《夜明けを何度でもきみと 〜整形外科醫の甘やかな〜》2
棚原と菜胡は、初めてを重ねた日から可能な限り一緒に過ごしていた。當直の日を除いて、ほぼ土日は棚原のマンションでのんびりと過ごす。日曜は平日のための買い出しをしたり時間が余れば車で遠出をするなどちょっとしたデートもして、夜は菜胡を寮へ送り屆ける。數時間後にまた仕事で會えるのにそのしの別れを惜しんで夜を明かす。そんな日が続いた。同時に菜胡が寮にいる時間は確実に減っていて、聞きたくもない聲を聞かずに済んでいるだけで神的にも救われていた。
ある週のはじめ、棚原に一件の連絡があった。古い友人である松原が都に小さなレストランを開いたから來てしいというもので、即答した。
『彼を連れて行くよ。土曜の夜に予約したい』
松原は、棚原の指のわけを知っている人の一人だ。だが、昴の件もある。だから菜胡の事を軽く話す事にした。実際、松原からは彼ができたのかと驚きの返信があったからちょうどよかった。
『はじめて好きになった子なんだ。まだ付き合いが淺いんだけど、將來も考えてる』
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『そうか、それはよかったなあ! 棚原から好きになるなんて今まで無かったもんな? 來週の土曜でいいか? 予約れておくから』
そうして予約していた土曜、仕事を終えた菜胡と共に、いつもよりほんのしおめかしをして、松原の勤めるレストランへ來た。
「紫苑さん、格好、これでよかったでしょうか」
「ん、大丈夫だよ。格式のあるところじゃないからそのくらいでちょうどいい、可い。オーナーは古い友人なんだ、指の事も知ってる。菜胡の事も軽く話してあるから気を楽にして楽しんで」
肩を抱き寄せ、その頭に口づけを落とした。
レストランは都心からやや離れたビジネス街の裏にあった。雑居ビルの二階に、外のらせん階段を使ってあがる。夜はワインバーになるそこには數組の客がおり、り口で挨拶をわし席に案された。他の客も居たためオーナーとはあまり話せなかったが、とても味しい時間を過ごして、二人はマンションに帰り著いた。
リビングでしばらく寛いでから、菜胡は明日の朝ごはんの下拵えに取り掛かる。明日の朝はおにぎにとお味噌、それから持ってきた作り置きのおかずを添えればいいだろう、そう考えながら米を洗い炊飯にセットする。味噌のは、先週來た時に野菜を刻んで冷凍させておいたものを使う事にして、ざっと明朝のごはんシミュレーションし終える頃、棚原からお風呂が沸いたと聲がかかった。
片時も離れたくない棚原の希で、風呂は毎回二人でる。二人で風呂にるが、人と一緒に風呂にって何もしないわけがなく、湯船に浸かって話しているうちに口づけ合う。するとたちまち菜胡は棚原にかされてしまう。
「や、まって、紫苑さっ……」
お湯を盛大に撥ねさせながら、湯船の中で菜胡が棚原にしがみ付く。
「菜胡、もうあがろ……ここじゃ用意が無いから……」
場所をベッドに移して、まるで初めからそうなるのが當然のように互いのは吸い付きあい、手は相手を抱き寄せ、足は絡み合った。境目がわからなくなるほどに貪り合う。時折互いの名を呼ぶ以外は言葉を発せず、その快にを任せ、溺れ、し合った。
「ん……」
タオルケットをにまとわりつかせて菜胡が目を覚ました。風呂から寢室に移してから散々求められ、何度か気をやった後でそのまま眠ってしまった。目覚めてじる事後の気怠さは、棚原との快楽にを委ねた証で、何度経験しても心地良い幸せだ。
時刻は日付がかわってしした頃で、棚原はまだ起きていて、本を読んでいた。それを傍に置いて、タオルケットの下の菜胡を抱きしめてきた。
「寢ちゃってたみたい」
「ん……いっぱい無理させたし」
ちゅっと軽くキスを落とす。
「ばか」
菜胡は恥ずかしそうにタオルケットで顔を多いながら小さく聲をあげた。そのまま棚原のに顔を埋めた。
トクトク……鼓が伝わってくる。だとより強くなる匂いも互いには心地いいもので、ピッタリと隙間が無いくらいにくっつき合う。背中にじる溫かくて大きな手のは安心しかなく、布団の中で絡む力強い腳……そのどれもがおしい。
ふいに棚原が聲をあげた。
「あ、そうだ、これ渡しておくね」
サイドテーブルに置いておいた小箱の中から、チェーンに通されたリングを取り出した。細いチェーンにシルバーのリングがぶら下がる。それを菜胡の手に乗せた。
「あ、紫苑さんの片割れの?」
リングをつまみあげて棚原の左手にあるものと見比べる。シンプルなものだ。
「うん。指にはめてもいいし、仕事中は首から下げて白の中に仕舞っておけばいいだろう」
「ありがとう」
起き上がり、首に掛けてみる。
「似合う?」
シルバーの細いチェーンが、菜胡の鎖骨にかかる。の狀態で唯一につけているのがそれだけという狀況にそそられたのか、棚原はゴクリとを鳴らして、菜胡の細い腰に手を回して引き寄せた。
それはまるで洋畫に出てきたヒロインのようだった。どこかくて危なっかしい。だが妖艶で、十分過ぎるくらい、そそられた。
「ん、似合う。きれい。こっちには本を贈るから……」
近い將來、左手の薬指に本を贈る。菜胡の左手を持ち上げ、その手のひらにも口付けて、気持ちを固めた。
* * *
平日は二人きりになれる機會がなかなか作れないまま日が過ぎた。ようやくの土曜になった。何もなければ夕方に待ち合わせて棚原と共に帰るのだが、今週は木曜の時點で容態の不安定な患者が居ると聞いていたから會う事は約束も期待もせず、菜胡はやるべき事を淡々とやっていた。
外來の電話が鳴る。
『棚原です、今日はまだ帰れないんだ、患者さんが落ち著いたから帰ってもいいんだが、當直の先生に申し送りしたいから』
「ん、わかりました。こちらは大丈夫、がんばってね」
病棟患者が急変してしまったのならそちらに注力すべきで、わがままは言えない。だが――。
『菜胡に會いたい、こんなに近くに居るのに……菜胡が足りない』
「私も同じです。紫苑さんがしい。でも、月曜にまた會えますから」
話が、まるでおしい人であるかのように両手で包む。そこから聞こえてくる聲を、一言も外へらさないかのように耳へ押し當てる。
『菜胡も気をつけて帰ってね、終わったら連絡する』
菜胡は寮にいる。病院の敷地にある寮に。だから仕事が終わった棚原と會おうと思えば會えるのだ。だが寮に來てもらうと淺川と鉢合わせになる恐れがあるため、絶対に來ないでしいとお願いをしてある。鉢合わせをして、もし関係が公になって、それが棚原の迷になってしまったら怖いし、淺川に邪魔されるのが嫌だ。それに、棚原と居れば甘い空気になる事はわかっている。そうなったら、あの薄い扉だ、嫌悪している淺川と同じ事をしてしまうのが嫌だった。だからこそ、菜胡は寮を出る事を考え始めたのだ。
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