続かない。真っ赤な顔で潤んだ瞳が優希を睨み上げても効果はない。それどころか、煽られているようにしかじられなかった。

「可いこと言って怒る亜が悪い」

「な……っ」

「ただ……これ以上ると、我慢できなくなるから駄目」

の額にれるだけのキスをして再度抱きしめる。

公共の場である。これ以上彼れるのは危険だ。今を抑えないと自分でコントロールすることが難しくなる。を抑えられなければ、獣のようにこの場で襲ってしまうだろう。

が記憶を失ってからずっと生活をしているのだから、箍が外れたら彼を抱き潰すまで止められないという無駄で要らない自信だけはある。

「……優希くん、もうしだけ……一緒にいたい……駄目?」

「悪魔だろ、お前」

は優希の顔を覗き込みながら小首を傾げる。

はおそらくそのままの意味で言ったのだろう。しかし、優希の脳は違う変換をしている。

心の溫度差をじつつも、彼と一緒にいる時間が増えるのは嬉しい。

優希は彼と並んで駅へと歩き出した。今度はしっかりと手を繋いで。

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