《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第15話 木イチゴの森の罠

りのカリソンはミラーが持ち去ってくれたけれど、若いメイド――ルネの死は、私の暮らす王妃の間に暗い影を落としていた。

「レディ、どうも君は顔が優れないみたいだな」

數日ぶりに部屋へ來たフリオ王が言い當てる。

彼は地方視察のため、ここのところ宮殿を留守にしていた。

「ごめんなさい、し考えごとをしていて」

「考えごと?」

「ええ、そう……お菓子のことです!」

私は笑顔で取り繕う。

「今の時期、森で木イチゴが採れるかなと。あれをジャムにしておくと、お菓子作りにとても役立つと聞きました」

木イチゴの話でごまかせたと思ったけれど、そうはいかなかった。

「レディ、こっちを向いてくれ」

フリオ王が両手で私の頬を包み込み、顔を上向かせる。

正面から目が合った。

「やっぱり君はいつもと違うな。私の留守中、何があった?」

「……っ……」

ダメだ、私はウソが下手だ。

「私との結婚を後悔していないか?」

「……!? まさかそんなことは」

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私の顔をのぞき込んでいたフリオ王が、軽く口元を緩めた。

「よかった。結婚早々、妻に捨てられたくはないからな」

「私が捨てる? どうしてそんなこと……。結婚を誓ったばかりなのに」

「人の心は変わるものだ。が一瞬にして憎悪に変わることもある。語の中でも、それに現実でもよくあることだ」

その話を聞き、どうしてかスノーホワイトの顔が浮かんだ。

王がまるで心を見かすようなタイミングで言う。

「それはそうと私がいない間、スノーホワイトが君に迷をかけなかったか?」

「迷? まさか。とてもよくしてくれています」

「だったらいいんだが。それはそれでし妬けてしまうな」

王は私の頬から手を離し、困ったような笑みを浮かべた。

片側の頬に魅力的なえくぼが浮かぶ。

「私が王子だったら君をひとときも離さないんだが……。殘念ながら私は王で、また別の地へ兵たちを勵ましに行かなければならないんだ」

「いつ発たれるんですか?」

「明日には発つよ」

「えっ、それはお忙しいですね」

「君の顔を見に戻ってきたんだ」

さっき私の頬から離れた手が顎の下をなで、王の目がすっと細められる。

きれいな瞳に見とれているうちに、同士が合わさった。

私は不意打ちのキスに目をみはる。

「そうだ、君は木イチゴを摘みに行ったらどうだ? し遠いが王家の森で、適當な場所がある」

「本當ですか?」

「ああ。王家の森なら安全だ。私は同行できないが、気晴らしに行ってくるといい」

確かにこの宮殿を離れれば、しは気晴らしになりそうだ。

「ミラーはいるか?」

「はっ。こちらに」

続きの間に控えていたミラーが私たちに近づき、に手を當ててひざまずいた。

今、ミラーは私の従者として王家に仕えている。

本人に王家に仕えるつもりはなく、従者の分はあくまで私のそばにいる口実だということだけれど。

フリオ王がミラーに言う。

「君に木イチゴの森の場所を教えておく。妻を連れていってやってくれないか」

「かしこまりました」

「よかったらスノーホワイトもってやってくれ」

王はそれだけ言うと、慌ただしく王妃の間を出ていった。

「スノーホワイトも?」

ミラーがなんともいえない顔でつぶやいて、こちらへ戸いの視線を投げかけた。

「これはまたやっかいなリクエストですね。カリソンの件も片付いていないのに」

「陛下が言うならいましょう。わないのも不自然です」

「それはわかっています。しかし……」

ミラーは痛む頭を抑えるように、片手で額を覆った。

「命がけで木イチゴ摘みですか。酔狂なことです」

彼は木イチゴの森で、スノーホワイトに襲われることを心配しているんだろうか。

ミラーが警戒するのも仕方ない。私としては、そうならないことを祈るしかなかった。

そうだ、カリソンの件も、スノーホワイトは関係ないってことがわかればいいけれど。

木イチゴ摘みの時に話すきっかけがあるだろうか。

私は無意識に指で自分の下をなぞる。

するとミラーが苦い顔をして笑った。

「見せつけないでくださいよ」

毒は塗ってありません、と言い添えハンカチを渡される。

(もしかして、さっきのキスのこと?)

