《悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本に『ざまぁ』したけど? 本當の悪役はアイツだった……!?》61

「シェリー、牧場の家畜はどうだった?」

「ワンちゃんがお利口さんだから全然大丈夫! 一頭も殘さず小屋へ帰ったよー、うふふ」

あれから私たちシュルケン一族は隣國へ亡命していた。國境沿いのとある土地をお父様がかに隠し持っていたのだ。財産も皇室の目を盜んで、できる限り移した。平民ではあるが何の不自由もない平穏な暮らしを営んでいる。

「お兄様、ポピーはまだ帰ってないの?」

「ああ、もう直ぐ帰るだろう」

小さな牧場の世話をするシェリーとは別に、ポピーは街中でダンス教室を運営していた。彼のダンスはここ隣國でも有名だ。あっという間に貴族の間で評判となり、忙しい日々を送っていたのだ。

「ポピーが帰るまでダンスでもしようか?」

「うん、その言葉を待っていた。よおし、やろうか!」

私は最近、シェリーとよくダンスをしている。実は彼は意外にも上手だった。いつか王子と踴る時に備えて「のお部屋」で練習していたらしい。

私たちはリズムに合わせてステップを踏んだ。オーケストラなど贅沢な存在は居ない。お互い心の中で音楽をイメージするのだ。

「なあ、シェリー」

「なに? お兄様」

「気になる殿方は居ないのか?」

「えっ⁈ な、なにを急に!」

亡命して一年、私は素人ながら牧場の経営をしているが、軌道に乗ったのは隣接する広大な土地を持つ牧場主である、ティラー家のサポートがあったからこそだった。その息子、ジョーは中々のハンサムで且つシェリーには殊の外、優しく接してくる。二人で仲慎ましく過ごしている景を何度も見ていた。

彼なら安心出來る。

「ジョーはお前に気があるんじゃないのか?」

「お、お兄様の意地悪!」

シェリーは真っ赤な顔で怒り出す。

「私は二人を応援するぞ」

「……あのね、わたくしが怖いの」

「大丈夫。彼は誠実で真っ直ぐな男だ。何よりもお前をいつも気にかけている」

「いいのかな? わたくしで。それに幸せになってもいいの?」

「ああ。自信を持て。何も遠慮する事はない」

そこへポピーが帰って來た。

「ただいま。あら、またダンス? あー、わたくしは朝から晩までダンスに囲まれているわ」

「あ、ポピーおかえり。ね、新鮮な牛を飲んでみて! 今日ね、ジョーと絞ったんだ。とても味しいわよー!」

「うん、ありがとう……って、またジョーというキーワードが出たな?」

「もー、ポピーッ!」

二人は笑いながらはしゃいでいた。どうやらポピーはとっくにシェリーのを知ってた様だ。

二人はまるで本當の姉妹だな……

***

一年後、シェリーはジョーと結婚して幸せになった。ポピーもとある貴族に見初められ嫁いだ。

余談だが、エリオット王子の居る隣國は経営破綻してかなこの國に頼ってるそうだ。屬國になるとの噂で、そうなればいずれ皇族は追放されるだろう。

そんな勢の中、多くの人々がシュルケン家の貴族復活を願っていると聞く。私は皇族に楯突いた英雄になっているのだ。

さて、どうしたものだろう。今の生活が心地よいのだ。今さら貴族に戻る気などさらさらない。

私は悪戯な運命に翻弄された姉妹の幸せを、ここで見守りたい。いつまでも……だ。

── 完 ──

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