《売れ殘り同士、結婚します!》16話 上京した理由

*****

「二次會も本當は行かないはずだったんだけど、しずくがいるかもしれないって思ったら足が自然と向かってて。二次會の予定人數には含まれてなかったから無理だったら外で待ってようと思ってたんだ。

でも幹事が知り合いだったから連絡したら偶然キャンセルが出てたらしくてすんなりれて。そこで必死でしずくのこと探したんだ。

すぐにしずくを見つけたけど、あれから十年以上経ってるし俺のこと覚えてるかも不安だったし、嫌がられたらどうしようとか馬鹿みたいに々しいこと考えちまって。しかもしずくは端の方で友達と飲んでたからなんとなく行きづらくてさ……。しずくからは死角になるところでずっと話しかけるべきか迷ってた。けどそうこうしてるうちにしずくが帰ろうとしてたの見て、勝手にいてさ。無意識のうちに慌てて追いかけてたんだ」

「……そう、だったんだ……」

二次會の帰りに話しかけられたのも、その時に冬馬が困ったような顔をしていたのも、この間の山田さんたちのことについても。全部が繋がった。

「あぁ。だから、山田たちが話してたことは確かに本當なんだ。最低なことを言ったと思ってる。言い訳に過ぎないけど、それはしずくともう會えないんじゃないかって思ってたからで、本心じゃなかったんだ。山田は昔から好きで誰彼構わず口説きに行くからしずくを関わらせたくなくて何も言ってなかった。だからこんなことになったんだよな。こんなことならちゃんとアイツにもしずくのこと報告しておけば良かったよ。全部俺のせいだ。……不安にさせて、悩ませて本當にごめん」

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確かに冬馬が言った言葉は、酷いし最低だと思う。

けれど、冬馬がそこまで本気で私のことを想ってくれていて、私のことでずっと思い詰めていて、そんなに自暴自棄になっていたなんて思わなかった。

知らなかった。私、冬馬のこと何も知らなかったんだ。

「……冬馬。ごめんね。私、何も知らなくて……。知ろうともしないまま疑ってごめんなさい。教えてくれてありがとう」

「しずくが謝る必要はないんだって。……俺たち、よく考えればこの十年ちょっとの間のお互いのこと、ほとんど何も知らないんだよな」

「うん。一緒にいられるのが嬉しくて、そんなのすっかり忘れてた」

「俺も。……今さらだけど、しずくのこと教えてくれるか?」

「もちろん」

頷いて、しずつ専門學校時代の話や地元で働いていた頃の話をする。

「そういえば冬馬に、私がなんで上京したのか話したことなかったね」

「そういえばそうだな」

「就職して三年間働いた頃かな、お母さんが亡くなったって言ったでしょ?」

「あぁ」

「その時、雅彌に言われたの。"ありがとう、もういいよ"って」

今でも私のに殘っている記憶は、とても大切な思い出だ。目を閉じると鮮明に浮かんでくる。

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*****

お母さんの容態が急変した。その知らせをけた日、ちょうど職場の研修中でし離れた系列園に行っていた。急いでタクシーに飛び乗って病院に向かった私が見たのは、お母さんの手を握り號泣する雅彌と、靜かに泣くお父さんの姿。

つい二日前にお見舞いに來た時は繋がれていた様々な管が、すでに外された後だった。

お母さんの手を握ると、最初は溫かかったのにすぐに冷たくなってしまって。

間に合わなかった。

頭の中をその言葉が周り、放心狀態だった。

目の前のことが信じられなくて、お母さんを何度も呼ぶけれど、當然返事など無く。

『姉ちゃんっ……お母さん、死んじゃったよぉ……』

私のに顔を埋めて泣く、當時まだ小學生だった雅彌を震える手で抱きしめた。

私がしっかりしなきゃ。そう思ったら、泣いている暇なんて無かった。

お母さんの初七日を終え、四十九日も終え。お父さんと一緒に様々な手続きを終わらせた後はどこかぽっかりが空いてしまったかのような心地を抱きながら仕事をしていた。

そんな日々でも頑張れたのは、冬馬との約束があったから。

冬馬は今日も私と同じようにどこかで頑張ってる。そう思ったら、私も頑張らなきゃって。家族を支えないとって。

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そう思いながら笑顔を作って、同僚たちに心配をかけないように職場では明るく振る舞って。

