《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第2話 鏡とミラー

以前持っていた、白雪姫の絵本のことを思い出した。

正方形に近い形の本だったと思う。

表紙はつやつや、イラストはアニメ調で、白雪姫の瞳にはキラキラの星がいくつも描かれていた。

プリンセスは小さなの子たちの憧れで、私も小さい頃は、熱心にその絵を描いていた。お友達と絵の見せ合いっこもしたっけ。

し記憶が戻ってきた。でも、これは今いる世界の記憶じゃない。

夢か、前世の記憶か……。

夢とは違う気がする。

私はあの絵本のくてツルツルした手りを、とてもリアルに思い出せるから……。

だったらやっぱり私は白雪姫の世界に來てしまったのか。

昨日は信じられなかったけれど、一晩考えた結果、そう考えるのが妥當な気がする。

「鏡よ鏡、世界で一番しいのはだあれ?」

王妃の間にある鏡に問いかけてみた。絵本と同じ、金のレリーフに彩られた大きな丸い鏡だ。

鏡からの返答はなかった。殘念ながら、これは魔法の鏡ではないらしい。

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メイドさんが花瓶の水を替えに來て、鏡に話しかけているところを見られたかと思ったけれど、たぶん気のせいだった。

何事もなく去っていく背中を見てほっとする。

あの絵本の魔も、たまにはこうやって気まずい思いをしたのかな?

“それはお妃さま、あなたです”なんて答えてくれる鏡があれば、多恥を掻いても強く生きていけるのかな? 自己肯定って大事だし。

でも魔法の鏡は、ある時“それは白雪姫です”って正直に答えちゃうんだよね。

鏡が正直すぎたから白雪姫が魔に恨まれることになったわけで。空気を読む力と忖度の重要を示唆するエピソードでもある……。

とりあえず、目の前にある普通の鏡は私に忖度してくれなくて……。

アラサーくらいのぱっとしないがそこには映り込んでいた。

これが私。

黒髪に黒い瞳。顔があまりよくない。

目鼻立ちはかろうじて整っているようにも見えるけれど、とりたてて人というほどでもなかった。

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見方によってはつり目がキツい印象だ。

悲しいかなお姫様より、この顔は魔役なんだろう。

どうせなら憧れの、白雪姫になりたかったのに……。

そういえば稚園の時の発表會でも、お姫様役はもっと可い他の子だったっけ。

人生、誰しもが主役になれるわけじゃない。そこはれよう。

そしてこんな私と結婚したいと言ってくれる、フリオ王をれるべきなのか。 彼はちょっと強引だけれども悪い人じゃなさそうだし、頼る相手のない私にとって、その後ろ盾は頼もしかった。

問題はひとえに彼が、白雪姫の父親だということだ。

私が彼の寵を得ようとしたら、はかなく可憐な白雪姫に危害を加えることになってしまうのか……。

でも、そんなことってある……!?

さすがに私も、私利私のためにか弱いの子を毒殺しようとするほど人でなしではないと思う!

え? どうかな? 記憶がないから自信ない。

人間、追い詰められたら何をしでかすかわからないし。

うーん……。

「鏡よ鏡、世界で一番しいのは――」

もう一度、決まり文句をつぶやいてみたその時……。

後ろから聲がした。

「それはお妃さま、あなたです」

「…………!?」

驚いて振り向くと、そこには若い男が立っていた。

「誰……?」

部屋の外には警備の兵士もいるけれど、この部屋の中まで來るのは、フリオ王のほかはの回りの世話をしてくれるメイドさんくらいだ。

だから彼を見て驚いてしまった。

彼は服裝からして兵士のようにも見えない。につけた長いローブはまじない師か何かみたいだった。

フードの隙間からのぞく髪は波打つ金髪。瞳は何もかも見かすような強いエメラルド。危うい気の漂うほっそりした首元が印象的だった。

彼はのよいで私に微笑みかける。

「誰ってひどいですねえ、ミラーですよ。僕をお忘れですか?」

続いてささやき聲で言う。

「それとも、王に取りって得た富を、獨り占めしようっていうんです?」

に覚えがないのにドキリとしてしまった。

何も言い返せないでいる私に、彼は続ける。

「この宮殿へり込むのに苦労しましたよ。ソシエお嬢様が手引きしてくれる手はずだったのに、音沙汰なしなんですもん! 僕のことを忘れてしまうほど、ここでの生活が楽しすぎましたか? ひどいなあ。ここ數日、僕がどれだけ気をんだか」

