《売れ殘り同士、結婚します!》11話 帰省②
*****
翌日の大晦日。私は朝からそわそわして全く落ち著けずにいた。
「今日は冬馬くんのお宅に行くのか?」
「うん。挨拶に行くんだけど、張して……」
雅彌がカリカリに焼いてくれたトーストを頬張りながら、治らない悸を鎮めるべくマグカップにった牛を一気に飲んでみる。
しかし逆に咳き込んでしまい、雅彌に
「とりあえず落ち著け。焦っても何も変わんないから」
と背中をられる始末。
十個以上離れた弟に嗜められるとは、なんとも不甲斐ない姉である。
「冬馬くん、迎えにくるんだろ?」
「うん。お晝頃に來ると思う。だからそれまでにゆっくり準備しようかなって」
「なら尚のこと落ち著きなよ。今からそんな張してどうすんの」
「だって……!初めて會うんだもん、張するでしょ」
「だからってそんなガチガチだったら向こうの家族も困るんだから。張してるのは皆同じ!昨日冬馬くんが頑張って家にきてくれたんだから、今日は姉ちゃんが頑張る番だろ!」
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「……うん」
弟に叱咤激勵される姉。けないけれど、今はその言葉がありがたい。
先に私の実家に挨拶に來てくれたのは冬馬の優しさだ。
私も頑張らないと。
雅彌は私を勵ました後、
「じゃあ俺も彼と約束あるから!姉ちゃん、頑張れよ!」
と家を出て行った。
「……え、雅彌彼できたの?」
「ん?あぁ……半年くらい前だったかな。同じ學校の子らしい」
「え!?私聞いてないんだけど!?」
「ははっ、お前も雅彌のことになると急に過保護だなあ?」
「當たり前でしょ!お父さん、雅彌の彼に會ったことある?どんな子?」
雅彌に彼なんて……。変なの子に騙されたりしていないだろうか。いや、そもそもまだ高校生でしょ?付き合うなんて早いんじゃない?
母親代わりだったからかどこまでも雅彌に対して過保護になってしまう私は、お父さんに詰め寄るけれど全く相手にされない。
「お前ら、本當お互いのこと大好きだな。聞く容まで全く同じじゃないか」
「もうっ……今はそんなことはいいの!」
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どうやら雅彌も同じように私のことでお父さんに詰め寄ったらしい。
面白そうに笑ったお父さんに
「もう雅彌も子どもじゃないんだから大丈夫だよ」
と嗜められ、行き場を失ったを鎮めるために數回頭を掻く。
……そっか。つい興してしまったけれど、そうだよね。雅彌はいつまでも子どもじゃないし、私もいつまでも母親代わりじゃない。
子離れする親の気持ちって、こんなじなのかなあ……。
自分の子どももいないのに、そんなことを思ってしまう。
*****
「冬馬おまたせ」
「ん、行こうか」
「うん」
「気を付けていってらっしゃい」
「行ってきます」
お父さんに手を降り、冬馬と並んで雪道を歩く。
晝前から雪がちらついており、だけなら晴れるより幾分か溫かくじた。
昨日足首ほどまで積もっていた雪がさらに深さを増していく。
「昨日思ったけど、しずくってどちらかって言うと母親似なんだな」
「やっぱそう思う?」
「うん。目元のじとか笑い方がそっくりだった」
「なんか改めて言われるとちょっと恥ずかしいよね」
「そうだな。でも雅彌は父親似なんだな」
「うん。昔はお母さんによく似てたんだけど、だんだんお父さん似になってきちゃって。普通の子が父親似で男の子が母親似になるって聞くのに、なんか我が家は逆なんだよね」
「へぇ」
「雅彌なんていつのまにか私より背も高くなっちゃったからすごい変なじするよ。昔はこーんなに小さかったのに」
「忘れ多くてよくコンビニに探しにきてたよな。帽子とか水筒とか」
