《婚約破棄されたら高嶺の皇子様に囲い込まれています!?》33.意外な再會

重をかけた扉はそのまま側に開いた。わたくしは危うく転がり落ちそうになるが、なんとか踏みとどまる。

――薄暗い、下に続く階段。今いる場所は屋外。ということは必然的に、この道の先は地下室ということになる。

わあ、行きたくない。視界にったからって、なんでこんな所開けちゃったんだろう。絶対ここに行っても、ろくなことにならないじゃないですか。見なかったことにしてそっと閉じちゃおうかなあ――。

「どこにいるんだい、マノン。抱きしめてあげるからね。きみの細い首に、この指を絡ませて――」

うふふ、背後からまた麗しげな呪詛ががが。

それ抱きしめるじゃなくて首絞めるです、とか心の中で突っ込んでいる余裕もそろそろなくなってきた。

さて背後には侯爵の気配がつきまとうので退路はなく、裏口が開かなかったということは逃げ場もない。

なら後は、うまいこと隠れてやり過ごし、出の機會を待つ――たぶんもうこれしかない。

裏門だから鍵がかかっていた可能は殘っている。正門の方はまだ試していない。あちらからなら、外に出られるかもしれない。

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一応、生け垣迷路に今から取って返すという手もあるが……聞こえてくる聲の距離的に、彼ももう迷路にいる。わたくしに姿を消すような魔法なり魔道なりがあれば奇跡的なれ違い蕓も可能かもしれないが、まあ鉢合わせして処される未來しか見えない。

となれば、この地下室に一縷のみを――なんか良いじの隠れ場所か、起死回生の伝説の武的なものが眠っていることを祈る。絶するにはまだ早い。たぶん!

「マノン、気まぐれなだ。また私を焦らして、意地悪するつもりなんだね。もう、隨分と待たされた。疲れてしまったよ。そろそろ抱きしめてくれたっていいじゃないか――」

――無言で地下室への扉の側にり込んでからの、そっ閉じ。かろうじて見えていた迷路の景が封印されました。

抱きしめません。絶対に抱きしめませんし、されたくもないですからね。申し訳ないですが、好みじゃないとかそういう以前の問題です。

ところでなんで今、ちらっと殿下の顔が頭をよぎった? 駄目よシャンナ、夢を見るのはいいけれど、現実から逃げるのは絶の底に落ちきってからでしょう。

あと殿下ならちょっとぐらいいいかな……とか思ってないです。思ってないよ? 変な心の扉を開こうとするのはやめなさい。大分神的に追い詰められているのでしょうけども。

恐怖のおじさま劇場を地上に置き去りに、いよいよ石階段を下りていく……。

それにしても暗い。壁に手を突き、足下は一段一段確かめる。

わたくしは火の魔法もの魔法も適がないから、を自前で確保はできない。

飛び込む前にざっと見えた限りでは、照明が用意されているじでもなかった。一歩一歩、焦りすぎず、でも油斷せず、息を潛めて慎重に進んでいく。

……ああ。暗くて、じめっとしていて、そわそわする。まるで永遠に続く底なしの道に迷い込んでしまったみたい。何度か引き返したい衝がこみ上げるが、首絞め若作り閣下を思い出すと、先に進む方に意思が傾く。

だって対峙したら、最低でも窒息プレイ確定なのでしょう。ぞっとしない。首絞めって苦しい方と一瞬で気絶する方あるってちらっと聞いたことあるんですけど、彼は一どっちのつもりなんですかね。いたぶりコースかなあ、やっぱり。

嫌だなあ。じわじわなぶられたりしたら、わたくしきっと泣きんじゃう。一般人メンタルだから、痛いのも苦しいのもヤダ。

でもわかりますよ、きっとそういうのってね、「噓はいけないよ、本當は気持ちいいんだろう?」とか言われてエスカレートする奴です。

ああ、伝説の悪マノンよ……本當、恨みますよ。察するにあの人、あなたが適當にかけてから捨てた元人の一人なのでしょう。どうしてああなるまで放っておいてしまったのですか。あとハードプレイにはNGを出しておいてくださいよ、これだから誰とでも寢るは……。

頭の中で母への文句を連ねるが、怒りは恐怖を紛らわせてもくれる。

マノンのバカヤロー! 侯爵閣下のあほんだらー! わたくし本人が何をしたっていうのよ! 何もしてないのに、なんで毆られたり閉じ込められたり追いかけ回されたりしないといけないんです!?

……正直、こんな風に考えでもしなければ、とっくにへたりこんでわんわん泣いているような気がする。十七の小娘にはちとヘヴィすぎるのよ、々と。

幸か不幸か、わたくし以外の足音は聞こえない。孤獨に一人、暗闇の中を徘徊中。この時空間の覚を失いそうな狀況、なんだかそのうち幻覚とか見出しそうなのが怖いんですよね。

ああ殿下。わたくし普段は怠惰の使徒ですが、今日は朝から今に至るまで、相當頑張っていると思うのです。ちゃんとお約束通りあなたの所に帰りますから、そうしたら褒めて……頭でたりとか、ご褒むのは図々しいのでしょうか。

幻覚でいいから今すぐ隣に出てくれないかな、手を握って「大丈夫だよ」って言ってくれないかなって、今ちょっと思い始めている……。

う、わ! びっくりした。下りるつもりで踏み出した足が、思っていたより高い位置にあった床を踏む。

踴り場? それか、ついに階段の一番下にまで辿り著いた?

もうし床を探ってみるけど……うん、やっぱりこれ以上は下がらないみたい。ここが終點のようだ。

階段は本當に人一人が通れるぐらいのスペースしかなかったけれど、ここはもうし広いみたい。どこかに照明みたいなものが……ひえ、何か冷たいものが手に。思わず引っ込めるけど、ししたら勇気を出して再チャレンジ。あ、もしかして、これ……。

なけなしの魔力を指先に込めると、頼りなくもが宿る。

よかった、思った通り、手燭式の照明でした! 誰か置き忘れたか、それとも暗いからここに置いて使っているのかな。

なんだろう、明かりが手元にあると思うだけで安心するから人間って不思議ですよね。

辺りを照らしてみると……無機質な石の空間が続いている。

これは……樽が並んでいるのかな。地下の貯蔵庫? いや、もっと奧は……。

「だれだ……?」

危うくせっかく手にれた明かりを落とす所だった。なんとか手燭を手放さずには済んだけど、ああどうしよう、明かりの消し方がわからない! 相手にこちらの存在がわかってしまう!

でも、今度こそここで終わりか、と覚悟した割に、近づいてくる気配がない。

わたくしがいぶかしげに暗がりに目を向けると、もう一度聲が聞こえる。

「……とうさん?」

この聲……聞き覚えがある。というか、今日ついさっき聞いたばかりでは。

まさか。いや、そんな。

わたくしは無言のまま、音のした方に歩いて行く。

薄暗い石廊下を進んでいった先には、鉄格子が並ぶ。ちらっと見えた白いの正なんて、確かめたくもない。とにかく人の気配のありそうな所を探して、近づく。一番奧、一際狹そうな牢の前で、ようやく足を止めた。

「レオナール……?」

わたくしが呼びかけると、地下牢の中の何者かはじろぎし……そして唸るような聲を上げた。

「なんで、お前がここにいるんだ」

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