《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第28話 王妃の

  森で息を吹き返した私は、フリオ王の馬に同乗し、宮殿に戻ってきた。

「陛下、恐れながら……」

宮殿の前。馬を下り、馬丁に馬を返すフリオ王に兵長が近づく。

「……何、それはまことか」

兵長に耳打ちされた王は私の方を見、困を浮かべた。

それからふたりはまた二、三言、言葉をわした。

「何があったのかお聞きしても?」

王と一緒に宮殿の奧へ進む道すがら、私は切り出す。

私に聞かれてまずい話なら、兵長もあんなところではしないはずだ。

「ミラーが逃亡した」

「えっ……?」

庭に面した廊下で、私たちは立ち止まった。

「なんでも王都への移送中に消えてしまったそうだ。後ろ手に縛られ馬に乗せられていたのに、どうやって縄を抜けたのか、そばにいた兵士たちにもわからなかったらしい」

私は心、さすがミラーだと舌を巻く。

王は苦笑いを浮かべた。

「彼が魔法使いでないなら、曲蕓師の類いだな。本當のところ、彼は何者なんだ?」

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りの林檎に魔法の檻。そして一度は魔裁判にかけられかけた私たちだ。

ミラーが魔法使いだということは、さすがにフリオ王も気づいているんだろう。

気づいたうえで私に聞いている。

「この國では、魔法使いは異端です。何も悪いことをしていなくても、その技け継いでいるだけで殺されてしまいます」

「そうだな」

「ですから……」

いくら明白な事実でも、私の口からミラーを告発することはできない。

私に言えるのはこれだけだった。

「仮にミラーが魔法使いなら、私も魔法使いです」

「君は魔なのか?」

(え……?)

靜かな王宮の中庭で、小鳥たちのさえずりだけが聞こえていた。

王の瞳は穏やかだった。

「私には魔法が使えるようです。ほんの小さな魔法ですが」

私は正直に打ち明けた。

「小さな魔法とは?」

「例えば風や火を起こしたり、遠くのものを取ったり……。それから捕らえられた子どもを助けるために、南京錠を壊しました」

王は考えるように顎をなで、小さく笑った。

「素晴らしい魔法だな」

「え……?」

どういう意味で言っているのか。

する私の前で、王は続ける。

「それはここだけのにしよう」

「でも……。いいのですか?」

「私と君との間にがあってもいいだろう?」

私を魔だと知った上で、彼はその事実をの奧にしまってくれるのか。

「未來の王たる王子を二度も助けた君は、國にとっての恩人だ。本當なら今の神を捨て、ソシエ教に改宗してもいいところだ。しかしながらいろいろなしがらみがあって、それはなかなか難しいが」

「陛下……」

さすがに改宗は冗談だとわかっている。それでも魔である私の存在が、彼に許されたようで嬉しかった。

「いいんですか? 私は……。ここにいても……」

恐る恐る聞いてみる。

「何を言っている。どこへも逃がす気はないぞ」

王は微笑み、私の指先に口づけを落とした。

夜。王妃の間にある、鏡の前に立ってみる。

湯浴みしてきたばかりの頬が、ほんのりづいていた。

「鏡よ鏡、世界で一番しいのはだあれ?」

相変わらず鏡は何も答えなかった。

あの不思議な空間で、スノーホワイトのママが言っていた言葉――“魔法の鏡”。

今目の前にある、この鏡のことではなさそうだ。

試しにそっと鏡面にれてみたけれど、特別な力をじ取ることはできなかった。

スノーホワイトのママは魔法の鏡の存在を恐れているようだった。

どうして?

おそらく魔法の鏡は、ただ質問に答えてくれるだけのものじゃない。もっと危険な何かなんだ。

私は魔法の鏡を、探し出さなきゃならない。

そこで私は思い出す。スノーホワイトの部屋にもこれに似た鏡があった。

もしかしたらこの世界では、よくあるデザインなのかもしれないけれど……。

他に手がかりはない。とにかく見に行ってみよう。

私は翌日、スノーホワイトの部屋を訪ねてみることにした。

* * *

『スノーホワイト……この城に、新しい王妃の気配をじます……あのは……まだ生きているのですね……?』

魔法の鏡から、久しぶりにママの聲が聞こえた。

イライラしている時のママの聲だ。

この鏡はボクを不快にさせるのが得意すぎ。

「レディ・ソシエならピンピンしてるよ。ああでも、今頃はどうかな? ベッドでパパに甘やかされてトロトロになっちゃってるかもね。昨日はふたり、やけにいい雰囲気だったから」

