《売れ殘り同士、結婚します!》7話 返事

冬馬から連絡が來たのは、それから四日後だった。

"急で悪いんだけど、今日の夜なら時間取れそうなんだ。家に來るか?"

仕事の休憩中にそれを見て、すぐに了承の返事をした。

「あれー?大河原先生すーごい嬉しそう。いいことありました?」

「ゆき……佐藤先生、わざとらしい言い方はやめてくださーい」

由紀乃が私の顔を見て面白そうに話しかけてくるから、それに小聲で言い返すとまた面白そうに笑う。

「ふふっ……あれから進展あった?」

隣に腰掛けて耳打ちしてくる由紀乃に、

「今日仕事終わりに會う予定になって……」

と告げると、嬉しそうに「頑張れ!」と言ってくれて頷く。

しかしそういう日に限って急な殘業がり、結局中番だったのに園を出たのが十八時過ぎ。

著替えてメイクを直す時間はあるだろうか。

そう思って角を曲がってイチョウ並木が見える道路に出ると、

「……しずく?」

「……あれ?冬馬」

崎総合法律事務所のすぐ近くで、冬馬と遭遇した。

「奇遇だな。今接見終わって車取りに戻ってきたんだ。ちょうど連絡しようと思ってたところ」

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「私も今終わったの。仕事長引いちゃってこんな格好だから、待ち合わせ前に著替えに帰ろうかと思って。あとしで走り出すところだった」

