《悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本に『ざまぁ』したけど? 本當の悪役はアイツだった……!?》31

定例となったシュルケン公爵邸の訪問日となった。いつもなら憂鬱な行事だったが、今日はとても気分が良い。何故なら『ポピーがシェリーの代わりを務めている』と言う疑念を確かめる期待があったからだ。それは最早、僕の願と化していた。

「バトラー、その彼は信用出來るのだろうな?」

「はい、大丈夫です。ご安心ください」

僕が一策を講じたのは、公爵邸に一流のスパイを送り込む事だった。タイミング良く使用人として潛り込む事に功したは「エミリー」と言う二十歳の諜報員らしく、バトラーの信頼も厚い様だ。

「この事は……」

「勿論、誰も存じません。陛下も王妃様も」

「よし、では手筈通りに!」

「ははっ」

使用人なら同じ使用人のポピーの向がよく分かるであろう。もしかしたらシェリーに扮するシーンを目撃してるかもしれない。いや、目撃してなくても普段のシェリーの姿や格に二面があるのか、エミリーから見てどうしたのかも知りたい。

僕はワクワクが止まらなかった。こんなに公爵邸へ行きたいと思った事はこれまでになかった事だ。

***

「エリオットさまーーっ!」

「や……やあ、シェリー。元気そうだね」

これだ。これがいつも會ってるおてんばなシェリーだ。相変わらずのテンションだが、まあ今日は我慢してお相手するからな。

バトラー、あとは頼んだぞ!

※バトラー視點

やれやれ、王子様にも困ったものだ。影武者だなんてそんな訳がない。しかし、かなり思い詰めていらっしゃる様だから何とか丸く収めねばならんな。お二人の結婚は陛下の命……これは私の仕事でもある。

さて、任務と參りますか。

王子様とシェリー様はお絵かきを楽しんでるご様子。此処にはも居るから々席を外しても大丈夫だろう。

「私、忘れをしたので馬車まで戻っても宜しいですかな?」

「あ、どうぞ。では誰かお付け致します」

「あぁ、すまない」

部屋から出るとエミリーが控えていた。予定通りだ。先ずは彼からの報告を聞いてみたい。

無言で庭園を歩く。周りに人気がない事を確認して彼に小聲で問いかけた。

「ポピーは何処に居る?」

「庭園の裏側で薪の整理をしてるかと……直接お話なさいますか?」

「いや、先ずはお前の報告を聞いてから判斷しよう」

お屋敷から出てし歩いた大通り沿いに馬車を止めていた。その影に隠れてエミリーの話を聞く。

「……で、どうなんだ?」

「はい、ポピーは影武者を演じています」

「なっ⁈ な、何だと! それは本當か⁈」

「まぁ、正確には演じさせられていると言うべきでしょうね。この一月で五回は代わってるかと」

「だ、誰の指示なんだ? まさか十歳のが命令してるとは思えないぞ⁈」

「奧方様、グレース様です。この事に関わってるのはのライラ様のみ。今後、頻繁に代わるとなれば、わたくしも手伝わされるかも知れません」

ああ、何て事だ……信じられない。これはマズい。非常にマズい! このまま放置して、もし明るみに出れば婚約が白紙となる。この婚約は政略結婚なのだ。皇室と公爵家の関係が悪化すれば政局にも影響するだろう。

……いや、待て、待てよ。むしろチャンスではないのか? 悪いのは公爵家だ。臺頭著しいシュルケン公爵に負い目をじさせれば皇室に頭が上がらなくなる。

「そうか。分かった」

此処はもっと慎重に考えるべきだ。

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