《婚約破棄されたら高嶺の皇子様に囲い込まれています!?》9.殿下がおヤりあそばされてしまった

「大商會の坊ちゃんを知らないなんて、育ちが知れますなぁ!?」

「雑魚は引っ込んでな、俺らはそこの貧乏人に用があるんだからよぉ!」

もうやめて! これ以上狀況を悪化させないで!

とは言え、この場を丸く収める知恵や弁もなければ、すべてねじ伏せる力を持っているわけでもない。わたくしがやめてくださいと言い出しても誰も止まりそうにないし、魔法の決闘なんて始まったら全く役に立たないこと必至だ。

ど、どうしたら――。

「おいあんた。いつまで絡むつもりだ。これはおれたちの問題なんだ、外野はすっこんでいてくれ」

――ぶすっとした聲を上げたのは、今まで靜かだった赤髪の苦學生だ。

どうやら彼も、突然の急展開に置いていかれていたらしい。

しかし気を取り戻すなり、助けの手を払おうとするとは……まあでも、彼は駄目な富裕層の典型みたいな方と、今まさに火花を散らしていた所だった。

どこからどう見ても良いところのお坊ちゃんですって顔した殿下も、彼からすれば等しく「気にらない上流階級の人間」……いい印象は抱けないのかもしれません。

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「ああ、すまないね。誤解させたなら謝るけど、別に喧嘩をしようと思ったわけじゃないんだよ。ほら、さっきそこの彼が、服が汚れてしまったとか言っていたよね。ぼく、こう見えて汚れ落としとか結構得意なんだ。力になれるかなって――」

「と、とんでもございません! あなた様のお手を煩わせることでは!!」

今度はブヒブヒ鳴き聲が上がった。違った、ふくよか男子が必死に、泡を吹かんばかりの勢いで何事か喚いているのだ。

苦學生相手には全力の見下し姿勢だったのに、あんなにだらだら汗を垂らして……。

「ヒャアもう我慢できねえ、やっちまえ!」

「その綺麗な顔を凡人顔に整形してやる!」

のメンチをスルーされて頭にが上ったのか、取り巻きABが殿下に飛びかかろうとした。

わたくしはそっと、ぶつからないように數歩下がった。

「ぐへっ!」

「はぶっ!」

わあ、お手本のような放線……人ってあんな綺麗に宙を舞えるんだなあ。

しかも殿下は一切いていない。風魔法……いやその前に土かな? 足下をつるっとらせて、浮いたところをポーンと投げてやったらしい。

「お見事です、殿下」

「食後の腹ごなしって奴だね! ……でもさすがに、食堂では行儀が悪かったな。悪いことをしてしまった」

にっこりしてからしゅんとする殿下のお言葉にはっとして振り返るが、廚房や食堂に殘っていた學生たちからサムズアップが複數見える。

(よくやった)

(グッジョブ)

(皇子殿下のファンになります)

通じ合う心と心……!

でも確かに食事処で騒ぐのはよろしくないので、次からはこんなことが起こらないように……前向きに善処、できるかな。

ちょうどこのタイミングで、晝休み終了を告げる鐘が鳴る。

「あっ! じゅ、授業に行かなくちゃ! ししし失禮しました――っ!!」

「いてて……って坊ちゃん、なんで逃げるんですかい!?」

「このままじゃ済ませられませんって、倍返ししてやりましょうよぉ!」

「ばかやろおおお、おまえらなんか赤の他人だあああ!!」

これ幸いとばかり、満な腹を揺らしながらリーダーが立ち去り、取り巻き達も慌ててその後を追っていく。

なんとまあ、苦學生相手には王様かというほどの尊大さだったのに、逃げ足の速い子豚さんでしたこと……。

あと取り巻きABは最後まで圧倒的な力の差が理解できていなかったのね。開きすぎると壁があることにすら気がつかないとは言いますけど……。

はあ、とため息を吐いたわたくしの視界に、一人取り殘された赤髪の學生が映る。

「あの……大丈夫でしたか? お晝……」

殿下はいじめっ子達が逃げていった方を興味深そうに眺めていらっしゃったので、その間にわたくしが話しかけてみる。

すると彼は、わざとらしい舌打ちをした。

「余計なことを……」

「そうだった?」

「一応禮は言っておく。だけど、だれが助けてくれなんて言った?」

骨に謝していなさそうな態度を見せられて、ちょっとしゅんとしたわたくしだが、殿下の聲にヒエッとなった。

赤髪の年がさらに言い返すので、ますます呼吸が止まりそうになる。

「そもそもなんで、あんたみたいな人が大衆食堂にいるんだよ。お貴族様の暇つぶしか?」

「まあ、そういう所かな。きみたちの場をしたのは、悪かったね。ただ、ああいう所を見たら、見過ごすわけにもいかないから」

フォローした相手に噛みつかれようと、殿下のらかはんなりムーブは変わらない。それが逆に怖いけど、何も言えない……。

わたくしが息をのんで見守っていたところ、突如ぐごごごご、と何か地鳴りのような音がした。

全員無言になり、赤髪の年の腹部に視線が集中する。彼は髪と同じぐらい顔を真っ赤にして、腹部を庇う。

「こ、これは別に……おれの腹が権力に屈したわけでは……!!」

「ちょうどいい。余計なことをしてしまったお詫びをさせてはもらえないかな」

「施しはけない!」

「ぼくたちがきみに借りてしまったものを返そうとしているんだよ?」

ぼくたち、と自然に一員扱いされ、わたくしは胃がきゅっとするのをじる。

しかし、腹の蟲を聞かれてしまった上に、空腹を思い出したからだろうか――大人しくなった赤髪の年は、こちらの提案をけることになった。

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