《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第29話 絵の中の微笑み

「ボクのお願い聞いてくれるなら、この鏡をレディにあげるよ」

  スノーホワイトは笑みを浮かべてそう言った。

亡き王妃様の大切な形見をくれるなんて……。本當にいいの?

彼には何か考えがあるらしい。

「お願いって?」

私が聞くとスノーホワイトは、の前に人差し指を立てて目配せする。

緒話?)

今この部屋には私たちしかいないのに。

不思議に思いながらも、私は彼のそばへ寄った。

スノーホワイトが耳打ちする。

「その鏡、確かに魔法の鏡だよ」

「!?」

「時々ボクに話しかけてくるんだ。しかも、死んだママの顔をして」

スノーホワイトの黒目がちな瞳がいたずらっぽく輝いた。

「本當に……?」

私は恐る恐る魔法の鏡に目を向ける。

「あの中にいるのはホントにママなのかな? さすがに違うと思うけど、その可能もあるからちょっと扱いに困ってる。……だからレディ、あの鏡のこと調べてくれる? その結果次第で、煮るなり焼くなり好きにして」

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なるほど。スノーホワイトの意図はわかった。

けれどもなかなかの難題だ。魔法の鏡の正を探るなんて……。

私は張にが強ばるのをじながら、鏡に近づきそれを観察した。

スノーホワイトはママが映ると言っていたけれど、今は私の顔が映っているだけだ。

鏡に映った私の顔は、いびつに歪んで土気をしていた。

普段見ている鏡より、ずっとひどい顔に映っている。あえて醜く歪めたみたいに。

(これ、わざとだよね……?)

鏡がしゃべるなら、それはきっと意思を持っていて、意図して私をこういうふうに映しているんだ。

そう考えると、魔法の鏡の悪意をじざるを得なかった。

魔法の鏡を調べるのに向いているのは魔である私――。スノーホワイトはそう考えたのかもしれないけれど、一私に何ができるんだろう。

鏡よ鏡と語りかけても、魔法の鏡は私に答えてはくれなかった。

正直この鏡とは相が悪い。というか嫌われている気がする。

それで王家に長く仕えているメイド長に話を聞いたところ、あの鏡は前王妃が王宮に持ち込んだ、嫁り道のひとつだということだ。

スノーホワイトの部屋へ戻って確認すると、確かに鏡のふちには王家の紋章でなく、グリシーヌの花の文様が刻まれていた。グリシーヌの花は前王妃の実家、ヴィオレット家の花だそうだ。

(よく見るときれいな模様だけど……)

私はスノーホワイトの部屋で、鏡のふちを指でなぞる。

(ヴィオレット家か……)

「ねえ、スノーホワイトのお母様のご実家って、どんなところなの?」

「え、どんなって……」

スノーホワイトはお皿の上のマカロンをの順に並べていた手を止め、首をかしげた。

「小さい頃行ったきりだけど、なんにもない田舎だよ。あえて挙げれば自然かなのかな」

「田舎……? 都から遠いの?」

「うん。東の地帯辺り」

(地方領主ってことは、バスカヴィル家と似たようなじなのかな?)

