《悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本に『ざまぁ』したけど? 本當の悪役はアイツだった……!?》25
「結論から言うと八年前、此処で君と出逢っている。そして僕は君がシェリーだと勘違いして一目惚れしたんだ」
「八年前……ですか」
わたくしが奉公に來て二年が過ぎた頃ね。確か王子様とシェリーが婚約された年だ。それ以來、王子様は時々お屋敷へお越しになられている。勿論、シェリーと親睦を図るために……
その頃をよく思い出してみよう。王子様はご年配の付き人をお連れになられていた。わたくしは庭園のお掃除を終え、玄関口でバッタリ出會してしまった。そうだ、玄関のお掃除を忘れて戻った時だわ。
「あ……こ、これは大変失禮致しました」
「やあ、お嬢様。掃除してるとは偉いな」
「いえ、日課ですから。あ、どうぞおかがり下さい」
「うん」
その景をシェリーが見ていて叩かれたっけ。
バチーーンッ!!
「アンタ、なにエリオット様と話してんの⁈ 全く、そんな小汚い格好して、わたくしだと思われるじゃなーい!」
「ごめんなさい。シェリー様」
「いいこと? 彼と絶対お話しちゃ駄目よ!」
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「はい、かしこまりました」
わたくしと似てる事を誰よりも気にしてたシェリーは、これまでも勘違いされた事例があって自分と間違えられる事を極端に嫌っていた。その癖、ダンスのレッスンや學力テストなど面倒な行事はわたくしに押し付けていたのにね。……思い出すと腹立つなあ。
でも、あの出逢いで? 一目惚れ?
…
…
…
※エリオット王子視點
「庭園の掃除か……公爵令嬢とは思えないな」
「左様でございますね、お坊ちゃん」
宮廷で陛下に紹介された時は殆ど話もせず、ごく普通のご令嬢だと思ってたけど、今見た使用人風のシェリーはとても可らしい。しい顔立ちは勿論の事、令嬢らしからぬ控えめで腰らかい雰囲気がとても気にった。政略結婚とは言え、そんな彼と婚約出來て良かったな。
ーーそう思った。
ところが僕の目の前に現れた令嬢は先程の雰囲気は微塵もなく、妙にテンションの高いおてんばなシェリーだった。
「エリオット様ーー! お逢いしたかったわー!」
「や、やあ。シェリー」
「ね、お庭に出ない?」
「ああ、良いよ」
公爵家の庭園はとても広い。石畳の通りを二人で歩いてると、庭師が植木などを手れしてる姿を見かけた。
ふと、池の近くに來た時だった。目の前をぴょんぴょん跳ねる、あの気持ち悪い生きと遭遇した。
「ああっ、カエルだわ!」
ひぃぃ。
僕はココロの中でんだ。実は大の苦手なんだ。だが次の瞬間、何とシェリーはカエルを手摑みして捕まえたのだ。
えっ? 噓だろ! 何で捕まえるんだよ!
「あー、可いーーっ!」
「可い?」
「うん、ねー、見てみて!」
うわっ、やめろ! 見せるな! 見たくない!
だが、怖がってるわけにもいかない。僕は男の子だ。無理して余裕なフリをしながら彼の手をそっと覗いて見た。
キ、キモい。土と濃い緑がり混じった恐竜的なじがグロテスクだよっ!
「ヒキガエルだね。うふふ」
な、何でこの令嬢はこんな気味の悪い生きを素手で捕まえて「可い」などと言うのだろう? 本當に彼は先程の……玄関口で會った慎ましいシェリーなのか? とても同一人とは思えない。
そして、カエルが今にも飛びかかってきそうだ。手のひらから逃げ出そうと踏ん張っている。このまま僕に向かってきたらヤバいぞ。僕は皇族だ、シェリーの婚約者だ。けない姿を見せられない。
「逃してやりなよ」
「えへへ、そうね。カエルさーん、バイバーイ!」
彼はまるで小鳥を放つ様に天に向かってカエルを逃した。そして、それは一瞬の出來事だった。
勢いよく飛び跳ねたカエルは、何と僕の頭を経由して池に飛び込んでいったのだ!
ひぃぃ、い、今、確かに僕の頭を踏み臺にしたよな? ええーーーーっ!!
「うふふ……今、エリオット様の頭に……あははははは」
僕の中で彼の素敵なイメージが崩れて去っていった。
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