《悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本に『ざまぁ』したけど? 本當の悪役はアイツだった……!?》29

「お母様、僕はもう我慢出來ません。シェリーと婚約破棄させて下さい」

「まぁ、エリオットったら一どうしたの⁈」

宮廷の敷地に聳え立つ大きなお城の一室で僕は母に思いをぶつけた。これまでの出來事とともにどうしても好きになれない婚約者を罵ったのだ。

「そんな風には見えなかったけどね。でも婚約破棄は出來ませんよ。貴方も分かってるでしょう?」

「でも、すっごく嫌なんだよ! もう會いたくない!」

「あのね、結婚だってまだ先のお話、お互いまだ子供なんだから急すぎる結論はよくありません。それに彼もこれから公爵家でしっかりと教育けて、いずれ立派な淑になると思いますよ」

どうやら母は子供の戯言だと思ってる様だ。だが僕は必死で食い下がる。

「お母様、婚約破棄が難しい事くらい分かってます。でもあんまりにもヘンなんです。……あ、そうだ。彼とじっくり會って貰えませんか? そうすれば僕の言ってる事が理解出來るから!」

「そうねぇ。では宮廷へお招きしましょう」

よしっ……と。実際のシェリーと接すれば、もしかしたらお考えが変わるかもしれない。どう教育したってアレが淑だなんて無理に決まってるよ。そうそう、彼とダンスするのも良いな。訳の分かんないスピンを披させて母を幻滅させてやろう!

僕は早速バトラーに準備を進めさせた。

***

「ご機嫌ようでございます。本日は招き頂きありがとうございます」

シェリーが付き人を伴い、宮廷に訪れたのは一月後の事だった。

準備は整っている。予定はこうだ。先ず母をえて紅茶でも頂きながら軽く歓談する。その時點でボロが出るだろうな。でもまだまだこれからだ。次にダンスを踴る。これを拝見すれば、とんでもない令嬢だと確信するに違いない。さらにだ、しい庭園をお散歩しよう。まさか母の前でカエルを捕まえるなんてしないだろうけど、もしやったらそれは決定打になる。母もカエルが大の苦手なんだ。いや、あの日のトラウマが蘇るからそれだけは勘弁かな。

いずれにせよだ、長く一緒にいれば、きっとヘンなお嬢様だと結論付けられるだろう。お父様陛下にも進言してくれるかもしれない。

「ふふふ……」

これから起るであろう出來事を想像すると自然に笑顔になった。

「あら、エリオット。シェリーと會って嬉しそうだこと」

いえいえ、お母様。違う意味で嬉しいんだよ。

やがて僕たちはプライベートダイニングルームで皇室に獻上された最高級のお紅茶を頂いて歓談に花を咲かせた。ボロが出るのは時間の問題だった。

だがーー。

その日のシェリーは何かが違っていた。僕の見てきた彼ではない。禮儀正しく気品に溢れている。まるで別人の様な振る舞いだった。

「とても味しいお紅茶ですわ。ベルガモットの爽やかな香りがします。わたくし、このお味が大好きでございます」

「まあ、シェリー。そう言って貰えたら嬉しいですわ。オホホホホ」

ど、どうなってんだ……?

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