そんなある日、家に帰ってきて靴をいだ私に走ってきた雅彌が抱きついてきて、そこで言われたのだ。

『姉ちゃん』

『ん?』

『……泣いてもいいんだよ?』

雅彌は、私が一度も泣いていないことに気付いていた。

雅彌なりに私のことを心配して悩んで考えて言ってくれた言葉だった。

でも私は弟に心配かけている自分がけなくて、安心させようと笑おうとした。

『……雅彌。私は大丈夫だよ』

今思うと、それは全然笑顔ではなかったのだろう。

だって、雅彌の顔が悲痛に歪んだから。

『大丈夫なんかじゃない!姉ちゃん、お母さん死んじゃってからすっごい苦しそうに笑ってる!今もそうじゃん。家族の前で無理して笑わないでよ。俺が泣いてたから?俺が頼りないから?まだ子どもだから?俺のせいで姉ちゃん泣けないの?』

『違うよ、違う。私は……』

『姉ちゃんだけ我慢してるなんておかしいよ!姉ちゃんだって……姉ちゃんだって。俺より悲しいはずなのに。俺より泣きたいはずなのに。頑張りすぎなんだよ。……俺がもっと大人だったら、姉ちゃんは泣けるの?』

『雅彌……』

『姉ちゃん、泣いてもいいんだよ。悲しい時は大人だって泣いてもいいんだよ。我慢しちゃいけないんだよ。泣きたい時に泣かなかったら、心が壊れちゃうんだって先生が言ってた。だから姉ちゃん、泣いてよ。今度は俺が抱きしめてあげる。け止めてあげる。姉ちゃんの心が壊れちゃうなんて絶対ダメだよ。そうなったら、俺もうどうしていいかわかんないよ……』

『雅彌……』

心配と、悲しみと、深いと。

心が張り裂けそうなくらいのがこもった言葉に、今まで張り詰めていた気持ちをぎりぎりで抑えていた糸が、ぷつりと音を立てて切れた。

タガが外れたように止めどなく目から涙がこぼれ落ちる私は、そのまま雅彌にもたれるように倒れ込む。

玄関で泣き始めた私を雅彌は驚きながらもなんとか支えてくれて、リビングに連れて行ってくれた。

ソファに座って、小學生の雅彌が子どもみたいに泣き続ける大人の私をぎゅっと抱きしめてくれて、頭をでてくれて。

言葉通り、必死でめてくれた。

そのまま泣き疲れて眠ってしまった私と雅彌に、帰ってきたお父さんが布団をかけてくれていた。

朝起きたら、家族三人でたくさんの話をして。

『俺ももうすぐ中學生だから心配しなくても自分一人で全部できるから。姉ちゃん、ありがとう。もういいよ』

『今まで全部しずくに任せきりで本當に申し訳なかった。雅彌のことは心配しなくてもいい。これからは自分のことだけを考えて生きていきなさい』

雅彌がいつのまにか大人に近付いていて、驚いた。

もう、外で走り回っては怪我ばかりしていた子どもじゃないんだ。……ってことは、私、もういらない?

"雅彌のお姉ちゃん"じゃなくて、ただの"しずく"に戻るってこと?

急にそう言われても、何をどうしていいのかがわからなくて困り果てた。

私、今までどうやって暮らしてたんだっけ?