「ははっ、別に気にしなくていいのに。じゃあちょうどいいからここで待ってて。今車取ってくる」

「わかった」

待ち合わせが省けたためそのまま冬馬の車で向かうことになり、先日訪れた公園で冬馬を待つ。

五分ほどで公園の隣に橫付けされ、助手席に乗り込んだ。

時間も時間のため、夕食は宅配を頼むことにした。

「こんな時間まで接見なんて大変だね。裁判は順調?」

「あぁ。ちょっと難しい案件だったんだけど、どうにか一旦落ち著いた。次回の裁判に向けてまたかないといけないから休んでる暇はないけどな」

「そっか……ごめんね、忙しいのに時間作ってもらっちゃって」

「いや?そういう意味じゃないから大丈夫。仕事も大事だけど、俺にとってはそれ以上にしずくとの時間も大事だからな」

「……ありがとう」

嬉しそうな橫顔にお禮を告げると、運転しながら左手で私の頭を雑にでた。

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車は緩やかに進み、冬馬の自宅マンションにたどり著いた。

地下駐車場に停めて、エレベーターで直接十階へ。

部屋にって扉の鍵を閉めると、靴をぐ前に冬馬に腕を引かれた。

「……と、冬馬?」

私の存在を確かめるようにぎゅっと抱きしめる両腕。

たった四日會えなかっただけで、一どうしたのだろうか。

「あー……やっと會えた。癒される」

呟くような聲におしさが増して、私も冬馬の背中に腕を回してに頰を當てた。

すると冬馬の心臓の音だろうか、ドクンドクンという高鳴りが私の耳を伝ってきて、私自の鼓と重なる。

同じ速さで刻まれるリズムが心地良くて、とても癒された。

「しずく」

しだけを離した冬馬は、私の頰に手を添えて顔を上げさせる。

し屈んで、掬うようにれたキス。

すぐに離れて、數センチの距離で見つめ合う。

「會いたかった」

言葉と同時に何度も角度を変えてはれて離れて、それを繰り返しているうちに激しくなり、玄関の扉に押しつけられた。

「んん……んあっ……」

冬馬の熱い舌がを割ってり、私の歯列をでる。絡み合った舌からはいやらしい水音が響き、次第に膝に力がらなくなってストンとが落ちそうになった。

「っと……あぶね、やりすぎた」

「はぁ……はぁ……はぁ……」

私が崩れ落ちる前に片手で支えてくれたため倒れずに済んだものの。虛な目で見上げると、冬馬はごくりとを鳴らす。そしてもう一度求められてを合わせた。

*****

結局冬馬が私を離してくれたのはそれから十分ほどしてからで。

満足気に私の手を引いてリビングに向かう。

を置いたところでちょうどインターホンが鳴り、注文していた宅配が屆いたよう。

「しずくは座ってていいから」

そう言われたけれど、なんだか落ち著かない。

ご飯が屆いたのなら飲みの用意でもしておこうか、とダイニングに向かって心の中で斷りをれてから冷蔵庫を開ける。

「……見事に空っぽ」

ちゃんと食べているのかと聞いた時に、食べてると言っていたけれど。

お茶と牛、それからお酒と飲みしかっていない冷蔵庫を見ると、おそらくほとんど外食かコンビニあたりで済ませているのだろう。

忙しいから仕方ないとは言え、これでは栄養面に不安も殘る。

ひとまずお茶のペットボトルを出して、食棚からコップを二つ取る。

お茶を注いだところで、冬馬が戻ってきた。

「お、さんきゅ。屆いたから食べよう」

「うん」

頼んでおいた中華料理をお茶をテーブルに並べ、お互いの仕事の話をしながらゆっくりと食べた。

「ねぇ冬馬」

「ん?」

食べ終わった後、一緒にキッチンに立って後片付けをする私たち。

私がコップをスポンジで洗っている橫で、ゴミの分別をしていた冬馬が聲だけで返事をした。

「この間ね、懐かしい夢を見たの」

「夢?」

「うん。私と冬馬が修學旅行行かないって言って、莉子が泣いちゃって。それでふみくんが莉子をめてる時の夢」

「あぁ……ははっ、そんなこともあったなあ。確かあの後、マジで大量のお菓子買ってきたんだよな?」

「そう。その場では食べきれなくて家に持って帰って。雅彌……弟にほとんど食べられちゃったんだけどね」

「俺も。妹たちに全部食べられた気がする」

そんな雅彌が今ではあの頃の私たちと同じ高校生だなんて、時間が経つのは早すぎると思った。

「それとね?……卒業式の日の夢も見たの」

「……それって」

「うん。……冬馬と、あの約束した時の夢」

洗い終えたコップを布巾で拭き終わると、食棚に戻して冬馬の方を振り向く。

「私ね。あの時、本當は嬉しかったの」

ゴミを捨て終わったのか、冬馬も私の方を向いた。

「高校生の時、正直ちょっとしんどい時期もあって。だから冬馬がよく相談に乗ってくれて、すごく救われてたの」

「……うん」

「莉子とふみくんのことがあって、冬馬とも全然會わなくなって。それがつらくて、しんどくて。莉子に隠れて冬馬に會いに行こうかと思ったこともあったけど、なんで來たの?って言われるのが怖くてやめたこともあった」

「……んなこと言わねぇよ」

「ふふっ、うん。……だからあの時、何言ってんだって思ったけど、約束してくれたのは嬉しかったの。また冬馬と話せたことが嬉しかった。第二ボタンもらったのも、今も守り代わりに持ち歩いてるくらい嬉しかった」

あの時からずっと私の財布の中には、守り代わりにあの第二ボタンがっている。

特に何かをするわけでもないしメッキも剝がれてもうボロボロだけれど、ずっと一緒に生きてきたからか無いと不安になる。

「そのまま卒業して専門行って、地元で就職して。働いてる間に、お母さんが亡くなって。どうしていいかわかんなかった時も、冬馬との約束思い出したら頑張れた」

「お前の母さん……そうだったのか」

「うん。……この間、冬馬は"好きじゃなきゃあんな約束しない"って言ってくれたよね。私も同じ。好きじゃなきゃ、あんな約束提案されても頷かなかった。噓でも約束なんてしない。好きな人とだから嬉しかったの。冬馬だから頷いたの」

「……しずく」

「冬馬。私も、あの約束をする前からずっと冬馬が好き。何度も忘れようって思ったけど、無理で。でも家の問題もあったから、伝えるつもりなんてなかった。卒業してもう會えなくなって、でも勝手に助けられてて。頑張る糧にしてた。葉わないと思ってたから誰にも言うつもりなんてなかったし、もう良い思い出として冬馬への気持ちは忘れたつもりになってた。だけど、再會してわかったの。やっぱり今でも私は冬馬が好きなんだって。冬馬だけが大好きだって」

やっと言えた。

に燈るのは、冬馬への溫かな気持ち。

「冬馬、大好きだよ」

驚きに目を見開いている冬馬に、笑顔を向ける。

言葉にならないのか、口元を手で押さえて

「……まじ?」

と繰り返す冬馬。

「私だってこんな噓つかないよ」

冬馬に近寄り、その大きなにぎゅっと抱き著く。

首に腕を回して、冬馬にそっとキスをした。

「冬馬が好き。冬馬だけが大好き」

「……しずく」

「ん?」

「……やばい、どうしよ、嬉しすぎてにやける……」

口角が上がりっぱなしの冬馬は、何度も私に本當かどうかを聞いてきて。

その度に本當だよと言い続けていたらようやく理解してくれたよう。

「しずく」

「なに?冬馬」

「……俺と結婚してくれる?」

「……私でいいの?」

「しずくがいいんだ。しずくじゃなきゃダメなんだよ」

「……嬉しい。ありがとう。……こんな私で良ければ、よろしくお願いします」

そのまま私は拉致られるように寢室に連れて行かれ。

明日も仕事なのに、深夜まで私の聲が響き渡る。

泊まるつもりなんてなかったのに、あまりの激しさに事が終わった後はもう起き上がれなくて。

そのまま冬馬の腕に抱かれながら、朝を迎えるのだった。

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