《悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本に『ざまぁ』したけど? 本當の悪役はアイツだった……!?》18

バイキングコーナーは大混雑していた。エミリーはお料理の取り替えで忙しく、とても馬鹿の面倒など見れない狀態に陥っている。

それをしめしめとコイツはお酒を仕込みつつ、どさくさにグビッと味見してたに違いない。

やりそーな事だわ!

「ワイン如何ですか~?」

馬鹿はわたくしの冷たい視線を逸らし、父兄に想よくお酒を振る舞ってみせた。

むむっ、何か失態おかさないか見張っておきたいけど、そうもいられないよ。わたくしも自分の事で……いえ、アンタの影武者で一杯だから。

「シェリー様、お食事を召し上がらないのですか?」

「ええ、ダンスが控えてるからお水だけで十分よ」

本當はご馳走にありつけたい。でも調管理は大事だ。ここは我慢するしかない。それに次から次へと貴族院の父兄方から、お祝いのご挨拶をけていたから食べる間もなかった。

やがてオーケストラによる軽快なリズムが會館を覆い盡くす。いよいよその時がやって來たのだ。

音楽に合わせて様々なペアーがダンスホールへ向かって行く。わたくしも気合をれてジャック様のエスコートを待った。

さあ、頑張るしかないよ!

目を閉じて集中力を高めていると足音が微かに聞こえてくる。音楽という騒音に掻き消されて定かではないけど、きっとジャック様がお迎えに來られたのだろう。

「シェリー様、ご一緒に踴ってください」

その殿方は片膝ついておいになったと想像する。わたくしは靜かに目を開けて微笑む。

ん? ジャック様? いえ、違う⁈ 違うわ、待って、わたくしのお相手はジャック様よ。あの、貴方って……

エ、エリオット王子様あぁぁーー⁈

何で⁈ 何で⁈ 何で王子様がおいになるの⁈ 貴方は婚約破棄したいくらいわたくしがお嫌いなのでしょう? 意味わかんないよう?

でもその碧眼に見つめられるとドキドキしますわ。いえいえジャック様はどちらに⁈ つか、このスチェーションどうすれば良いのよ!

想定外の出來事にわたくしは凍りついた。でも周りから割れんばかりの拍手喝采を浴びてしまう。この國の第三王子様であられる方と貴族院首席で公爵令嬢のわたくしたちは、近々結婚するのだ。そういった祝福の雰囲気が會館全に広がっているのが伝わる……

わたくしは判斷しかねて馬鹿をチラッと見た。アイツが首を橫に振れば王子様であろうとお斷りしようと思う。

どうするの? アンタ?

でもアイツはわたくしたちに注目が集まってる事につけ込んで、こそっとワイングラスを一気飲みしてる姿が目に映った。

馬鹿じゃん! 急事態でしょう! ちゃんと指示しなさいよ! もー知らない。どうなっても知らんわ! わたくしが判斷させて頂きますからね!

まぁこの狀況で王子様を袖に振るわけにはいかないっしょー。今日は婚約破棄は起こらない筈だから仮面でもフィアンセを演じるべきよ。はい、決まりー。

わたくしはそっと王子様の手を取った……

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