変わらずに毎日雅彌に世話を焼きたくなるし、癖で家のことも全部やってしまう。

そしてその後も何度も話し合いを続けて、お父さんと雅彌の勧めで一人の時間を作るために家を出ることに。

どこで暮らそう。近いところだとすぐに雅彌が心配になって帰ってきてしまうだろうからダメだと二人に言われた。その通りだ。

そもそも一人暮らしなんて初めてだから、不安も大きい。

だけど、どうせ遠くに行くなら、うんと都會に住んでみたい。かにずっと憧れていた東京なんてどうだろう。加奈子や蘭ちゃんも上京しているから、話を聞いてみよう。

冬馬も都會の大學に行くって言ってたよなあ。もしかして東京だったりして。なんて、いろいろな想像をしてみたりして。

一気に世界が広がったような気がした。

冬馬はどんな大人になっただろうか。夢を葉えただろうか。あの約束のことを覚えているだろうか。

東京に來て、どんな仕事をしようかと考えたけれど、冬馬に保育士が似合ってると言われたのがどうしても忘れられず、いくつか見學した中で一番雰囲気が私に合っていると思ったにじいろ保育園に就職した。

最初は前の職場とやり方が全く違ったりとギャップに苦労したところもあるけれど、慣れてしまえばこっちのもので。

どんなに行事が多くて大変でも、子どもたちの笑顔を見ていれば頑張れる。

東京に來てから冬馬に會えたりしないかなと休みの日は意味もなく出掛けてみたりしたけれど、當然そんなばったりあえるわけもない。そもそも冬馬が東京にいるのかもわからなかったから、半ば諦めていた。

そのため冬馬を忘れようと二人ほどお付き合いした男はいたけれど、どうしても冬馬と比べてしまって振られることが続いた。

結婚願はあったのに相手を好きになることができず、"お前、向いてないよ"と言われたこともあり、元々無かった自分への自信が全く無くなっていった。

そんな調子だったから、"私は仕事が人だから"なんて自分にも周りにも言い訳して。

まだ二十代だしね、なんて勵ましてもらって。

つまりは"冬馬"という理想を夢見すぎてしまい、現実のから逃げたのだ。

たとえあの約束が葉わなかったとしても、いつか冬馬と再會する機會があれば"私は売れ殘ってしまったけれど保育士を頑張っているんだ"とを張って言おう。

そう心に決めて。

*****

「だから、あの結婚式で冬馬に會えた時、信じられなくて。夢なんじゃないかと思ったの」

「……なんだ。もしかして俺たち、ずっと同じこと考えて生きてきてたのか?」

「ふふっ、そうなのかも。そう考えたらおかしいね。がうまくいかないなんて悩んでたのがバカみたい」

「本當だな」

お互い、あの約束を糧に仕事を頑張って。

約束が葉わなくても、いつか會えた時に長した自分を見てもらえるように、我武者羅に頑張った。

なんだ。最初から、私たちはずっと同じ方向を向いていたのか。あの約束を信じていればいいだけだったのか。こんなに悩む必要なんてなかったのか。

でも、だからこそ今再會して、こうやって一緒にいられるのかもしれない。

あの日々があったから、今こうして笑い合えているのかもしれない。

人生って、本當に何が起こるかわからないものなんだなあ。

「でも、そうか。だから雅彌はあの時あんなこと言ってたんだな……」

「え?」

「こっちに戻ってくる日、雅彌と何話してたんだって聞いてきただろ?」

「あぁ、うん」

「あの時、雅彌に言われたんだよ。『姉ちゃんがあんなに幸せそうに笑ってるの、初めて見た』って。『冬馬くんが姉ちゃんが甘えられる唯一の居場所になってあげてほしい。姉ちゃんは誰よりも幸せになるべき人だから』って。『姉ちゃん泣かしたら冬馬くんだろうと許さない』とも言われたな」

「……雅彌が、そんなこと?」

「あぁ」

雅彌がそんなことを言っていたなんて。

弟の長が嬉しくもあり、し寂しくもあり。

「……本當、昔からそうだけど、お前ら姉弟仲良すぎて見てて悔しいくらい妬けるわ」

私は本當に周りの人に恵まれている。

「……あれ、山田からだ」

「山田さん?」

「うん。ちょっとごめん」

二人で笑い合っている時にかかってきた電話。

冬馬はスマートフォンを耳に當てると雑な聲で電話に出た。

「なに?……あぁ、その話なら今本人から直接聞いた。え?まぁ……ちゃんと言ってなかった俺にも比はあるから。うん、まぁそうだな。……わかった。伝えておく。俺こそ悪かったな」

