《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第22話 ハッピーエンドのその先

「あーあ!」

再び暗くなってしまった地下室で、スノーホワイトがなげく。

「ボクを殺せばここから出られたのに、いい人ぶってそれができないなんて。レディは意気地なしだ!」

タイミングがいいのか悪いのか、私のお腹がグーッと悲鳴をあげた。

確かに、ミラーにそそのかされるままスノーホワイトに手をかければ、こうして空腹に泣くことはなかったのかもしれないけれど……。

「言ったでしょう? 私はスノーホワイトを守りたいって」

その決意は変わらなかった。

「自分の命がかかってるのに?」

スノーホワイトがため息をつきながら歩いていって、床に落ちているカリソンを拾った。

「それでも、やっていいことと悪いことがあるでしょう?」

「神さまを信じない魔が、そんなこと言うなんて。変なの!」

彼は笑って、カリソンに息を吹きかける。

「それ、どうするの?」

りだったら大変だ。

「――えっ、スノーホワイト!?」

私が止める間もなくスノーホワイトは、カリソンを口にれてしまった。

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慌てる私に、彼は平然と言葉を返す。

「大丈夫だよ。レモン味のは毒りじゃないから」

「ええ……? もー、壽命がむ……」

「ボクのこと、ほんとに心配してくれたんだ?」

彼はまたカリソンを拾い、くんくん匂いを嗅いでいる。

りとそうでないものを、匂いで見分けているらしい。

「はい、レディ・ソシエもこれ。お腹空いてるんでしょ?」

「ありがとう……」

渡されたそれを私も口にれた。

変な味はしなかった。前に食べたオレンジのカリソンとおんなじだ。

スノーホワイトに殺意があれば、今私に毒りのカリソンを渡すこともできたはずだ。でも彼はそうしなかった。

私を生かしておけば、スノーホワイトは私に殺されてしまうかもしれないのに……。

「食べたの? そっか、ボクのこと信用してくれるんだね」

「こんなところであなたに殺されちゃうなら、その時はその時だよ」

私たちは今、お互いの命を握り合っていた。

「それって、ボクになら殺されてもいいってこと?」

闇より深い漆黒の瞳が私を見つめる。

「そういうわけじゃないけど……。あなたは私にとって、特別なの」

どう説明していいのか。悩んだ末、私はあの語について話すことにした。

「私ね、森で陛下に拾われる前の記憶がないんだけど、ひとつだけ覚えていることがあるんだ。話の絵本のこと……」

私はスノーホワイトと一緒に壁に寄りかかって座り、話を始める。

「へえ、どんな絵本?」

「白雪姫っていう可いお姫さまの語なの」

「白雪姫?」

「うん。スノーホワイトと同じ意味の名前」

「もしかしてその語の中では、ボクは本當にお姫さまってこと?」

スノーホワイトはきらきらと瞳を輝かせた。

「そうだよ。白雪姫は、誰からもされる可い可いお姫さま。でも魔である継母が、そんな白雪姫のしさをねたんで殺そうとするの」

「継母ってことは……レディ・ソシエ?」

「絵本に魔の名前は出てこなかったけど、魔の継母っていったら私のことだよね」

私は苦笑いで返す。

「それで、白雪姫は魔に殺されちゃうの?」

「ううん。魔の渡した毒りんごを食べて仮死狀態になってしまうんだけど、王子さまのキスで目覚めるの。そして王子さまと結ばれる」

「王子さまと……」

スノーホワイトは夢見るように、ほうっと息を吐き出した。

「でもボクは王子さまより、どうせなら可の子と結ばれたいかな」

「そうだよね……」

いもの好きなスノーホワイトだ。かっこいい王子さまより、可の子の方が好きに違いない。

「王子がボクの下僕になってくれるなら、まあ考えなくもないけど」

(えーっと、そういう方向のお話ではないような……)

そんなことを考える私の隣で、スノーホワイトが続ける。

「それでお話の魔はどうなるの? 白雪姫が王子の國に嫁ぐなら、彼が國からいなくなってくれて萬々歳?」

「それがね、そうはいかなくて。白雪姫の命を狙った継母は、悪い魔として殺されてしまうの」

「そっか、魔は殺されちゃうんだ? チヤホヤされたかっただけなのにかわいそう」

くなりたいスノーホワイトは、しさに固執する魔の方にしているみたいだった。

「私はね、可い白雪姫を危ない目に遭わせたくないし、悪い魔として殺されたくもない。だからミラーに言われても、スノーホワイトに危害を加えるようなことはできないよ! これは前からずっと考えてたことなの」

熱弁を振るう私に、スノーホワイトが不思議そうな顔で尋ねる。

「それはつまり、絵本と同じことが現実で起きてるって考えてるの?」

「え……?」

その質問にドキリとした。

客観的に見れば私は、絵本と現実を混同しているみたいだ。

でも記憶のない私にとって、あの絵本の記憶は唯一、自分の過去に繋がる手がかりだ。ただの語だと無視できる存在じゃない。

「私は……、自分が白雪姫の語に迷い込んできちゃったんだと思ってる……」

変に思われるかもしれないけれど、実際そう考えていた。

「レディ・ソシエ……。もしそうだとしたらあなたがこの世界に來てくれて、こんな心細い時に一緒にいてくれて、ボクは嬉しいよ。レディはボクの“王子さま”だ」

スノーホワイトが甘えるように、私の肩に頭を乗せてきた。

「悪い魔じゃなくて、王子さま……?」

「うん……」

スノーホワイトがそう言ってくれるなら、私はとっても救われる。

「でも……。違うのかな?」

彼はそう言葉を続け、私の肩に持たせかけていた頭を起こした。

「違う……?」

「うん。レディ・ソシエは悪い魔じゃなく、主人公の白雪姫なんじゃ?」

「え……?」

思いも寄らなかった考えだった。

「白雪姫? どうして私が……?」

「だって、白雪姫は、王子さまと結ばれるんでしょ? レディはバスカヴィルの人々にとってはお姫さまなんだし、パパだって昔は王子だったわけで……」

「!?」

「ね? 條件的に、そんなにズレてないと思う」

なんと返していいのかわからなかった。

確かにスノーホワイトの考えは、ある程度筋が通っているように思える。

彼の言うとおり私が白雪姫なら王子さまと結ばれた今は、すでにハッピーエンドのその先だ。この先、大きな不幸は起こりえない。

「もしそうだったらいいのにね」

私は笑って答えた。

でもこうして地下に閉じ込められている今、私はやっぱりハッピーエンドにはたどり著いていないんだろう。

私が何者だとしても、ここは語の途中だ。幸せなエンディングはまだ見えてこない。

「王子さまが來てくれるよ」

スノーホワイトが勵ますように言った。

「王子さまが……」

絵本に出てきた、白馬の王子さまを思い出す。

それからフリオ王の顔が浮かんだ。

私の王子さまはあの人だ。そんなことを口にするのは気恥ずかしいけれど……。

ううん、心の中で思うくらいいいよね?

そんな時、上から足音らしき音が聞こえてきた。

「……ねえ、今!」

スノーホワイトと顔を見合わせ、私は耳を澄ます。

足音が複數。馬のひづめの音も聞こえた気がする。

(もしかして……!?)

が騒ぎだした。きっとフリオ王だ。

陛下、私はここにいます! そうびだしたい気持ちを必死で抑える。

何やら言い合う聲も聞こえた。

私は音に全ての意識を向けたまま立ち上がり、そして――。

頭上で四角いり口が、音をたてて厳かに開いた。

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