「そうそう。ふふっ、雅彌ったらすぐ何でも忘れてきちゃうから、んなところに探しに行ったり電話かけたりして謝りに行って。コンビニに何回も取りに行ったよね。最初は冬馬がバイトしてるなんて思わなかったから、あの時はびっくりしたなあ」
確かその時に雅彌のお世話をしていることを知った冬馬が、自分の家庭のことも喋ってくれたんだっけ。
それから定期的にお互いの話を聞くようになって。雅彌なんてコンビニでよく會うもんだから冬馬に懐いちゃって遊ぼう遊ぼうってうるさかったから大変だったなあ。
懐かしさに目を細めながら歩いていると、よそ見していたからか氷の上に雪が積もった場所で足がる。
「ひゃっ……」
そのまま転びそうになったのをガシッと冬馬が支えてくれて、「危なっかしいな。俺の腕に捕まっとけ」という言葉に甘えて、腕を組んで冬馬の実家へ向かった。
私の実家からは徒歩で二十分ほどかかっただろうか。次第に見えてきたマンションの三階のインターホンを押してから鍵を開けた冬馬は、「ただいまー」と言って中にっていく。
「おいで」
「お邪魔します……」
冬馬に手を引かれ私も中にると、
「あなたがしずくさん?いらっしゃい」
冬馬と目元がそっくりな、綺麗なが出迎えてくれた。
「うちの母親。んでこっちが大河原 しずく。俺の彼で婚約者」
それぞれを手で示してくれて、お互いに「はじめまして」と頭を下げ合う。
婚約者という紹介の仕方が嬉しいけれど全然慣れなくて揺しそうになる。
「大河原 しずくと申します」
「冬馬の母です。よろしくね」
「よろしくお願いします」
冬馬のお母さんはとても優しい笑顔で迎えれてくれた。
冬馬が昨日ホッとした表をしていたのがわかる気がする。
「だから張する必要ないって言ったろ?」
小聲で言う冬馬にじとりとした視線を送る。
張したくてしてるわけじゃない。
リビングに向かい、ふかふかのソファに促されて腰掛けるとケーキと淹れたての紅茶を出してくれた。
「まさか冬馬がこんな素敵なお嬢さんを連れてきてくれるなんて思わなかったから全然準備できてないの。ごめんなさいね」
「いえ、お構いなく。むしろ忙しい年末に急に來てしまって申し訳ありません」
「いいのよ、気にしないで。年末年始はにぎやかな方が楽しいもの。お會いできてすごく嬉しいわ」
「ありがとうございます。私もお會いできて嬉しいです」
「あらあら、気を遣わなくてもいいのよ?ふふっ、いつも冬馬がお世話になってるみたいで、迷かけてないかしら」
「迷だなんてとんでもないです。冬馬さんには昔から助けてもらっていて、謝しかないんです」
「あら謝?うちの冬馬に?あの子がそんなに褒めてもらえるようなことしてたかしら」
「はい」
「おい、勝手に人の話で盛り上がんなよ」
「なあに?未來のお嫁さんに嫌われないようにこっちは必死なのよ?お母さんはね、お嫁さんとは仲良くやっていきたいタイプなの」
「それはいいけど、俺の話で盛り上がるのはやめてくれよ」
照れた顔をして私たちの會話を遮ろうと割ってってくる冬馬もえ、終始穏やかに會話を楽しんだ。
「じゃあ保育士をやってるの?すごいのねぇ。毎日大変でしょう」
「はい。でも子どもたちの笑顔が大好きなので、それ以上に充実していて楽しいです」
「まぁ、冬馬には本當にもったいないくらい素敵な方だわあ。冬馬、あんたやるわね」
「うるさいな、そんなの俺が一番よく知ってんだよ」
二人でべた褒めしてくれるのが恥ずかしい。
途中で同じように帰省していた冬馬の妹さんたちも合流して、五人でお晝ご飯を食べに行くことに。
妹さんたちは二人とも上京しており、二人で暮らしながら一人は容師、一人はネイリストとして働いているらしい。いつかは二人でお店を開くのが夢なんだとか。
普段はこの街には冬馬のお母さん一人で暮らしているらしく、冬馬が滅多に帰ってこないのを心配していたよう。
「仕事が忙しいのはわかるし、頑張ってるのも知ってる。知ってるけど、たまには帰ってきなさいね」
