《売れ殘り同士、結婚します!》21話 卒園式

冬馬と同棲をスタートさせてから一週間後。

私は朝早くから容室で袴を著付けてもらい、ヘアメイクもお願いして著飾った狀態でタクシーでにじいろ保育園に出勤した。

「おはようございます」

「おはよう大河原先生。袴似合ってるね」

「橋本先生。ありがとうございます」

赤を基調にした袴は、社會人になって初めて卒園児をけ持った年にお父さんが買ってくれたものだ。

それ以來、年長の擔任になると卒園式で必ずこの袴を著ている。

玄関で遭遇した橋本先生と話しながら園の中にると、まだ始まってすらいないのにすでに極まって泣いてしまいそうな保育士もいる。

それに笑いつつ、タイムカードをきってからお部屋でひまわりの擔任三人で一日の流れの最終確認をし、主任と園長先生と一緒に最後の式の打ち合わせも同時に進める。

途中で一歳児クラスの園児が登園してきて、いつもと違う雰囲気に泣いてしまっている聲に和んで張していた空気がし緩んだ。

卒園式の日は基本的に卒園児以外は家庭保育をお願いしているものの、もちろんお仕事に向かう親さんも多い。そのため卒園式はやりつつも、他のクラスでは數名だけ通常の保育も行われていた。

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「しずくせんせー!キレーだね!」

「本當!?ありがとう」

「おはないっぱいでかわいい!それゆかた?」

「ううん、これは袴って言うんだよ」

「ハカマ?」

「そう、袴」

「しずくせんせーのハカマ、かわいい!」

「ありがとう。嬉しいよ」

後から登園してきた年中クラスの子とそんな話をしているうちに時間はすぎ、あっという間にひまわりの園児たちが登園してきた。

「しずくせんせーおはよー!」

「うわー!せんせーかわいい!キレイ!」

「あかくてキラキラでかわいいね!」

「そのヒラヒラさわらせてー!」

「あ、ずるいわたしもー!」

「皆おはよう。こらこら、引っ張らないでー」

登園するや否や、見慣れない私たち保育士の袴姿にテンションが上がったのか、ぐいぐい裾を引っ張る園児たちをどうにか宥める。

せっかく著付けしてもらったんだ。著崩れするのは全力で遠慮したいところ。

「皆は今日は一段とオシャレさんだね!」

どうにか子どもたちの興味を逸らそうとすると、思い出したようにの子たちが可らしい服を自慢しに集まる。

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「みて!わたしのはここにリボンがついてるの!」

「わたしのはね、おはな!」

「このヘアゴムね、おほしさまもついてるんだよ!」

「これママがかってくれたの!」

「これはおばあちゃんがかってくれた!」

「そうなんだあ。皆とっても似合ってて可いね」

「えへへー」

どうやら興味を逸らすことには功したようで、の子たちを褒めていると男の子たちも集まってきた。

「おれのはね、おにいちゃんがきてたやつ!」

「おれはじぶんでえらんだんだよ!デパートでね、じいちゃんとばあちゃんといっしょに!それでかってもらった!」

「そっかそっか、皆素敵だなあ!あとで皆で寫真撮ろうね!え!その髪のかっこいいー!お店でやってもらったの?え、パパがやってくれたの!?すっごーい!とっても似合ってるね」

