《不用なし方》第92話

こんなことならば……。

「片想いの方がよかった……」

トボトボと歩きながら呟く。視界が滲んで前がよく見えない。

「そんなこと……言うなよ」

荒い呼吸とともに聞こえてきた背後からの聲に亜が勢いよく振り返る。

「言うよ……片想いのときの方が……優希くんとの距離が近かった……」

「ゴメン……」

優希の手がびてきて、亜を包み込んだ。

「でも、俺……今度は大事にしよう、って……」

「違う……優希くんは怖がって逃げて避けてるだけだよ。避けられてる方の気持ちを考えたことある?」

責めるつもりはないのに、つい責めるような口調になってしまう。

「酷いことしたから……俺が、れることで々思い出すんじゃないか、トラウマになってるんじゃないか、って……」

今まで散々好き放題してきたのだ。彼にトラウマを植え付けていてもおかしくない。

「……優希くん」

「なに?」

「今の私は、ちゃんと自分の気持ちを言えるよ……? 嫌だったら嫌だって言えるし、怖かったら怖いって言える。……私の気持ちを勝手に決めつけないで」

記憶を取り戻し、怪我は亜のせいではなかったと優希本人の口から聞けたことで、亜を雁字搦めにしていた棘だらけの蔦は全てではないけれど消えていった。

「……俺に、られても平気なのか?」

「好きな人にられたくない、りたくない人っているの?」

意地悪な返しになってしまったのは恥ずかしいからだ。

「もうし……一緒にいてくれるか?」

「うん」

著したし離して見つめ合う。どちらともなく瞳を閉じてそっとれ合わせた。

「……えっと、そこにコンビニがあります」

れるだけのキスの後、優希が落ち著きなく頬を掻きながらし先にあるコンビニの明かりを見る。

「あ……うん」

「ちょっと、いってきてもいいでしょうか」

何故敬語? と、意味が分からなくて首を傾げながら見上げれば、優希の顔は街燈の明かりでも分かるほど真っ赤になっていた。

「ど……」

「……買わなきゃいけないものがあるので!」

不思議に思う亜に答えることなく、優希は彼の手を引いてコンビニへと歩みを進めた。店の前で彼を待たせ、真っ直ぐに目的の者が並んだ棚へと向かう。

はそれを眼で追い掛け、彼が手にしたものを見て狼狽えた。

滯在時間は二分もなかっただろう。店を出てきた優希と視線がぶつかると、気まずさと恥ずかしさで顔が赤くなる。

無言で手を繋いで優希の部屋へと戻り、二人は言葉もなく寢室へと吸い込まれていく。

ベッドに並んで腰を下ろし、を重ねる。角度を変え、徐々に濃厚になる口付けに亜の頭が真っ白になっていく。

互いの息遣いしか聞こえない部屋の中で、二人は絡まりながらゆっくりとベッドに倒れ込んだ。

「亜……好きだ」

「私も……好き」

しっかりと見つめ合った二人は、互いの雙瞳で言葉にしない會話をわし、合意のキスをした。

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