《売れ殘り同士、結婚します!》22話 プロポーズ
由紀乃と別れた頃、冬馬から電話がかかってきた。
『お疲れ。今どこらへん?迎えに行く』
「え、いいの?」
『當たり前。疲れてるだろ?俺も明日休み取ったから、家でゆっくりしよう』
「本當!?やったあ」
電話を切って數分で冬馬の運転する車が橫付けされる。
助手席に乗り込むと、左手で私の手を包み込んだ冬馬がらかく笑った。
「どうだった?卒園式」
「うん。していっぱい泣いちゃった」
「なんか目腫れぼったいもんな」
「え、やっぱり?もう、帰ったら冷やさなきゃ」
「別に明日休みなんだし、いいんじゃねぇ?」
「あ、それもそっか」
プレッシャーから解放された気がして飲みすぎてしまったか、頭がぽやっとしている気がする。
多分メイクもよれているし、相當酷い顔をしていることだろう。
「それにしても。やっぱりしずくの袴姿見たかったな」
「ふふっ、まだ言ってるの?後で寫真見せてあげるって言ったでしょ」
「そうなんだけどさ。園児は見れたのに人の俺は見れないなんて、なんとなく悔しいじ」
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不貞腐れたような表に、信號待ちの間に冬馬の頰に顔を寄せる。
ちゅ、と鳴るリップ音に、冬馬が固まった。
「……今車じゃなかったらそのまま押し倒して襲ってるところだった」
「ダメです運転中です」
「今のは可すぎるしずくが俺のこと煽ったのが悪い」
「今のは冬馬の方が可かったよ」
ヤキモチを妬いているみたいに見えて、すごく可かったし嬉しかった。
まさかそのヤキモチの相手が園児だなんて思わなかったけれど。
「うるせ、家帰ったらデロデロに甘やかしてやるから覚悟しとけ」
「えー、甘やかしてもらえるの?それは楽しみだなあ」
「おっまえ……酔ってんな?」
「そんなに酔ってないよー。シラフシラフ」
「んなわけあるか。くっそ、こんな時に限って信號引っかかりやがる。今すぐ帰ってキスしたいしなんなら今すぐ抱きたい」
「もう、安全運転でお願いします」
「わかってるよ」
悔しそうな表がやはり可く見えて、繋がれた手をぎゅっと握った。
そのまま家に帰り、冬馬の手を借りて車を降りる。
「ホットミルク飲むか?」
「うん。でも冬馬も仕事で疲れてるでしょ?私が作るよ」
「いいよ。たくさん泣いたんだろ?そださ注ぎ込もうれに酒も飲んでるなら危ないから俺がやる。しずくはソファにでも座ってて」
「……ありがとう」
部屋のドアを開けて、そういえば花束を置いたままだったと思い出して慌てて花瓶を用意する。
前に年長クラスをけ持った時も花束をもらったため、その時に買った花瓶を引越しの時に持ってきていたのだ。
「大丈夫か?手伝う?」
「ううん。自分でやりたいから」
「そっか。……綺麗な花束だな」
「うん。子どもたちからサプライズでもらっちゃった。いい匂い。嬉しい」
「しずくは花好きだったっけ」
「うん。自分で買うことは無いし、あんまり詳しいわけじゃないけどね。でもやっぱり花が玄関にあるだけでパッと明るくなるよね」
「そうだな。一気に華やかになる」
冬馬がホットミルクを作ってくれている間に花束を生けて、寫真を撮ってからリビングに向かう。
すでにほかほかの湯気が立っているマグカップを渡されて、ソファに一緒に座った。
飲みながら、冬馬が話を振ってくれるから卒園式での子どもたちの様子や、保護者の方から言われたことなどをバーっと喋ってしまう。
「あっ、ごめんね、ついテンション上がっちゃって。私ばっかり喋ってつまんなくない?」
「いや?俺の知らない世界だから興味深いし面白いよ。それにしずくの表がコロコロ変わるから、見てて飽きないし」
「もうっ、ちゃんと話も聞いてよ」
「聞いてるって。それで?」
「あ、それでね?子どもたちの名前呼ぶ時────」
甘やかしてあげる、その言葉通りその後も冬馬は適度に相槌を打ちながら、私が満足するまで話を聞いてくれた。
寫真も見せると、
「可い。似合ってる」
と言ってくれて、子どもたちに言ってもらえるのももちろん嬉しかったけど、やっぱり冬馬にそう言ってもらえるのが一番嬉しくて幸せだとじた。
そのままお風呂にり、冬馬に抱きしめられながらぐっすりと眠った。泣いたこともあってはだいぶ疲れていたよう。お酒の効果もあったからか、夢も見ることはなく睡だった。