フリオ王にキスされたのを、ミラーに見られていたらしい。

ったのは、別にそのキスを思ってのことではなかったのに。

思わず顔が熱くなった。

「お嬢様はあの王が好きですか?」

ミラーが直球で聞いてくる。

「家名と領地を返してもらえたんですから、キスくらい許してあげてもいいんでしょうが、あんまり見せつけられると僕があの王を刺してしまうかもしれないので注意してくださいね? 僕はスノーホワイトほど甘くありませんよ。殺すときは一発で仕留めます」

彼は笑いながら、なんだか恐ろしいことを言っている。

「えーと、なんの話だっけ? 木イチゴ摘み?」

「そうでしたね」

ミラーの顔から不吉な笑いが消えた。

「そちらは萬全を期して準備を進めます。誰が敵か味方かわからないので……。というか、僕らに味方はいないので、最人數で行きましょうか。馬車は一臺で十分かな。借りられるよう、馬丁に話をつけてきます。それから気乗りしませんが、スノーホワイト殿下にも……」

「うん、よろしく」

「ではさっそく」

彼は優雅にお辭儀して、王妃の間を出ていった。

結局、木イチゴの森へは私とミラー、そしてスノーホワイトの三人だけで行くことになった。

ミラーが「最人數で」と言っていたけれど、まさか護衛なしで王子を連れ出すことになるとは思わなかった。

當然スノーホワイトの従者たちは同行するつもりだったらしい。けれどスノーホワイト本人が嫌がったのだ。

それで従者のうちの二人が別働隊として、私たちの馬車の後ろを離れて著いてくることになった。

何かあった時は駆けつけてくれるらしいけれど……。

王子の従者も大変だ……。

「王家の森に、木イチゴの群生地があるなんて知らなかったな」

私と並んで馬車に揺られるスノーホワイトはご機嫌だ。

今日はお忍びということで、町娘のようなずきんを被っている。それでもが華やかで、頭巾は黒髪に映える純白。スカートはこれから摘む木イチゴのような赤だった。

「ねえ見て、向こうに水車が見えるよ。あっちはぶどうの畑かな?」

車窓の景を指さして、スノーホワイトは逐一私に教えてくれる。

キラキラしたその笑顔には、悪意のかけらも見當たらない。

カリソンの事件のことで多疑心暗鬼になっていたけれど、スノーホワイトはやっぱり白だ。

毒を盛ったその相手の前で、こんな屈託のない笑顔ができると思えなかった。

悪事がバレているかもしれない、そう思ったら普通、張が顔に出る。

「まもなく著きますよ」

者臺にいるミラーの聲が聞こえた。

目印になっている小道の脇の、大きな樫の木に馬車を繋ぎ、私たちは木イチゴの森に足を踏みれる。

ミラーが地図と、方位磁針を持っていた。

「こちらです」

森にると背の高い木々のせいで、辺りがし暗くなる。

王家の森といっても他の森と雰囲気は違わなかった。

むしろ一般の人がらないせいで、草木が余計に生い茂り、鬱蒼としている。

ミラーとスノーホワイトがいなかったら、きっと心細かった。

木イチゴの群生地はどこなのか。

草木を掻き分けて進み、迷ったんじゃないかと不安になったころ、し拓けたところに出た。

「わあっ!」

「ここですね」

足下に寶石のような赤い実が、ポツポツと実っていた。

見るとかなり広い範囲にそれは散らばっている。

「これだけあれば、持ってきたかごは一杯になりますね」

ミラーが言う隣で、スノーホワイトはもう木イチゴの実を口にれていた。

「ねえ、食べてみて! 甘酸っぱくて味しいよ!」

「本當だ、甘くて味しい!」

私たちは夢中になって木イチゴを摘んだ。

何かに夢中になるのはいい。イヤなことを忘れられる。

けれども無心に作業をしていると、ふとした瞬間に別のことが頭をよぎる。

白雪姫は、森に置き去りにされたんだっけ……。

スノーホワイトの姿が見えない気がして、私はしゃがんでいた場所から立ち上がった。

よかった。すぐそばの茂みのにいる。

「どうしたの?」

「ううん、なんでもないの」

突然立ち上がった私を、スノーホワイトが不思議そうに見上げた。

それからしばらくしてミラーが聲をかけてくる。

「そろそろお茶にしましょうか」

ミラーがお茶の準備をしてくれていたらしい。

に広げられた敷の上に、水筒と、いくつかのお菓子が乗っていた。

に近づき、私は目が點になる。

(これ――!)

ぞくりと寒いものが背筋を突き抜ける。

見覚えのあるお菓子がそこに置かれていた。

ガラス容でなく紙に包んであるけれど、それは紛れもなくあのカリソンだ。

ミラーが持ち去ったはずの、毒りの……。

「さあ、座ってください」

ミラーは笑顔で手招きする。

彼は何を考えているのか。

張り付いたような笑顔が怖かった――。

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