《不用なし方》第94話
大學を卒業した亜たちはそれぞれ就職し、各々忙しい日々を送っていた。
亜は卒業と同時に両親の許可を得て優希の住むマンションに引っ越してきた。
しかし、同棲しようと言い出した當の本人は今現在ここに住んではいない。
毎日その日の出來事を報告し合える程度の時間は持つようにしているけれど、なかなか會うことが難しい狀態だ。
「久々だね、會場でこうやって直接観るの」
亜の右隣で花が頬杖を突きながらトラックを見下ろす。
「そうだね」
亜の左隣で朗らかな笑みを浮かべているのは佳山だ。
「今日は、兄ちゃんにとって大事なレースですから」
花の隣では、がスポーツドリンクを口に運びながら兄の姿を探している。
四人は、優希の參加する陸上大會の応援にやってきていた。 
亜が花や佳山と顔を合わせるのは數日ぶりだ。
三人は大學を卒業してからも連絡を取り合い、社會人としては珍しく頻繁に顔を合わせていた。
花は銀行員となり、佳山と亜は共に理學療法士として働いているけれど、偶然にも職場が近かったため、時間が合えば三人でランチをすることもある。
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「あ……あそこ」
「そうみたいだね」
亜の指差す方向を見て佳山が頷く。
  優希は実業団に所屬して陸上を続けていた。
日本インカレで優勝は逃したものの、悪くない績で復活を果たし、表彰臺に上がった彼に実業団が聲を掛けたのである。
優希は聲を掛けてくれたいくつもの実業団の人たちと何度も會い、たくさん話をして、納得できるところを選んだ。なので、今現在の環境や待遇に不満はほとんどない。
用意された寮に住みながら陸上中心の生活を送っているため、在學中に思い描いていた亜との同棲生活は実現していない。彼の不満はそのひとつだけだ。
とはいえ、寮生活が陸上に打ち込む環境として最高なのは否定できない。陸上を続けると決めたのは他の誰でもない優希自……こうなることは実業団り前から分かっていた。自分の選択を後悔してはいない。
「そういえば、はどうしたのよ?」
花が佳山に尋ねる。亜たちよりも一年早く卒業した岡部も実業団にって陸上を続けている。
「岡部さんはもう決まってるんですよね?」
「うん四百だったかな」
「なにか違うの?」
「大きな違いは距離とソロかチームかってところですね」
花の疑問にが答える。
岡部は既に二つの競技で日本代表に選出されているけれど、優希はこの日の結果次第で代表選考に名を殘すかどうかが決まる。
「彼は頑張ってると思うよ、本當」
佳山が呟く。
「本當、岡部さんには謝しかないです」
優希が再び陸上を始めるキッカケを作ったのは彼だ。口にはしないものの、優希自も岡部に謝している。
怪我をしてしばかり遠回りをしたけれど……彼は再びトラックに戻ってきた。
自信に満ちた顔の優希がトラックに立つ。仲間と手を上げ合って小さな笑みを浮かべると、両手で頬を叩いた。腕や、脹脛と順番に叩いて気合いをれる。
それを見て、亜は"大好きな姿だ……"と顔を綻ばせた。 
優希のチームがスタートラインに歩み出る。運命の瞬間は間もなくだ。
優希は視線を上げ、スターターの男だけに集中する。途端に歓聲が聞こえなくなった。聞こえるのは自分の呼吸……そして、聞こえるはずのないスターターのきに合わせたれの音。
亜は両手を組んで祈りながら、スタートを待つ優希を見つめた。
乾いた音がスターターの持つピストルから発せられ、一番走者が同時にスタートを切る。
優希は二番走者。四人の中で走る距離が一番長い。テイクオーバーゾーンで二番目にバトンをけ取った優希は、一位に追い付き、ほとんど差がない狀態で三番走者へとバトンを繋いだ。代表爭いをしている選手たちの実力に大差などあるはずがない。運命は最終走者に託された。
ほぼ橫一列の狀態でゴールに突っ込んでいく。大型スクリーンに僅差で優希のチームがゴールテープを切っている様子が映し出される。會場が大きな歓聲に包まれた。
優希は最終走者のゴールを見て高々と両手を上げていた。 
大きな歓聲が會場を揺らし、近くで寛いでいた鳥たちが驚いて一斉に飛び立つ。
その景に歓聲は一層大きくなったのだった。
數日後、新聞は全紙で優希の日本代表決定を報じた。
出會ってから二十年以上。
アクシデントやすれ違いを経験することによって絆を強めた二人に、ようやく穏やかな季節が訪れていた。
ー Fin ー
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