《悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本に『ざまぁ』したけど? 本當の悪役はアイツだった……!?》59

二人はわんわん聲をあげて泣いた。お互い被害者だったのだ。もう全ての過去を洗い流さなければならないと思った。ただ、気になる事がある。シェリーの気持ちを確かめた真意は何だったのか?

が、やがてその答えが分かった。

「お兄様、本來ならシェリーが結婚してた筈です。それを自分の我儘を通す為に謀を巡らせ、シェリーの気持ちを踏み躙った王子様が許せませんわ」

「それでシェリーの気持ちを確かめたのか?」

「はい。まだ王子様をお慕いしてないのなら我慢してたかもしれません。でもそうじゃなかった。わたくしはこんな酷い仕打ちをする仕組まれた結婚なんてしたくありません。シェリーは皇室に嵌められ悪役令嬢になった様なもの! 本當の悪役は王子様です!」

「よく言ってくれたぞ。ポピー」

「でも公爵家に何らかの被害が出ると思います。それでも構いませんか?」

「ああ。例え領地を失っても爵位を剝奪されても國外追放をけても、皇室のやり方には歯向かうべきだと思ってる」

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私はとうに覚悟が出來ているのだ。

「お兄様、では?」

「二人は私の大切な「妹」だと言ったろ。最後まで守り抜いてみせるさ」

***

「新郎新婦、ご場でーす!」

宮廷の大ホールにて、陛下をはじめ隣國からの國賓並びに多くの貴族が見守る中で、エリオット王子とポピーの結婚披宴が幕を開けた。司會者が聲高らかに二人を紹介する。

「これよりメインテーブルへとお進みになります。皆様どうぞ、お二人に祝福をお送りくださーい!」

割れんばかりの拍手喝采が巻き起こる。新郎新婦は手と手を取り合って場口から進んで來た。二人とも素敵な笑顔だ。

私は張していた。この後、祝辭を述べる予定なのだ。いや、正確には宣戦布告をだった。

祝辭は先ず陛下が述べられ、続いて來賓の方々が型通りな話をされた。完全なるお祝いムードの中、最後のトリで私がスピーチをする。

「皆様、新婦ポピーの兄であるジャックと申します。本日はお二人の婚、誠におめでとうございます……と言いたいところだがーー」

「え?」

「なになに?」

會場のざわつきが一瞬止まった。皆が注目する。私は大きく息を呑んで一気に言葉を吐き出した。

「シュルケン公爵家はこの結婚に斷固反対の議を唱えるっ!」

「…………」

私のあり得ない言に會場が靜まり返った。陛下一同、凍りついた表へと変わっていく。

「き、貴様、陛下の前で何を言い出すのだ⁈」

見覚えのある男が私を指差し、罵ってくる。

「これは誰かと思えばバトラーではないか。此度は隨分と酷い事をしてくれたな?」

「な、何を? 正気か、貴様⁈」

「諜報機関はまだ我が公爵家の探しをしてるのか? もう充分だろう?」

「お前、この盛大なる結婚披宴を臺無しにする気かっ⁈」

何やら周りが騒がしくなってきた。私をつまみ出そうと護衛の者らが集まろうとする。その中にミーアも居た。私は構わず喋り続ける。

「十年間も影武者を立て、皆さんを騙したのは公爵家の責任だ。その首謀者である母は先日追放した。しかし、皇室もスパイを送り込んで我が妹に寄ってたかって酷い仕打ちをした。そうだろ⁈ 王子、バトラー、エミリー! 私は決して許さないっ!」

「つまみ出せーーっ!」

私は護衛に取り押さえられてしまった。

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