「わかってるよ」
「しずくちゃん。冬馬のこと、よろしくね」
「はい」
無事に対面を終えた後は、冬馬に送ってもらって実家まで帰った。
そのままお互い家族と年越しをして、迎えた元旦。
朝から冬馬が迎えにきてくれて、一緒に家を出た。
寒空の中向かう先は、一番近い神社。
お正月には毎年莉子と一緒に初詣のためにここに訪れていた。
「しずくー!冬馬ー!」
「よ、二人ともあけおめー」
今年は高校二年生の元旦以來、久しぶりに四人での初詣。
甘酒を飲んでいる二人に手を振り返した。
「莉子はいつでもハイテンションだな」
「ふみくんが一緒だもん。そりゃそうもなるよ」
「それもそうか」
二人の元へ向かうと、
「おまたせ。二人ともあけましておめでとう」
と新年の挨拶をしてから、私たちも甘酒をもらいつつ參拝客の行列に並ぶ。
「すごい人だね」
「ねー、今日晴れてるからじゃない?その分寒いけど」
「そうだね、道ツルッツルだったよ」
「わかる!私転びそうになったけどふみくんに助けてもらった」
「私も昨日ったけど冬馬に助けてもらったよ」
「ははっ、一緒じゃん」
笑い合いつつ暇だからと四人でスマートフォンでゲームをしたりしながら待っていると、ようやくあと數組で私たちの番になる。
「何お願いする?」
「あー、世界平和とか?」
「ははっ、ふみくんに全然似合わない」
「んだと!?じゃあ莉子は何にするんだ?」
「えー?ー」
「うわずりぃ、教えろよ」
「だめだよ、人に言ったら葉わないとか言うでしょ?」
「あぁ、それもそうか」
目の前で二人が繰り広げる會話に私と冬馬でクスクスと笑う。
きっと莉子は"ふみくんとずっと一緒にいられますように"ってお願いするのだろう。幸せそうな表を見ていれば一目瞭然だ。
まず莉子とふみくんがお參りをして、次に私と冬馬が並んでお參りをする。
何をお願いするかは、すでに決めてきていた。
"冬馬と一緒に、幸せになれますように"
"大切な人たちとずっと一緒に笑っていられますように"
「ちゃんと願ったか?」
「うん。冬馬は何お願いしたの?」
「んー……多分しずくと同じこと」
「えー?私が何お願いしたかわかるの?」
「なんとなくな」
なんとなくでも、同じお願いだったら嬉しいな。
莉子とふみくんと合流して、おみくじを引いたりそのまま遊びに行ったりと楽しい元旦を過ごす。
その後は一旦冬馬と別れ、同じように帰省していた加奈子と蘭ちゃんとお茶をしたりとお正月を満喫した。
そして翌日の一月二日の夕方、新幹線で東京に戻る。
「そういえば、帰る前に雅彌と何喋ってたの?」
「んー?まぁ、男同士の話ってやつ?」
「ふーん……。あぁ、そっか。雅彌にも彼できたって言ってたからか」
「あ、そうなの?」
「え、その話じゃないの?」
帰省中何度も彼のことを聞いたのに雅彌は照れて全然教えてくれなかったから、てっきり兄のように懐いてる冬馬には教えてるのかと思ったけど。
じゃあ何の話だろう?
「あぁいや、まぁそんなとこ」
「……?変なの」
眠くて欠をしてしまう私に対して、冬馬がし難しい顔をしていたのがなんだか気に掛かったものの、睡魔に負けてしまった私。
行きと同様眠っているうちに降りる駅に著いてしまい、その頃には眠る前の冬馬の表のことなど頭から抜けてしまっていた。
そのまま冬馬の家に泊まり、三日の朝に自宅へ帰り翌日からの仕事の準備のため忙しくき回る。
お休み最後は早めに布団にった。
掛け布団を肩までかけて、アラームをセットして一息吐く。
この數日間、冬馬とずっと一緒にいられてとても楽しくて、幸せで。
「こんなに幸せで、いいのかな……」
すでに初詣でお願いしたことがずっと葉っているような、そんな気もしてしまう。
幸せな気分に浸りながら眠りに落ちていった。
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