電話のじから、それが先日の話をしているのだと思ってがこわばった。

すぐに電話を切った冬馬は、はぁ、とため息を吐いてからまた私を抱きしめる。

「……電話、私のこと?」

「あぁ。あの場にもしかしたらしずくがいたかもしれないって。もしかして話を聞かれてたら傷つけちゃったかもしれないから謝りたいって。だから伝えておくって言っといた」

「そっか……。私思わず逃げちゃったから、その時に気付いたのかな」

「お前の友達か?"しずく"って呼ぶ聲が聞こえて、俺がそう呼んでたのも聞いてたからもしかしてって思ったらしい」

「ああ……なるほど」

由紀乃が走る私を呼んでたっけ。そこで気付いたのだろう。

「なぁしずく」

「ん?」

「一つ、提案があるんだけど」

「なに?」

「……一緒に住まないか?」

「それって、同棲するってこと?」

頷いた冬馬は、さらに続ける。

「お互い仕事で忙しいし、予定を合わせるのも大変な時期もある。そうしたら今回みたいになかなか會えなくて、もっと大きなすれ違いが起きることだってあると思うんだ」

「うん」

「それに、俺は純粋に毎日しずくの顔が見たい。聲が聞きたい。まだ結婚じゃなくてもいい。一緒に住んで、しでもしずくと一緒にいられる時間を多く作りたい」

「冬馬……」

「実は俺、近い將來獨立することも考えてて。まだまだ夢みたいな話だけど、通常の仕事の他にその準備もするために今必死で勉強してる。これからもっと忙しくなるんだ」

三十歳の年から獨立を考えてるなんて、本當にすごい。

「でもこれ以上しずくに會えない日が続くとか無理。今回みたいにしずくが泣いててもすぐに會いに行けないかもしれない。しずくが不安で一人で泣いてるなんて俺が耐えらんない。苦労もかけると思う。だけど、寂しい思いはさせたくない。だから、一緒にいたい」

冬馬の想いが、に染み渡る。

その想いを私が斷るわけないじゃないか。

「うん。私ももっと冬馬と一緒にいたい」

「……しずく」

「苦労って言ったって、私たち昔からずっと忙しくて大変だったんだもん。今まで一人で背負ってたものが、二人になるだけ。半分こできるなら、絶対その方がいい。私も冬馬に會えなくて寂しかったし、頑張ってる冬馬を一番近くで支えたい」

だから、一緒に住もう。

「しずく。ありがとう」

「こちらこそ。ありがとう冬馬」

ぎゅううう、と苦しいくらいに抱きしめられて、甘い甘いキスをされて。

そのままベッドに移して押し倒されて。覆いかぶさった冬馬が私の服の中に手をれる──と思ったものの。

「……冬馬?」

「……」

抱きしめたままかない冬馬の顔を覗き込めば、かすかな寢息が聞こえてきた。

「……ふふっ、寢ちゃったの?」

安心したのか、疲れが押し寄せたのか。

スイッチが切れたように私の上で眠ってしまい、段々と重くなってくる。どうにか起こさないように抜け出して、ゆっくりと布団をかけた。

いであったスーツのジャケットが皺にならないようにハンガーにかけて、冬馬の荷もベッドの脇に置いておく。

「……充電もしとくか」

冬馬のスマートフォンをテーブルの上から持ってきて、充電を挿す。

すると、

「……ふふっ、こんなとこまで私と一緒だ」

明るくなった待ちけ畫面が、帰省した時の新幹線の中で撮った私とのツーショットで。

自分のスマートフォンと並べて、全く同じ畫面を見て笑う。

同棲したら、こんな穏やかな時間が毎日続くのか。

それを想像して、思わず顔がにやける。

殘っていた家事を終わらせて、私も布団に潛り込む。

「……毎日お仕事お疲れ様。おやすみ冬馬」

ちゅ、とそのにキスをして、冬馬にり寄るように眠りに落ちた。

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