彼の溫もりを素にじて、夢ではないのだと嬉しさが込み上げてきた。抱きしめて亜の額にを押し付ける。

罪深い自分が、こんなに満たされた時間を過ごしていいのかと罪悪を抱きつつも幸福を噛みしめる。

そして、病院で亜の目覚めを待っている間に決心したことを話すために小さく息を吐く。彼の腰に回していた腕を解いて仰向けになると、ゆっくりと瞬きをして天井を見つめた。

「……俺、まだ走るから」

優希の……言葉に、亜は重い瞼を持ち上げて彼を見た。

「陸上のできる環境が整ったところに就職して、働きながら走る」

「……うん」

今回のインカレで手応えをじたのだろう、彼の眼には強いが宿っていた。

「だから……なんて言うか……亜には、これからも傍で応援してほしい」

恥ずかしいのか、優希は天井を見上げたままだ。亜は黙って彼の橫顔を見つめた。

「最初は……練習環境も変わるし、仕事も覚えなきゃなんないし、なかなか生活リズムとか心の余裕みたいなのはないと思う」

じっと見つめる亜と、橫を向いた優希の視線が絡み合う。

「まだ先だけどさ……大學出たら、ここに住まないか？」 

「え？」

卒業は二年も先だ。就職活も始まっていない。けれど、就職後のことを考えて語るくらい、優希は再び本気で陸上と向き合おうとしているのだ。

「今、舞い上がってるからって勢いで言ってる訳じゃないからな？　ちゃんと將來のことも考えて……」

「將來？」

將來という言葉に亜が目を見開く。

「まぁ、々落ち著いて、タイミングが合ったときに……って話だけど」

「タイミングが合ったときに……なに？」

亜の瞳には期待で涙が浮かんでいた。

「亜と……家族になりたい」

亜は優希のに顔を埋めた。

「……待ってる」

涙聲になってしまったのは仕方がないだろう。

「あぁ……想を盡かされる前にケジメ付けられるように頑張る」

「約束」

「あぁ、約束だ」

互いの小指を絡めると、優希は徐に彼の指を甘噛みした。

「あ……っ」

優希は亜の聲に苦笑いしてを起こすと、覆い被さるようにして彼を見下ろした。

門限の時間は迫ってきている、けれど……。

「亜……悪いけど、おばさんに怒られて」

優希の言葉に一瞬驚いた亜だったけれど、意味を理解すると、困ったように微笑んで優希をけれるように両手をばしたのだった。