《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第18話 こびとと寶石

私は森を歩きながら、昔読んだ絵本のことを思い出す。

森に置き去りにされた白雪姫は、森をさまよい、七人のこびとの家を見つけるんだっけ。こびとたちはダイヤモンドやルビーを掘って暮らしている。

となるとスノーホワイトに會うには、こびとの家を探せばいい。

こびとの家は木イチゴの森じゃなく、寶石の採れる鉱山の近く?

でも鉱山なんて、いったいどこに……!?

ずいぶん歩いて、とりあえず木イチゴの森にはたどりついた。

城からここまで丸一日かかってしまった。空はすっかり夕焼けに染まっている。

私は巖の上に座り込み、宮殿から持ってきた林檎をかじった。

林檎は毒りんごを連想してしまって、あまり持ってくる気がしなかった。林檎なんて持ってたら、私が絵本の悪い魔みたいだ。

けどメイドさんにお弁當を頼むわけにもいかないし、手近なもので弁當代わりになるものは、パンと林檎くらいしか思いつかなかった。

暗くなっていく森で林檎をシャクシャクかじっていると、不思議と腹が據わってくる。ひとりで森にいるのは怖いけれど、自分の恐怖心に負けてなんかいられない。

Advertisement

私はスノーホワイトを見つける。

林檎を食べ終わると、持ってきた手提げのランプに火を燈した。

これがあれば野生生は、火を恐れて近寄ってこないはずだ。

私はまた歩く。こびとの家と鉱山を探して。

迷わないよう、通った場所の木の幹に、果ナイフで傷をつけていった。

しばらく歩いて、元の場所に戻ってきた。戻ってきてしまったというべきか。

私は林檎を食べたのと、同じ巖にまた腰を下ろす。

どうしよう。今日はここで野宿する?

腳が棒になっていた。

そんな時、私は暗い景の中に、何かるものを見つける。

一瞬だけきらめいた。

さっきから探していた、こびとの家の明かりとは違うと思う。淡い反だ。私の持っているランプのを反した……。

私は巖から立ち上がり、さっきった方向へ目をこらす。

すると何かがいていた。

息を潛め、私はゆっくり近づく……。

(あっ!)

思わず息を呑んだ。

それはこびとたちの運ぶ、大粒のルビーだった。

普通、寶石の原石は、そのままでは輝かない。カットして磨かないと。

でもこびとたちの抱えるそれは、しくカットされたものに土が付いている。

私は口をぽっかり開けて見つめた。やっぱりこの世界は、私の知っている世界とは違う。

でも見つめてばかりはいられない。こびとのあとを追わなければ。

こびとを追っていけば、きっとこびとの家にたどり著く。そこにスノーホワイトがいるかもしれない。

こびとはふたりで、ルビーの前と後ろを抱えている。

ルビーは人間でも小脇に抱えるようなサイズだった。つまりとても大きい。あれが本當にルビーなのかはわからなかった。正不明の、赤く輝く寶石だ。

一方、こびとは私の腰のあたり程度の背丈だった。そういうと人間の子どもみたいだけれども、彼らは子どもじゃない。つきはたくましい人男のものだし、顔つきもそうだった。ひとりは立派なひげをたくわえ、もうひとりは頭も顎もがなかった。いわゆるスキンヘッドだ。

こびとって、もっとかわいいイメージだったのに。ワイルド系だ。

七人のこびとなら、どこかにあと五人いるんだろうか。

それはともかくルビーを運ぶこびとたちに、こちらを警戒する素振りはなかった。

私は手にしていたランプの火を消し、足音と息を潛めてついていく。

どうか見つかりませんように。

見つかっては、すべてが臺無しになってしまう気がした。

こびとは木イチゴの森を抜け、曲がりくねったけもの道を行く。

山道を上ったり、下ったり。とたんに進んでいる方向がわからなくなった。

私は追いかけるのに必死で、木にナイフで印をつける余裕もなかった。

こうなるともう、元の森に戻れる保証はない。でももう、信じて進むしかない。

スノーホワイトとの再會を信じて……。

さらに山道を下りていき、山の谷間のような場所に出た。

月が山に隠れて月明かりがなくなってしまい、數歩先を見るのも困難だ。

(こびとさんは……!?)

ルビーを運ぶこびとを見失う。

まずい! せっかくここまで追ってきたのに。

私は草を屈め、前方の暗がりへ目をこらす。

「なんだお嬢ちゃん、俺たちに何か用か!?」

「――ひやあっ!?」

すぐそばで聲がして、私は思わず悲鳴をあげた。

橫を向くとこびとたちの顔が、息もれ合う距離にある。

ひげのこびとがニイッと白い歯を見せた。

「あやしいヤツだな。俺たちのお寶を盜みに來たんじゃないのか?」

スキンヘッドが隣で言う。

「だろうな。こんなところまで付けてくるなんて、それしか考えらんねえな」

「違います、私は……」

スノーホワイトのことを言っていいのかどうか悩む。人捜しとだけ言う?

その時、スキンヘッドのこびとがぼそっと言った。

「この、スノーホワイトちゃんを殺そうとした、悪い魔なんじゃ……」

「!?」

こびとたちはスノーホワイトのことを知っていて、私のことも話に聞いているらしい。

スノーホワイトが私のことを、悪い魔だと言っていたなんて……。正直ショックだけれど、今はショックをけている場合じゃない。この場を切り抜けなくちゃ。

「私はっ、ただの林檎売りです……。林檎を売りに行くのに、道に迷ってしまって」

バッグから、お弁當代わりに持ってきた林檎を出してみせた。いくつか持ってきたのを、食べきってしまわなくてよかった。

これでごまかせただろうか。

「林檎売りぃ?」

スキンヘッドのこびとに林檎を奪われる。

「確かにこれは林檎だな。しかも上等な」

味そうだな」

「スノーホワイトにあげたら喜ぶかもしれない」

こびとたちは暗がりの中、林檎をのぞき込んだり、匂いを嗅いだりしている。

「魔じゃなく、ただの林檎売りか」

「いくらでこれを売るつもりなんだ?」

「えっ……?」

正直、相場も何もわからなかった。

なんて答えたらいいのか。私は悩んだ末、ある思いつきを口にする。

「一晩、納屋の隅にでも泊めていただけるなら、タダでさしあげます。こんな立派な林檎はなかなか手にりませんよ?」

なにせ王宮の、王の間に置かれていた林檎だ。安のはずはない。

「林檎売りを泊めれば林檎が手にるのか」

こびとたちは乗り気みたいだ。

こびとの家にスノーホワイトがいるなら、スノーホワイトに會える。

その時彼が、私にどんな態度を取るのかわからないけれど……。

私は無事を確認しにきたんだ。どんな態度を取られたって我慢する。

「よし、來いよ! 俺たちの家に泊めてやる」

スキンヘッドが暗がりの向こうへあごをしゃくった。

こびとの家は、すぐ近くにあるらしい。

心臓がどくんと鳴った。

    人が読んでいる<白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください