《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第26話 裏切り

「お嬢様、何をするんです!?」

ミラーが私を止めようとする。

スノーホワイトがその隙を突き、出口に向かって駆け抜けた。

ミラーははっとして振り返ったけれど、スノーホワイトを追いかけはしなかった。

その代わりに私を抱き留める。

私は林檎の毒でが痺れ、ミラーのに倒れ込んでいた。

「ソシエお嬢様……!? まさか……」

ミラーがらしくもなく取りしている。

「そんな……やめてください! 彼を逃がすために、わざと毒りの林檎を……?」

「……ええ……」

私の口からは自然と笑みがれていた。

「でも……、どちらが毒りなのかあなたは知らないはず!」

ううん。私は知っていた。

ふたつある林檎のうち、どちらが毒りか。

毒林檎をイメージして小枝を振り、ポケットから手元に移してきた方が毒りだ。

「私、魔なんだよ……? ミラー、そのこと忘れてる……」

どちらが毒りか知っていたからこそ、私はスノーホワイトに林檎を食べさせることができたんだ。そうじゃなければ、こんな恐ろしい勝負には出られなかった。ミラーはとても手強いから。

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スノーホワイトの足音が、遠ざかっていき聞こえなくなった。

私は無事に彼を助け出せたみたいだ。

悪い魔として殺されるより、よっぽどいいエンディングだ。

ミラーの溫かな腕の中、意識が急激に薄れていく。

苦しいのに、気持ちは穏やかだった。

ミラーは彼らしくもなく泣いているみたいだ。

彼の長いまつげを濡らす涙が、をキラキラと反していた。

(ミラー……。そばにいてあげられなくて、ごめん……)

孤獨な魔と魔法使いは、本來なら一対だったはず。

私が記憶を失わないままの、ソシエだったら……。

命のともしびと一緒に、握っていた毒林檎が落下する――。

* * *

* *

「行きましょう、お嬢様。ふたりになれる場所へ……」

ミラーは事切れたソシエのを、橫抱きに抱きかかえた。

目的は果たされなかった。

世界を敵に回しても添い遂げたかった相手を、自ら調合した毒で殺してしまった。

かくなる上は共に天に召されるしかない。

しかしふたりは大いなる神に刃向かう存在――魔法使いだった。

「ふたり一緒ならそこが地獄でも、構いませんよね……?」

窟のり口に向かって歩きながら、ミラーはまだ溫かい主の頬にキスをする。

次の瞬間、しんみりした空気をぶち壊す不快な足音が聞こえてきた。

「おい魔法使い! そのをこっちへ寄越せ!」

何かと思えば、七人のこびとのうちのひとりが立ちふさがっている。

汚らしくひげを生やしたこびとだった。

「君たちの取り分はスノーホワイトだっただろう? で、そのスノーホワイトは今、そっちへ逃げていったと思うけど」

「他の奴らは知らないが、俺はガキには興味なくてな。その年増を置いていけ!」

彼は図々しくもソシエのを指さした。

「ハッ。こびとごときがソシエお嬢様を所するとは……。死にたいのか!? 僕は今、モーレツに機嫌が悪いんだが!」

怒りのオーラがミラーを包み込む。

ひげのこびとは一瞬怯んだかに見えたが、その場に踏み留まった。

「道を空けろ!」

「そうはいかねえなァ!」

魔法を使うには両手がふさがっている。

を下ろせばいいことだが、腕に抱いた大切なものをミラーは一瞬でも手放したくなかった。

「本當に死にたいらしいな!?」

手が使えないなら足がある。ミラーはこびとを踏み潰そうとした。

「グッ……、クソッ!」

ひげのこびとは足蹴にされながらもミラーの腳にしがみつく。

「放せ!」

「イヤだね」

「放せぇえ!!」

こびとの燃えるような瞳が、ひざ下からミラーをにらんでいた。

(なんなんだ、コイツ……)

このこびとは本當に魔法使いからを奪えると思っているのか。

しかもはすでに事切れている。

それが見てわからないことはないだろうに。あまりに兇じみていた。

突然の恐怖がミラーの背筋を駆け抜けた。

いや、こびとの目的はもっと別のものにあるのかもしれない。

だとしたら今彼は、自分を足止めしようとしている?

そこでようやくミラーは気づいた。窟のり口から、複數の足音が近づいてきていることに。

「ソシエ王妃の従者、ミラーだな!?」

殘り六人のこびとたちと、それから……。

武裝した雪解けの國の兵士たちだった。

「スノーホワイト殿下の拐容疑で逮捕する!」

ミラーは愕然として、腕の中の主を見下ろした。

このタイミングで兵士たちが現れたところを見ると、ソシエが予め呼んでおいたとしか思えない。

スノーホワイトのの安全を確保した上で、踏み込ませる手はずだったんだ。

「なるほど、お嬢様は僕の敗北をおみでしたか!」

ミラーはソシエのを抱きしめ、低く笑う。

こんなのはひどい裏切りだ! 今まで彼を誰よりも深くし、盡くしてきたというのに。

しかし勝負は著いてしまった。

完敗だった……。

ミラーのした魔は、記憶を失おうとも誇り高い魔だった。

「いいでしょう……。僕はあなたに殉じます。地獄の底で、葉わぬの苦しみに焼かれましょう」

兵士たちがゆっくりと包囲網を狹める。

「僕に縄をかけたければ好きにすればいい」

無抵抗を決めたミラーに、兵士たちが荒縄を回した。

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