さて……最近のクイズで鍛えられた眼力を使うことにする。

の子を見つめ続ければ、ほんのりと立ち上る青みがかった煙が見えてくる――貴族の子どもっぽかったですし、期待通りで安心した。

「シャンナ、何か見えそう？」

「々お待ちを――を覚えます」

人の持つ魔力は千差萬別――種類、質、量の違いは、の濃さや煙やといった見え方に出る。

そして魔法とは大概伝する。

つまり、この小さいの子の魔力が見えるわたくしであれば、同じ魔力を持った年頃の男を見分けることができるのでは？　という作戦を思いついたのだ。

わたくしに見つめられて児がまたぐす、と鼻をすするが、殿下が優しい聲をかけられると我慢する。なるべく早く済ませてあげなければ。

（おそらく人通りの多い方ではぐれたのだと思いますが……）

お手本を充分目に焼き付けたわたくしは顔を上げ、雑踏に視線を向ける。そのままし眺めていると、ロジェが話しかけてきた。

「なんか見えたか？　ちびすけの歩いてきた殘像とか」

「わたくしの目をなんだと思っているんですか。そんな面白機能はありません」

ああでも、ロジェの茶々はいい発想です。

直前の殘滓なら、目を懲らせば見えるはず……そしてその殘滓を、順々に追っていけば、あるいは。

「どこ行くんだ？」

「移されるとさすがに薄すぎますし、人がいて見えないのですが、止まっていた場であれば、迷子になったことで緒不安定になっており、魔力がれやすいので――」

「つまりまとめると何なんだよ」

「……痕跡をたどっていけば、はぐれた場所ぐらいまでは戻れるのではないかな、と。迷ったときの鉄板でしょう、スタート地點に戻るのって」

「……あ、わかった。なんか見たことあるなって思っててさ。これ、落としの匂いから持ち主特定する犬だ」

「ちょっと集中切れるんで、黙っててくれませんかね！」

本當にこの苦學生は！

児の機嫌を取りながら、わたくしの邪魔をせずし後ろをついてきてくださる殿下を、しは見習ったらどうなのか。いや見習う見習わないの前に、そも隣國皇子を迷子係にさせているのがどうなのか。ご本人はずっと笑っていらっしゃるけど……。

いけない、集中。殿下のためにも早く迷子の保護者を探さなければ。

わたくしたちは街の人混みの中を進み、大通りの方までやってくる。

馬車の行きいも活発な場所になり、殿下がそっと児と手を繋ぎ直している。もう一方の手はロジェが確保しており、二人のお兄さんに両手を握ってもらった彼は、まんざらでもなさそうにぴょんぴょんしている。

「……ここで切れてますね」

「じゃあ、この辺りではぐれたんだ」

「というか、これはもしや……馬車に乗ってきた……？」

わたくしが痕跡の殘り方から半信半疑で問いかけると、児は目をまん丸にした。

「なんでわかったの？　ばしゃにしがみついてきたこと……」

「へー馬車で……しがみついてきた！？」

「小さい子って元気のスイッチが切れるまでは全力でき回るから、まあなくはないかな……正式な教育前だけど、貴族の子どもは魔力が富なことが多いし……」

「お人形さんみたいな見た目してすげーガッツだな、おい……」

ロジェは驚愕していますが、殿下は普通の反応。さすが皇族、懐が大きいのですね。

わたくしは今、「しがみついてきた」の一言でロジェ同様思考が停止しました。

さて、だけどまだ仕事が殘っているので、速やかに再起せねば。

大通りの雑多な魔力痕跡の中から、児と類似するものを探し、今度はその後を追う。

「探偵というか……やっぱり犬……？」

「ロジェくんがをなくしても、捜し手伝ってあげませんからね」

「シャンナ……結構目を酷使していると思うのだけど、無理はしていない？」

「全然平気です。ピンピンしてます！」

そんな會話をえつつも、大通りからまたし歩いてふと顔を上げた先。

わたくしのワンピースとそっくりな――紺の髪の年が、ちょうど建から出てくるのが目にる。

「セディにーさま！」

「……クリスタ！？」

児が嬉しそうな聲を上げ、つられてこちらを向いた年が目を丸くする。

――けれどわたくしが意識していられたのはそこまで。

よかった、任務達だと気が緩んだ瞬間、唐突にぐらっと視界が歪み、強烈な頭痛が走った。

思わずその場にうずくまる。

「シャンナ！」

頭を押さえて唸るわたくしに、殿下が駆け寄ってくる気配がする。ああだけど、顔を上げるのはちょっと難しいかも。首をかすとずきっと嫌な覚が走る。

「大丈夫？　気分が悪くなった？」

「わからないです……めまいかな……」

だって今日、全然良いところがなかったから、せめてこれぐらいって張り切っちゃったのだ。あと純粋に、知らなかった世界が見えるようになったことが楽しくて。そういえばさっき、あれ？　ちょっと視界ぼやけてない？　とか途中思ったんだったなあ。

（これが霊眼の反ですか……目の奧から後頭部にかけてぎゅーっと締め付けられるような）

眉間とこめかみのあたりが、嫌な脈を打っているようにじる。うう、なんとも形容しがたい気持ち悪さ。

すると額にぴとっと、ひんやりしたが押し當てられた。殿下が冷気を作り出してくださったのだろうか。

「まだ痛む？」

「今のでほっとしました……」

あああ、生き返る……。

回復中のわたくしの耳に、遠くからはしゃぐ聲が聞こえてきます。

「にーさま！」

「どうしてここに……家で待っているはずでは」

児が嬉しそうに駆けていく気配と、応じる低い男の聲。

「なんか、あんたのことを追っかけてきたんだと。ああ、俺たちはその、通りすがりに迷子を見つけたというか」

「……そうか。謝する。クリスタ、お前からも禮を言うんだ」

「ありがとう！」

ロジェが事を説明すると、保護者は妹に聲をかけ、児は元気よく謝の言葉を放っている。

良かった。親さんによっては、連れ回したことを嫌がるって可能もあったから、表向きだけでもすんなりとけれてもらって。

「……きみは、ロジェ＝ギルマンか。それに……なぜ貴方までここにいらっしゃるのです、殿下」

もうそろそろ目が開けられるかな、と思ったわたくしが次に聞いた言葉は、児の保護者がわたくしたちを見比べて正を言い當てたものでした。

あれ？　さっきぱっと見たじでは、妹さん同様見るからに良い所のお育ちの方、という風に見えましたが――ああ、そういうことか。

「ああん？　なんで知って――ああ、もしかして。學園の生徒？」