《悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本に『ざまぁ』したけど? 本當の悪役はアイツだった……!?》30

母は機嫌が良かった。シェリーが噂と違って、とてもしっかりしていたからだ。これでは僕が噓をついてる様に思われても仕方ない。

「ねえ、シェリー。ダンスしようよ」

最早この歓談に意味は無かった。ボロが出るより益々母の印象を良くするだけだ。早々に切り上げ、次なる作戦を実行しよう。

「あら、よっぽどダンスがしたいのね」

「そうだよ、お母様」

「シェリーのダンスは評判らしいから、わたくしも楽しみだわ」

「いえいえ、とんでもございません。わたくしのダンスなど、お見苦しいだけです」

「まぁ謙遜しちゃって。さぁ、踴ってらっしゃい」

皇室専用のオーケストラが軽やかなリズムで向かえてくれた。僕らはミニホールの中央へ立ち、お互い手を合わせる。そして靜かに演奏が始まった。

お母様。よーく見ててね。

ーーだが、……だが、だが、またしても、

僕は違和じた。以前とは全く違う覚だった。軽やかなステップ、そして優雅に舞うシェリーに驚きを隠せない。彼はスタンダードなワルツを完璧に踴っていた。

じ、上手だ! 凄いぞ!

シェリーにリードされてる自分がけなく思う。

何故だ、何故だ? これがシェリーの実力なのか? とても信じられない。僕は揶揄われていただけなのか⁈

「ね、ねえ、スタンディング・スピン・スペシャルはやらないの?」

「スペシャル……ですか?」

「ほら、公爵邸でやったじゃない。高速回転の!」

「何の事だか記憶にございませんわ」

え? いやいや、あの滅茶苦茶で自分勝手なスピンだよ。忘れたとは言わせないぞ。パンツ丸出しで転んだじゃないか⁈

だが、今日のシェリーは素敵なナチュラル・スピンターンやリバースターンを繰り広げ、見るものを魅了するしいダンスしかやらない。

やがて曲が終わり、ホールに居た全員から拍手喝采を浴びた。彼はドレスの裾を軽く持ち上げ、可いらしく禮を取る。

「素晴らしいわ、シェリー!」

母もしている。今の彼は誰が見ても、僅か十歳のとは思えない気品溢れたお嬢様だった。

「エリオット、貴方も練習しないとついて行けなくなるわよ!」

「あ、ああ、そうだね……」

ダンス作戦も失敗した。それどころかシェリーの評判は増すばかりだ。

この後、庭園を散策するものの僕などそっち退けで母とシェリーが仲良く秋の紅葉を満喫していた。時折笑い聲が聞こえてくる。カエルは現れないし、現れてもこの雰囲気なら無視するだろう。

そして何事もなく、この日が終わってしまった。単に母とシェリーの親睦を深めたに過ぎない結果だった。

***

「バトラー、今日のシェリーをどう思った?」

その晩、バトラーと反省會を行う事にした。公爵邸でのおてんばなシェリーを見てるのは彼だけだし、僕の味方だと信じている。

「素晴らしいお嬢様かと」

「そうではない。公爵邸の彼とは思えないだろう」

「は、左様でございますね。まぁ、王妃様の前ですから貓を被ってらっしゃたのでは?」

「本を隠したと言うのか? いや、それにしても変わり過ぎだ。あれは二面を持った病的な人格だと思う。それとも……」

ふと、ポピーの顔が浮かんだ。

「あっ⁈ ま、まさか……いや、幾らなんでも」

「お坊ちゃん、如何なされました?」

僕はとんでもない推測をしてしまった。

あれはシェリーではなく、ポピーだったとしたら?

それなら納得がいく。だってそっくりだから誰も気づきはしないだろう。

そうだ、そうかもしれない。幾ら母の前だからって、あんなに人格が変わるのも可笑しな話だ。普通ありえない。

これは確かめたいぞ。何としても見破りたい!

「バトラー、頼みがある!」

僕は一策を講じた。

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