《夜明けを何度でもきみと 〜整形外科醫の甘やかな〜》5

菜胡の勤めている病院は下町にある。科、外科、整形外科、産婦人科、耳鼻科を診療科目として、月曜から土曜まで外來診療を行っている。科と外科は醫師の數も多く午後も診療をけているが、それ以外の科は基本的に午後は休診で、病棟の患者対応だったり検査や手に充てられていた。菜胡はその中の整形外科外來の擔當となり四年が過ぎた。

前任者は二年で異だったから菜胡もそのくらいで、と思っていたが、患者への応対や気の利くところが整形外科醫長の気にるところとなり、異け容れないと看護師長に直談判したという噂を知る由も無く、菜胡は整形外科外來で働いている。

病院の正面玄関をると真正面に大きな絵畫が飾られている。そこを起點に左折すると科、外科、整形外科、右折すると耳鼻科、放線科、薬剤科がある。産婦人科だけは二階の病棟に専用の付と出口が設けられていて科や外科に診する患者とは付から會計まで全く會う事なくける作りになっていた。

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絵畫を左折してすぐ右手に科の大きな待合室があり、それを橫目にし進んで左折すると外科外來、更に右折でようやく整形外來となる。細く長い廊下の突き當たりにあるのが診察室口だ。廊下には待合用の椅子が並べられていて、車椅子やストレッチャーが通るにはギリギリの幅しか無いが、古い造りの病院なので仕方が無い。

現在の整形外科は樫井三郎が一人で擔當している。木曜は休診日で、それ以外は外來を終えると急いで晝を食べ、手があれば駆け足で病棟へ向かう。こんな忙しない毎日をもう何年も繰り返していて、そろそろもう一人、常駐の整形外科醫がしい事をたまにこぼしていた。

「知り合いに伝えてあるから、近いうちに一人増えるかもしれないよ。それまでは僕が一人で頑張るしかないよ〜」

菜胡はどこまでが冗談かわからないと思っていたが、後日これが本気だったと知る事となる。

整形外來擔當のナースは二名おり、菜胡の他は大原さち絵、四十七歳のシングルマザーだ。中學生の息子がいる。

「結婚して二十二の頃からここに勤めているのよ」

大原は二十五年、この地に暮らしている事になり、そのせいか訪れる患者は大原の顔見知りが多い。院スタッフの誰よりも長く勤めていて、菜胡を『あたしの娘』と連れ回ってくれたおで、新人ながらもすぐにけ容れてもらえた。気風のいい豪快なで時に厳しい。だいたいは笑顔で押し切る強いメンタルの持ち主だ。菜胡の母親と三歳しか違わないため、かに『東京のお母さん』として慕っていた。

患者だけでなく院長とは冗談を言い合う仲で、そのせいか割と自由に振る舞うことを許されており、土曜はいつも十四時で帰ってしまう。そういう雇用契約なのかわからないが、だから土曜の午後は菜胡一人で黙々と作業なのだ。

菜胡が整形外來へ配屬されるまでは、淺川恭子が大原と共に整形外來擔當だった。菜胡の就職とれ違いで重癥病棟へ異となったが、菜胡に仕事を引き継ぐ必要があり、三月末の一週間だけ、共に外來で仕事を教えてもらった。ほんのし先の事を予測できる察力が羨ましかった。明るくて怖じせず、一生懸命な格は、引っ込み事案な菜胡には眩しかった。

ただ、急に距離をめてくる事があり、そこだけはし不愉快だった。プライベートを掘り葉掘り聴きたがり、答え難くしていても構わず聲を張って聞いてくる。人の目があるところでは聲を落とすなどの配慮がしいのに、言いたいことを喋りたい大きさの聲で口にする。デリカシーのない人だな、と思ったし、その印象は四年経った今も変わらずあった。

仕事の姿勢は尊敬に値するが、人としては深く関わることを避けた。の相談などとんでもないと、警戒を怠らなかった。

一度だけ、淺川の問いに正直に答えたことがある。ポロッと彼氏がしいと思う時はある、と言ってしまった。目を輝かせ、誰かを紹介するから、と息まかれた彼に、必死で、やめてくれと頼んだ。

「そんなんじゃ一生処だよ?」

淺川はこれを捨て臺詞に去った。それから菜胡にの話を持ちかけてはこのセリフを吐いて行く。他に人がいてもお構い無しで、こういうところが本當に嫌だった。

確かに未経験だが、これを人前で言われなければならない理由が菜胡にはわからない。また他人のプライベートをそうも知りたがりコントロールしたがる淺川の心理も、菜胡にはわからなかった。

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