《売れ殘り同士、結婚します!》9話 発表會
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冬馬に気持ちを伝え、無事に付き合うことになってから一ヶ月が経過していた。
その間こまめに連絡をとりつつ忙しい合間をって時間を作り、會っていなかった期間を埋めるようにしでも一緒にいる時間を作っていた。
『じゃあ頑張れよ』
「ありがとう。冬馬も仕事頑張ってね」
『あぁ』
會えない時の日課となった冬馬との電話を切って、自宅を出る。
今日はにじいろ保育園で生活発表會が行われる。
ここ一週間ほどは準備で寢不足気味だけれど、ひまわり組最後の発表會を功させるために、頑張ろう。
いつもより早めに出勤した土曜日の朝。
「大河原先生、おはよう」
「佐藤先生。おはよう」
「大河原先生おはようございまーす」
「橋本先生、おはようございます」
ちょうど同じタイミングで出勤した由紀乃と橋本先生に挨拶をし、職員室に向かう。
朝禮をして、橋本先生など擔任を持たない保育士や役職者はステージや照明、音響の最終確認へ向かう。
私たち擔任を持つ保育士は各クラスへ向かい、登園してくる園児たちを迎えるため、裝や小道の確認、擔任同士で最終の打ち合わせを重ねる。
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小道や本番で使う背景は全て保育士の手作りで、早番の日でも園に殘ってホールで皆で作業して完させたもの。
そのため子ども達より保育士の方が今日の発表會への思いれは強かったりする。
そうこうしているうちに時間が過ぎ、園児たちが登園してきた。
「しずくせんせーおはよー!」
「おはよう。今日の発表會頑張ろうね!」
「うん!」
続々と笑顔で登園してくる園児たちを保護者の方から引き継ぎ、裝に著替えさせて小道を付ける。
今回のひまわり組の演目は、ブレーメンの音楽隊だ。
たちに扮した園児と、泥棒役の園児が最終的には楽しく歌って踴って、という子どもたちが大好きな絵本を題材にしたオペレッタ。
セリフも歌も踴りも楽演奏まであり、保護者の方もとても楽しみにしてくれている。
今日はプログラムごとに登園時間もずらしているため、すでにホールでは発表會が始まっている。
今は年さんのクラスが劇をやっている聲が聞こえていた。
皆の士気を高めるために手遊びや絵本を読んで、円陣も組んでみたりして。
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始まる前からもう泣いてしまいそうだった。
オペレッタは、大功だった。
練習ではセリフに詰まってしまう子もいたけれど、本番に強い子ばかりなのか今までで一番聲も出ていて踴りも揃っていた。
ピアノ伴奏を擔當していた先生がかなりのあがり癥だったため心配していたけれど、練習を重ねてくれたらしくリズムもぴったり。
歌っている時にも笑顔がたくさん見られ、保護者の方の手拍子がさらに子どもたちの心を躍らせる。
卒園前、ここまで大きな行事はこれが最後だ。
子どもたちを見ていると極まって涙が滲んでくる。
よく見れば、保護者の方にも泣いてしまっている方が多くいた。
春にやった運會でも、お母さん方皆泣いてたっけ。
殘り短いひまわり組での生活を、思い切り楽しんでほしい。そのためなら、なんだってできる気がする。
一緒に思い出いっぱいの毎日にしていきたい。
最後に子どもたちと皆で撮った集合寫真は、私の新たな寶となった。
*****
発表會が終わった後、園児たちにご褒のプレゼントして、全員降園したのを確認してから職員全員で後片付けに奔走した。
その後職員室で全の反省會、各クラスでそれぞれの反省會。
自分達ではこれ以上ないくらいの大功だと思っていても、視點を変えれば違う意見も出てくる。
それをメモして來年に活かすことにして。兎にも角にも、長い一日が終わった。
日が暮れた頃、私は由紀乃と一緒に場所をいつもの居酒屋に移して打ち上げという名の労會を始めた。
「お疲れ様ー」
「かんぱーい」
ビールジョッキを片手に、テンション低く乾杯をした。
「つっかれた……」
「本當、年々終わった後の疲れの殘り方が酷い……」
「わかる……」
年齢には抗えない、と乾いた笑いをこぼしながら、運ばれてきた出來立ての焼き鳥を頬張る。
コンプライアンスの関係で園の外で園児と保護者の個人報に関係することは口にすることができないため、にじいろ保育園では職員全員での打ち上げのようなものは一切無い。他の保育士も、おそらく仲が良い人同士で飲み會を開いていることだろう。
できることなら今日の発表會についての話を永遠としたいけれど、宅飲みでは無いため葉わない。
そのため仕事の話はそこそこに安定的に話題はお互いの近況についてになっていく。
「で、噂の彼とはどんなじなの?」
