涙がとめどなく溢れるのも気にせず、タクシーを止めるために必死で手を挙げ続ける。

寒さに震えながら、やっと１臺捕まえることができた。

運転手へ告げていたのは、なぜか遙斗の住むレジデンスの場所。

窓ガラスに映る自分の姿がけない。

髪もれているし、顔は涙でぐちゃぐちゃになってる。

こんな狀態で遙斗に會ったら、笑われるだけなのに……。

３０分ほど走ると、レジデンスに到著した。

れた格好のままエントランスにすられなくて、震える手で電話を掛ける。

すぐに遙斗の聲が聞こえ、それだけで安心できた。

「里穂、どうした？」

「は……ると……」

「里穂！？　何があった？　今、どこにいる？」

「……レジデンス……り口……」

「すぐ行くから、待ってろ」

寒さなのか、怖さなのか、理由がわからないまま、全がずっと震えていた。

エントランスから人影が見えて、こちらに駆け寄る靴音が聞こえてくる。

相手を確認しようと見上げた瞬間、大きなに包み込まれた。

溫かく大きなに、力強く抱きしめられる。

しばらくそうしているうちに、聲を上げて泣いていた。こんな風に誰かの前で泣くなんて、子どもの時以來かもしれない。

どうして遙斗の腕の中はこんなにも安心できるんだろう……。

部屋にれてもらい、暖かなリビングのソファーに座らせてくれた。

「今、風呂をれてやるから。ゆっくり溫まってこい」

お風呂の準備をしてくれて、シャワーで全を流した後、のんびりと湯船に浸かった。

久しぶりに遙斗の部屋に戻ったせいか、なぜか懐かしくじる。

用意された下著とパジャマを著てバスルームを出ると、彼が心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「目が腫はれて、ちゃんと開いてないぞ。今にも倒れ込みそうな顔してるじゃないか」

「きゃっ」

いきなり腰に手を回し、抱き上げると、リビングの方へ連れて行かれた。

今は抵抗する気力も力も無い。

こんな時に、何もされたくないのに、どうしよう……。

瞼まぶたをギュッと閉じ、を小さくめていた。

すると、ふんわりとベッドに降ろされ、なぜか溫かい布団の重みをじる。

薄目を開けると、遙斗が傍かたわらに來て、穏やかな視線でこちらを見つめた。

ゆっくりと手がび、まだ濡れたままの私の前髪を優しくで、軽くほぐし整えてくれる。

「何があった？　あの男に何かされたのか？」

「今は言いたくない……」

そう呟くと、遙斗の顔がすぐ近くまで迫ってきた。

反的に構えて目を閉じると、額にらかいものがれ、すぐに離れる。

「どっ、どうして今日は優しくするの？」

「言っただろ。俺は復讐を果たすために里穂の前に現れたんだ。元気の無い奴をイジメるためじゃない。だから、早く休め」

私を気遣う言葉にが熱くなり、遙斗の顔が急に滲にじんで見えた。

泣き顔を見られたくなくて、羽布団の中に急いで潛る。

でも、今夜だけは、このまま広い部屋で一人になるのはちょっと心細かった。

「遙斗……」

「どうした？」

「何もしないって約束できるなら、今だけ隣で寢てくれる？」

「いいよ……」

そう言うと、私の隣にそっとり込んで腕をばし、寢ながら抱きしめてくれた。

どうして今日はそんなに優しくしてくれるんだろう……。

心地良い溫かさと、ドキドキした気持ち。

穏やかなはずなのに、心の奧で何かがきゅんと弾はじける。

このって……。

そう思うと、ますます早まるこの鼓が、聞こえてしまわないかと心配になった。

遙斗にとって、私はからかいの対象なのだから、本気になっちゃいけないのに……。

でも今だけは、そんなことを忘れて、安心できる腕の中で眠りたい。

大きな優しさに包まれながら、いつもより穏やかな気持ちで目を閉じた。