男の子たちはいつもどおりで、張気味の子もいるため積極的に話しかける。べた褒めすると照れたように笑うのがなんとも可い。

対しての子たちはおしゃれしているのが嬉しいのか、むしろいつもより皆元気いっぱいでワンピースやヘアアクセサリーについてお友達同士で自慢し合っている。

「しずくせんせーもオシャレさんですてきだよ!」

「うん、いつもかわいいけど、きょうはもっとかわいい!」

「わー、嬉しい。ありがとう皆」

すっかりお兄さんお姉さんになった子どもたちの言葉を聞いていると、うるっときてしまう。

でも泣くのはまだ早い。

「わー、しずく先生袴だ!綺麗ー!」

「そんな、とんでもないです。ありがとうございます」

そんな調子で保護者の方々にも褒められてしまい恐しつつ、子どもたちに部屋で待機しているように促し保護者の方へも挨拶を繰り返した。

厳かな雰囲気の中、紅白の垂れ幕と正裝した園児たちの姿が眩しい。

「ただいまより、第三十六回、認定こども園にじいろ保育園の卒園式を始めます。まずは園長からのご挨拶を────」

いつも椅子に座る時はふざけたりダラけて貓背になってしまう子も多い中、雰囲気がそうさせているのか皆ピッと背筋がびていて本當にかっこいい。

園長先生の話と祝辭、そしてひまわりの擔任三人で並んで、園児一人一人の名前を呼ぶ。

皆の名前を噛み締めるように呼ぶと、

「はぁい!」

という大きな聲が帰ってくる。

そのまま呼ばれた園児はステージに上がり、園長先生から卒園証書をけ取った。

代しながら三人で全員の名前を読み上げると、急に実が湧いてきて涙がぶわりと溢れてきた。

何度経験しても、この瞬間は慣れない。

隣を見れば他の二人もすでに號泣していて顔を見合わせて笑った。

子どもたちはあんなに凜として頑張っているのに、保育士がこんなんじゃダメだ。

涙を拭ってからグッと顔に力をれて、笑顔を作った。

式が終わった後、園児たちとの最後のクラス寫真を撮影した。

お母さん方にもっていただき何枚かフレームインさせていただく。

卒園式が終わっても年度末まではこれからも子どもたちはほとんどが登園するため、結局月曜日からまた會えるのだけれど、やっぱり寂しくてつい泣いてしまった。

お母さん方から涙ながらにこの數年間の謝を伝えられて、子どもたちから

「せんせいありがとう!」

と豪華な花束とひまわりの全員がそれぞれ描いてくれた似顔絵を紐で閉じたものをプレゼントされて、嬉しさのあまり堪えきれずに號泣した。

「聞いてないよこんなの〜先生嬉しくて泣いちゃう」

「本當、こんなサプライズ嬉しすぎるー」

「皆ありがとう」

三人で園児たちを抱きしめて涙聲でお禮を告げる。

『しずくせんせい、ありがとう。だいすきだよ ひまわりぐみのみんなより』

新たな寶の表紙の文字にまた號泣して、園児とこれを用意してくれたであろうお母さん方に擔任三人で深々と頭を下げた。

"あぁ、やっぱり保育士って素敵な仕事だな"

"保育士になって良かったな"

プレゼントを見て、改めて思う。

何度でもそう思うのだから、やはり私にはこの仕事が天職なのだろう。

由紀乃や他の保育士ともたくさん寫真を撮り、片付けを職員全員でしてから私たちひまわりの保育士は解散。

三人でミーティングをして一年間の謝を伝えてから、年度末まで頑張ろうと笑い合った。

この後いつものように由紀乃と飲みに行く約束をしているから、一度袴をぐために再びタクシーで容室へ向かい、自宅に袴と花束を置きに一度帰った。

泣き腫らした目をメイクで誤魔化して、今日はし気分を変えてバルへ行く。

ジビエに力をれているお店で、それに合うお酒も提供してくれるところだ。

「じゃあちょっと早いけど、卒園式と今年度も一年、お疲れ様でしたー!」

「お疲れ様ー、かんぱーい」

由紀乃とビールジョッキを合わせてグイッと飲む。

の涙を流した後のお酒は味しい。

由紀乃は今日は通常通り登園していた子どもたちの保育をしていたため、卒園式はほとんど見れていないはず。けれどなぜか私が式の途中で泣いていたのを知っていて、ビールが出てくるまで散々からかわれた。

「でも、卒園式って必ず泣いちゃうよね」

「うん。何度経験しても毎回泣いてる。今思い出しても泣ける」

「ははっ、わかる。私も去年の卒園式は號泣したなあ」

「そっか、由紀乃は昨年度はひまわりの擔任だったもんね」

「そう。泣きすぎて式終わった後子どもたちに散々心配されてさ。お母さん方にもティッシュ渡されるし恥ずかしかった」

「ははっ、それはやばい」

「でしょー?なんかさ、子どもたちの長した姿がね、いろんなこと思い出しちゃって泣けるよね」

「そうそう、園した時はあんな小さくて喋れないし歩けなかったのにーって」

「抱っこするたびに散々泣かれたのに立派になって……!ってね」

「本當、子どもの長早すぎだし一年があっという間すぎる」

「わかる」

園した時はまだ喋られない赤ちゃんだった子が、いつしか歩くようになってせんせい!と呼んでくれるようになって、會えばたくさんお話ししてくれるようになって。

せんせいだいすき!なんて言われた日には嬉しすぎて先生も大好きー!なんて言って抱きしめた日もあった。

立派に長して、最後に花束までくれるなんて。

「ははっ、また泣いてる」

「もうー……見なかったことにして!」

「はいはい、飲もう!」

そう言う由紀乃だって、目がうるうるとしていて今にも泣きそうになっていた。

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