お店についてからずっと聞きたかったのだろう、由紀乃の顔に"聞くのが楽しみ"と書いてあるように見えた。
「実は、付き合うことになりました」
「本當!?おめでとう!」
「うん、ありがとう」
冬馬に返事をした時のことを話すと、由紀乃は両手を上げて喜んでくれた。
「良かったね……!私も嬉しいよ!」
「ありがとう。由紀乃に背中押してもらったおかげだよ」
「私は何もしてないよ。しずくが勇気出してちゃんと気持ち伝えたからだよ」
「そうかなあ」
「そうだよ。でも二人とも十年以上もお互いを想ってたなんて、本當にすごいなあ。やっぱり運命じちゃう。結ばれるべくして結ばれたってじ?」
「ははっ、さすがにそれは大袈裟だよ」
からかってくる由紀乃に首を橫に振る。
「クリスマスはどうするの?」
「クリスマスは仕事なんだって。私も仕事だし、一応プレゼントだけ用意しておくけど會う予定は無いかな」
「そっかあ、ちょっと寂しいね」
「お互い休みが合わない仕事だから仕方ないよ。でも代わりにお正月は一緒に帰省することになったの。だから大丈夫」
一緒に新幹線で帰省する予定でチケットも手配した。その時にプレゼントも渡せばいいかなあなんて考えている。
「そっか。地元同じだもんね。じゃあ実家に挨拶とかも行くの!?」
「私はまだ付き合い始めたばっかりだし、気が早いような気もするんだけどね。彼……冬馬が"結婚前提なんだからちゃんと挨拶したい"って言うから。そこまで言うなら行こうかなって」
「そっかそっか。良かった、楽しみだね」
「うん」
「しずくが幸せそうで私も嬉しいよ」
「ありがとう」
私は毎年実家に帰るようにしているけれど、冬馬は職業柄あまり帰れていないらしく、久しぶりの帰省だと言っていた。
張するけれど、それ以上に楽しみが上回っている。
「そういう由紀乃は?彼ともうすぐ同棲始めるんだっけ?」
「そうなの!聞いてくれる!?この間家一緒に見に行ったんだけどね!?その時にプロポーズされたの。それで────」
由紀乃は彼氏さんと年明けから同棲予定で、どうやら年度末を目安に籍をれることになったらしい。
プロポーズの時のシチュエーションを事細かく話してくれて、顔を赤くしながらも嬉しそうな姿は正しく幸せそのもの。
「おめでとう由紀乃!」
「ありがとう。長かったよー」
「本當ね。由紀乃こそ幸せそうで私も嬉しい」
「ははっ、お互い幸せそうで嬉しいね」
「うんっ」
結納の話やら結婚式の話、新居の話などをしつつ今度婚約指を見せてもらう約束をして、今日はお開きになった。
店を出て、帰り道を歩きながら冬馬に電話をかける。
今日は由紀乃と飲みに行くと言ったら"終わったら電話ちょうだい"と言われていた。
コール音が五回目で途切れ、
『もしもし?しずく?』
とおしい聲が聞こえた。
「冬馬?飲み會終わったよ」
『そうか。仕事もお疲れ様。発表會だっけ?どうだった?』
「それがね?今までで一番上手にできたの!子どもたちもにっこにこでお母さん方もで泣いてくれて。嬉しかったあ」
言える程度で今日の話をすると、冬馬も嫌がらずに聞いてくれる。
『良かったな。準備頑張ってたもんな』
「うん。ありがとう」
大切な人に褒めてもらえることが、たまらなく嬉しい。
冬馬との電話は家に帰るまで続き、部屋の鍵を閉めたところでそろそろ切ろうか、なんて話をする。
しかし冬馬が思い出したように聲を発した。
『そうそう、忘れてた。年末の帰省だけどさ』
「ん?」
『史明から連絡が來たんだ』
「ふみくんから?」
なんだろう。荷を置きながら首を傾げる。
『なんか、莉子とより戻したらしくて』
「えっ!?」
予想外の言葉に驚きを隠せず、思いのほか大きな聲が出た。
ちょっと、莉子、私聞いてないんだけど!?
『俺もしずくと付き合うことになったって報告してて。そしたら、四人で會わないか?って』
そんなの、聞かれなくても答えは決まっている。
「會いたい!莉子にも會いたいし、ふみくんにも會いたい!」
四人で集まるなんて、何年ぶりだろう。
あの二人が別れてからは一切無かった機會に、が躍る。
しかし食い気味で返事をしたからか、冬馬は急に不貞腐れた聲に変わった。
『……俺には?』
もしかして妬いてる?と笑いそうになる。
「……もちろん、冬馬にも會いたいよ。今すぐ會いたい」
『フッ……俺も』
嬉しそうに笑っているであろう冬馬に今度こそ小さく笑った。
私が二人に會いたいと思うのは友達だからであって。
好きな人は冬馬だけ。
會わなければ聲を聞きたくなるし、聲を聞けばもっと會いたくなるもの。
……あぁ、早く年末にならないかな。
早く冬馬に會いたいし、早く地元に帰って莉子やふみくんに會いたい。
帰省の楽しみが、また一つ増えたのだった。
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