そのおかげか翌朝の目覚めはすこぶる良い。
そっとベットから抜け出して窓の方へ向かう。差し込む朝日と聞こえてくる鳥の囀りが気持ち良くて、をばしながら深呼吸をした。
冬馬は遅くまで私の話に付き合わせてしまったからか、まだ眠っている。穏やかな寢顔は今日もかっこいい。
寢室を出て郵便けを覗いて中を取り出してから朝ご飯を作ろうとキッチンへ向かった。
「コーンスープと……トーストでいっか。あ、目玉焼き乗せよう。ハムとチーズあったかなあ……」
冷蔵庫の中から食材を探して、食パンをトースターにセット。
ハムエッグを作って、インスタントのコーンスープをカップにれる。
すると匂いと音に釣られたか、冬馬も起きてきてリビングにってきた。
「……はよ。早いな」
「おはよ。なんかすっきり目が覚めちゃって。もうすぐできるから座ってて」
「ん。さんきゅ」
テレビを付けてソファに座った冬馬は、日課となっている新聞を読んでいる。
その広い背中に飛び込みたくなるけれど、し我慢。
新聞を読む時間は冬馬の仕事にも直結するため、邪魔はしてはいけない。
その間にパパッと作っちゃおう、とフライパンを手に取った。
朝ご飯を食べて、言っていた通り今日はお家でまったりすることに。
昨日の今日でやはりし腫れぼったくなってしまった瞼ではどこも行けそうになかったし、正直言えばありがたい。
報番組でやっているニュースを見ながらああでもないこうでもないと言い合い、莉子からかかってきた電話に出ると何故か途中からふみくんと冬馬が喋り出したり、ぴったりくっついて仲良く一緒にお晝寢してみたり。
久しぶりにこんなにゆっくりできる週末を堪能していると、すぐに外が暗くなり始めてくる。
たまにはこんな時間もいいなあ、なんて思っていると、冬馬が徐にソファに座るように促してきた。
「どうしたの?」
「いいから、ちょっと外座って?」
「うん、わかった」
なんだろう。そう思って言われた通りにソファに腰掛けると、冬馬が私の前にゆっくりと跪いた。
「……冬馬?」
「本當は昨日言おうって思ってたんだけど、しずくがちょっと酔ってたし疲れてただろうからやめたんだ」
「うん?」
「しずく。……俺はしずくとこうやって再會できて、毎日一緒にいられて、今が人生で一番幸せだ」
「……うん。私も」
「高校の卒業式、勇気出してお前に會いに行って良かったって思ってる」
「うん」
「これからも、しずくの話を一番に聞きたいし、しずくの笑った顔を毎日見たい。落ち込んでたら勵ましてやりたいし、一緒に泣いてやりたい。今まで一緒にいれなかった分、これからはずっと一緒にいたい。楽しいも悲しいも苦しいも嬉しいも、全部の気持ちを共有していきたい。これから獨立のこととかでたくさん苦労させるかもしれない。けど、絶対しずくに寂しい思いもつらい思いもさせない。約束する」
「……冬馬」
「あの時は売れ殘り同士なんて言ってごめん。しずくは俺にとって売れ殘りなんかじゃない。俺にはしずくしかいないんだ。……俺を信じてくれてありがとう」
「……お禮を言うのは私の方。冬馬の存在が、今も昔も私をい立たせてくれた。頑張る理由をくれて、本當にありがとう」
ポケットに手をれた冬馬の表が、すごく張しているのがわかる。
「本當は正裝した方が格好がつくんだろうけど。俺たちしかいないから許して?」
「ふふっ、うん。もちろん」
ポケットから出てきた小さな箱から、大粒のダイヤモンドが姿を表した。
「しずく。しずくは俺にとって世界で一番大切で、一生を共にしたい相手だ。……だから俺と、結婚してください」
冬馬からのプロポーズに頷くのは、これで三度目だろうか。
「……よろしくお願いします」
何か私もの言葉を言いたいと思ったけれど、気持ちが高揚してしまってそれしか言えなかった。
私の左手を持つ冬馬の手が、すごく震えていた。
「……張してるの?」
「そりゃあするだろ。斷られたらどうしようって」
「斷るわけないじゃん」
「うるせ。ほら」
言葉と共に嵌められた指。
天井のライトに當てると、キラキラと輝いていて本當にしい。
私にはもったいないくらいの輝きに、深い息がれた。
「……冬馬、ありがとう。私、今すっごい幸せ」
立ち上がった冬馬に抱きつくと、
「俺も。プロポーズけてくれて、ありがとう」
と優しくけ止めてキスをしてくれた。
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