正直、何を言っているのかさっぱりだ。

  でもひとつわかったのは、このミラーという男が私のことを知っているらしいということだ。

「私は誰なんですか? その“ソシエお嬢様”っていうのが私?」

思わずかぶりつくようにして聞くと、彼は目を丸くする。

「まさか本當に忘れてしまったんですか!? なんてことだ……」

彼は私全を見ようとするように距離を空ける。

ミラーにとって、これは困った事態らしい。

困っているのはこっちも一緒だ。それで私は事を説明する。

「気がついたら森の中に倒れていたんです。どうしてそこにいたのかわからなくて。たまたま王様に助けられて、帰るべき所もわからないから、ここに……」

「たまたま?」

ミラーが勢いよく笑いだした。

「そんなわけないでしょう! すべてはお嬢様自の策略、そしてご自の魔法のたまものです」

「魔法?」

そう言われてもなんのことやら。

「お嬢様はフリオ王が森へ狩りをしに行くのを知って先回りし、魔法で幻したのです。これはあなたと私の間であらかじめ計畫されていたことでした。バスカヴィル家再興のため、必要なことだったのです」

つまり私は貧しい貴族の令嬢で、魔法で王をし、援助でも得ようとしていたのか。

小ずるいやり方だとは思うけど、それは一旦置いておこう。ほかにもたくさん疑問がある。

「じゃあ……私、魔法が使えるの?」

その事実が一番、私の興味を引きつけた。

「ええ、もちろん」

ローブの袖から取り出した小枝を、ミラーがこちらへうやうやしく差し出す。

が使う魔法の小枝だろうか。

「ソシエお嬢様ほど偉大な魔はおりません。あなたは僕の魔の師匠であり、僕はあなたの忠実なしもべです」

「…………」

私は渡された小枝を振ってみた。

絵本の魔は、どうやって魔法を使っていたっけ?

「しかし、お嬢様が王妃になられるとは驚きでした。そこまで王を魅了するとは、さすがの魔力です。ああっ、そうか、強いを使ったせいで、お嬢様は記憶を失ってしまったのですね。魔法は基本、等価換ですから……」

「……わっ!」

振った小枝の先から小さな火が出た。

何も念じていなかったのに。魔法ってこんなに簡単なのか。だったらちゃんとやり方がわかれば、もっとすごいことができるかもしれない。

小さな火はすぐに消え、小枝の先から糸のような煙が出た。

「私、本當に魔法が使えるみたい……」

「當然です。バスカヴィル家は、偉大なる魔法使いの一族ですから」

ミラーがを張る。

「あなたもバスカヴィル家の人なの?」

「いえ、僕にもしバスカヴィルのっていますが、平民の出です。平民の僕に魔法を教えたのは師匠であるあなたですよ」

ミラーがこげた小枝の先に息を吹きかけると、小枝は元通りみずみずしい狀態に戻った。

私たちは本當に魔法使いらしい。

驚きと興。それに遅れて重い現実がのしかかる。

私は白雪姫の継母である、悪い魔……。

魔法が使えるとなると、それはほぼ確定だ。

王とはまだ結婚していないけど。

「そうだ、私、フリオ王のプロポーズをれてないんだけど!」

それなのにミラーは『お嬢様が王妃になられるとは驚き』だと言った。

どういうことなのか。

する私を見て、ミラーがくつくつと笑った。

「すでに城下におれが出てますよ? 婚禮の儀は、確か來月の聖マグダレーナの日に合わせて盛大に執り行われるそうです」

「……! 私、そんなの聞いてない!」

「相手は國王ですからね。逆らえる者はいない。王があなたを妻にすると決めたらそうなるでしょう」

おそらく王は、私がノーと言わないことを見越しておれを出したんだろう。

儀式の準備より、を口説く方が簡単だ。最後は権力でなんとでもなるだろうし。

愕然とする私にミラーが耳打ちする。

「大丈夫ですよ。夜のお相手がお嫌なら、避ける手だてはいくらでもあります。ぬいぐるみでも用意して、それがお嬢様に見えるよう魔法をかければいい」

「…………」

ぬいぐるみ相手に腰を振るフリオ王を思うととても哀れだが……。そういう手があるなら私も多は気持ちが楽だ。

「……ねえ、その魔法を教えてくれる? 私にもできるかな?」

「ええ、やり方さえわかれば簡単です。記憶を失っていても、お嬢様はもともと強い魔力をお持ちなのですから」

ミラーはをたたいた。

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