自分で言って、地味にショックをけてしまった。

レディ・ソシエの命が助かるなら、なんだって差し出せると思ったのに……。

がパパのキスで助かった今、ボクの中には未だ割り切れない気持ちが殘っていた。

『……王妃を殺しなさい……』

まだ鏡は言う。

図鑑を手に、ボクはソファに橫になりながら返した。

「それ、ボクになんのメリットがあるの?」

『王妃が王子を産めば……スノーホワイト、あなたは王太子の座を追われます……』

「どーでもいいよ。もしそうなったらボクは、なんの責任もない姫の立場を謳歌するし」

『あなたは男の子ですよ……? 可らしい顔に生まれたあなたでも、もう一、二年もすれば男らしいつきになるでしょう……。ドレスも著られなくなります……』

「へえ? ずいぶんイジワルなこと言ってくれるね」

ボクはを裏返し、鏡に向かって図鑑を振りかぶって見せる。

けれども鏡は黙らなかった。

『スノーホワイト、王妃を殺しなさい……。あのの魔力を私が吸収すれば……あなたに永遠の若さと貌を與えることも、不可能ではないでしょう……』

「え……。何言ってるの……?」

ボクは思わずソファの上で姿勢を正す。

鏡の中のママが悪い顔をした。

『あなたの母親が王妃になれたのは、一なぜだと思います……?』

「なぜって……。それは、パパ好みのだったからなんじゃ……」

レディ・ソシエは魅力的な人だけれど、ボクのママだって負けないくらい人だった。

顔の造形だけならレディにも勝っていた。絶世のだったと言っていい。

でも……。

今思うとママは気持ちが不安定な人だった。

いつも何かに追い詰められているような……。あのじはなんだったんだろう。

『フフフフフ……』

魔法の鏡が笑った。

ママを追い詰めていたのは、もしかしてこの鏡?

その時――。

「スノーホワイト?」

後ろからレディ・ソシエの聲に呼ばれてハッとなった。

振り向くと、彼は部屋のり口で視線を泳がせている。

「誰と話してたの?」

その視線が、魔法の鏡の上で止まった気がした。

ボクはとっさに取り繕う。

「レディこそどうしたの? パパと一緒じゃなかったの?」

「陛下と? どうして?」

は不思議そうにする。

朝の彼に、夜の気だるさの跡は見當たらなかった。ボクはかにほっとする。

魔法の鏡に映っていた、ママの顔はすでに消えていた。

「あのね、スノーホワイト」

が僕に歩み寄る。

「私、魔法の鏡を探しているの」

「魔法の鏡って?」

僕は心ドキリとした。

「この前話した、白雪姫の絵本に出てくるの。そこにある鏡が、もしかしたらそれなんじゃないかと思って」

は部屋の奧にあるママの鏡を目で示した。

確かにこれは“魔法の鏡”だ。

ボクと話をしたり、ママのフリをしたりもできるんだから。

「魔法の鏡を見つけてどうするの?」

ママが魔法の鏡を持っていたことは、きっとママにとって人に言えないだ。

レディが答える。

し考えがあって、調べたいと思ってる。危険なものかもしれないから」

の視線は鏡に固定されていた。

「その鏡を調べるのは構わないけど……」

鏡が危険なものだったらどうするんだろう? 処分してしまうのか。

ボクは心の中で首をかしげた。

でもレディを敵視しているその鏡が、彼の前で簡単に馬腳を現すとも思えない。

そういう意味ではちょっとくらい調べられても構わなかった。

ボクは思案しながら言葉を続ける。

「それ、ママの形見なんだ」

「えっ……。前の王妃さまの?」

「うん。だからボクにとって、ちょっと特別」

ボクはソファを離れ、部屋の奧にある鏡の前まで行く。

鏡はママではなく、ボクの顔を映していた。

考えはまとまった。

「でもね。ボクのお願い聞いてくれるなら、この鏡をレディにあげるよ」

ボクはもう、魔法の鏡に飽きていた。

「お願いって?」

レディ・ソシエは目を見開き、ボクを見つめた。

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