私は頭の中に、雪解けの國の地図を広げてみる。

「でも叔父さん……つまり今のヴィオレット伯は、宮廷に勤めてて、城下に邸宅を持ってるよ」

そう言われるとヴィオレット伯という名前は聞いたことがあった。

元々それなりの分の家柄なのか。それか王妃の兄弟ということで取り立てられたのか。

詳しいことはわからないけれど、バスカヴィル家よりは家格が上のようだ。

とはいえ名門というじでもなさそう。

「なんでそんなことが気になるの?」

スノーホワイトがまたマカロンを並べながら聞いてきた。

「前の王妃さまのことがわかれば、この鏡のこともわかるかもしれないと思って」

「なるほど。だったら行ってみる?」

スノーホワイトがこっちを見て微笑む。

「行くってどこに?」

「もちろんヴィオレット領だよ。レディはそこで報収集したいんでしょ?」

私は思わず二度、三度とうなずいた。

「私も行けたらって思ってたの。でも……。私が行って大丈夫なのかな?」

前王妃の実家を現王妃が訪ねるなんて、あまり歓迎されないことのような気がする。

「ボクが行って文句言う人はいないでしょ! レディはボクの保護者ってことで來たらいいよ」

スノーホワイトがを叩いた。

それからしばらく。私とスノーホワイトのヴィオレット領行きが実現した。

王子がいくつかの地方を視察するという名目で、護衛付きでの旅になった。

長旅は骨が折れるけれど、魔法の鏡のことをスノーホワイトのママに託された責任は果たしたい。

こうして彼の実家を訪ねる今、あれがただの夢だとは思えなかった。

私は運命に導かれている……。

いくつもの街と森を馬車で抜け、またいくつかの湖を橫切った。

「あれがラリヌ湖だよ。春になると周囲に咲くグリシーヌの花が、湖面に映ってきれいなんだ」

スノーホワイトは小さい頃に行ったきりだと言っていたのに、その時のことを覚えているようで、途中いろいろと解説してくれた。

それからたどり著いたヴィオレット伯の邸宅は、靜かな湖に面した城だった。

小さいが趣のある城である。

お城のエントランスホール。都にいる領主に代わり、この城のバトラーが私たちを出迎えた。

「殿下、ご立派になられて……」

老齢のバトラーはスノーホワイトを見て目を下げる。

今回視察という名目上、スノーホワイトはめずらしく王子の格好をしていた。

「レディ、バトラーのベルナルドだよ。ベルナルド、彼がレディ・ソシエ。ボクの可い人」

さすがに私がフリオ王の妃であることは知っていたのか、バトラーはスノーホワイトの冗談を笑って流した。

それにしても、この城に魔法の鏡に繋がる手がかりはあるのか。

ティールームでお茶をいただき旅の疲れを癒やしたあと、私たちはバトラーの案で城の中を見て回った。

城の窓からの絶景を見、由緒正しい數々の調度を見、ヴィオレット家について一通りの話を聞いて、再びエントランスホールへ戻ってきた。

(これでお城を一周したのかな?)

そう思っていると、肖像畫を掲げた壁の前でバトラーが足を止める。

「こちらが先ほどお話しした大旦那さまご一家です」

大旦那さまというのは前領主のことだ。スノーホワイトの母方の祖父に當たる。

剣を攜えた領主とその一家の肖像からは、威厳と風格が漂っていた。

バトラーが続ける。

「それからこちらがアルテイア様。王家に嫁がれる前に、地元の畫家に描かせたものです」

比較的新しい油絵だった。

アルテイアはスノーホワイトの母親の名前だ。

絵にはスノーホワイトと同じ黒髪に黒い瞳、ふっくらとしたばらの頬を持つ若いが描かれていた。

(このひとがスノーホワイトのママ……)

絵の前に立ち止まって見ってしまう。

スノーホワイトも隣で肖像畫を見上げていた。

「お母様、きれいな人だね」

聲をかけると、彼は私を見て戸ったようにまばたきをした。

「……どうしたの?」

「この絵、本當にママ?」

スノーホワイトはつぶやく。

「間違いありません。畫家にこの絵を描かせた時のことはよく覚えています」

スノーホワイトのつぶやきに、バトラーが答えた。

「私などにはよく描けているように見えますが、殿下のお眼鏡には適いませんか」

「そうじゃない、けど……」

スノーホワイトは戸うように視線を揺らした。

(どういうこと? スノーホワイト)

彼は何かに引っかかりを覚えているらしい。

私はもう一度肖像畫に視線を戻す。

この絵の中に、何が……?

絵の中にいる人の微笑みが、なんだか謎めいたものに見えてきた――。

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